寄せ集めのポーションの価値は?
おはようございます!
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もしかするとそれは意図された運命だったのかもしれない。
私達のギルドが宝の地図を手に入れたのも、そのための準備が思ったよりも進んだのも、そしてダンジョンの中で彼女に出会ったのも。
「《異界の指輪》って知ってるか?」
アーネストが行きつけの酒場で聞いてきた話を宿屋で得意げに話す。
なんでも《異界の指輪》という神話級装備が眠るダンジョンが何処かにあるらしい。けれどその程度の話ならそこかしこで誰でも知っている事だ。
エルクが呆れた様に笑い、エルクの双子の妹のエミーナは溜息をつく。フェルムスは盾の手入れをしながら興味なさそうに流している。
そして私は……あの時どんな顔をしてその話を聞いていたのだろう。もう思い出すこともできない。
「これ……もしかしてアーティファクトじゃないのか!?」
「凄い、これを売れば……!」
「いや――俺達で使おう」
「……アーネスト?」
仕組まれていたのだろうか? 運命だと思わせる様に。
アーネストはアーティファクトの封を解くと一枚の紙を開き中を確認する。
「……異界の指輪……本当にあったのか……」
その時の皆の顔はおとぎ話の冒険者のように、村で話をしてくれたあの冒険者のように、未知の冒険に挑む恐怖感と高揚感が入り混じった表情だった。
かくいう私も、冒険者の多くが一生目にすることのないであろう《神話級》装備が手に入るかもしれないという期待感に目を輝かせていたと思う。
『――リス。アリス!』
不意に強く名前を呼ばれる。
少し驚いて視線を上げると、そこには棚にかけられた「非売品」の札と1本の片手剣が見える。
『どうしたのだ? 先程から何度も声を掛けていたのだが』
「いえ……少し夢見が悪かったから……」
『夢見、夢か。成程、人間は夢を見るのだな。記憶の整理、心の整理、精神の安定などの効果があると聞く』
「……それだけじゃないよ。《悪夢》なんてものもあるんだから」
『覚えておこう』
「それで、何か用事だったの?」
『あぁ。客が来ている』
「えっ!?」
驚いてカウンターの方を見るとそこには少しひ弱そうな学者と言った風貌の男性が苦笑いを浮かべて立っている。
「も、申し訳ありません!」
「あ、いえいえ。何か考え事をしていたんじゃありませんか? 僕もそういう事よくあるんでわかりますよ」
「すみません……少し……」
「気にしないで。それで今日はアイテムの買取をお願いしたいんですけど……」
「はい。どのような物でしょう?」
私はカウンターの中へと身体を滑り込ませると取り繕うように咳ばらいを一つ。
青年は何か思う所があったのか、また苦笑いをすると鞄の中から10本のポーションを取り出した。
「実は、これなんですが」
「はい。では……《買取》をお願いします」
さくら商店、もとい《異界商店》はさくらの固有スキルだが私のように権限を持たせてもらう事で一部のスキル効果を使用することができる。その一つがこの《買取機能》の使用だ。
これによってさくらが不在の間でも問題なく買取を行う事ができるので、機を逃すという事が殆どない。実に便利。
《買取金額算出中……算出完了》
・清浄のポーション 1本10万リム
「清浄の……ポーション?」
「えぇ。実はそのポーション、僕が作ったんです」
「錬金術師の方ですか?」
「はい。ですが研究ばかりで友人が居なくて……折角研究の成果が実って作り出せたこのポーションも置いてくれるお店がないもので。そんな時ここの噂を聞いて買い取ってくれないかなぁと思いまして」
「なるほどです……清浄というのはどんな効果なんですか?」
「簡単に言うなら呪いに強い効果を発揮すると言えばいいかと思います。だけど呪いだけじゃなく、精神汚染、毒や麻痺などの肉体汚染などにも効果があるんです。本来なら数本持ち歩かなければいけないポーションをひとつにしてみた、と言えばわかりやすいですね」
錬金術師はボサボサの頭を掻きながら効果を教えてくれる。
彼は特に自慢げに語るわけではないけれど、その言葉には自信が溢れているのを感じる。
それもそのはず。本来効果の違うポーション同士は掛け合わせられないと決まっている。通常の回復ポーションに毒や麻痺を解除する効果はつけられないし、解毒ポーションに麻痺治しの効果は重複しない。
簡単に説明しているけれど、この男性はある意味で《アーティファクト》に匹敵するようなアイテムを作り出してしまっていることに気が付いていないのだろうか?
しかし、それにしても1本10万リムは高価だ。
今は《次元蜥蜴の鞄》があるせいで、皆ポーションを複数本持つなんて普通になっている。そんな状態で複数の状態異常に効果のあるポーションを作り出したくらいで、個人が作成したものが1本10万リムでは誰も買おうとは思わないだろう。別々でもそこらで100から500リムで買い揃えてしまえる訳だし。
そうなると、メインの効果は「解呪」だけど……それも少し高いけどポーションがある以上はだからどうした、と言われてしまうかもしれない。
ではなぜ《異界商店》は10万リムという価格を出したのか、そこが気になる。
「ええと……錬金術師さん」
「あ、自己紹介してませんでしたね。僕はガーウェン。ハクサブルムで錬金術師をしています」
「ハクサブルム、ですか」
「はい。もしかして行ったことがありますか?」
「行ったことはありますが長居はしませんでした。冒険者登録の為に……村の近くでしたので」
「おや。では店員さんはアーシェ村の方ですか?」
「そうです」
「そうでしたか。いい村ですよねあそこは。牧歌的で、自然の中にあるから空気も美味しいし山菜を使った料理も最高でした。何よりあの滝! まるで精霊の寵を受けたかのような――」
「あの!」
「あ、失礼しました……つい夢中に」
「いえ、それはいいんですが……こちらのポーション、買取価格は1本10万リムと出たんですが、他に何か効果はありますか?」
「10万!? ま、また高価な……しかし混ぜたのは解呪、解毒、麻痺治し、それから回復くらいで他には何も……」
「そうですか……。すみません、店主が不在なのでこのポーションを1本10万リムで買い取っても良いものかわからないんです。よかったらまた後日に来ていただけませんか?」
「そうですよね、いくら何でも寄せ集めのポーションに10万は……。じゃ、じゃあ5本置いていきますので店主さんが帰ってきたら是非見てもらってください! 鑑定スキルがあれば詳細もわかるでしょうし。また数日後に伺いますから」
「わかりました。でも本当にいいんですか? 5本も預かってしまって」
「えぇ。まだ家に何十本もありますから……。良かったら色々と試してみてください」
そう言うとガーウェンは頭を下げ帰っていく。
私は手元に残されたポーションを傾けると光にかざしてみる。
『おかしな色のポーションだ。今まで見たこともなければ聞いたこともない』
「色々な所を旅したあなたでもわからないなら、私に判る筈もないよね」
『だが不思議な違和感は感じる。恐らくだが複数の効果を混ぜ合わせるために魔力を使った道具を使用しているのだろう。微かに魔力の残滓が視える』
「……本当だ、まるで虹みたいに中を漂っているね」
『――見えるのか?』
「うん。はっきりとはいかないけど」
私はその5本のポーションを木箱に収めるとカウンターの下へ仕舞いこむ。
用事で出かけているさくらが帰ってきたら見てもらわないといけない。次にガーウェンが来た時にはしっかりとお金の話をしてあげられるようにしておかないと。
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驚いたものだ。
本来人の眼には魔力はそう簡単には映る事はない。
だが、スキルや天性の才能をもってすれば魔力を知覚し操る事が可能になるのは魔法使いという存在が証明している。
勿論、魔法使いでなくてもこの世界の人間なら誰でも魔力を操る術を大なり小なり持ち合わせている。だからこそ自然と魔力を感じてしまう訳だが……このアリスという娘は魔力操作に関しては天才と言われたマルカスを軽く凌ぐほどの能力を持っているように感じる。
感情が芽生えた今、あの男の話をするのは非常に胸糞が悪くなるが、マルカスは魔力の操作に関しては世界でも10本の指に入る程の使い手だった。
私が《魔剣ディスペンサー》と呼ばれるのは、魔力を内包し撃ち出すことに特化した魔法剣であるという所が大きいのだが、だからと言って誰でも使いこなせるという訳ではない。だからこそあの男の手に渡り長く使われてきたのだが。
思えば、あの時マルカスが放った魔力斬撃を受けて無事だったというのがおかしいのだ。あの魔力量は身体を真っ二つにしてもおかしくない程の圧縮濃度だった。
本人に自覚はないだろうが、魔力による攻撃を受けた瞬間に魔力で身を守ったか或いは、魔力操作で他者の魔力に干渉したか。
後者ならばそれはもはや人のなせる業ではないとすらいえるが……。
だが、このアリスという少女は、まるで精霊に愛されているかのような異常な程の魔力感知、操作能力を持っている。彼女が魔法を使う所を見た事はないが、恐らくは何か魔法に関するユニークスキルを所持しているだろう。
だがそれとは別に、個体として他の追随を許さない程のスペックを秘めている事に本人はおろか周りの誰も気がついていないのは不思議な事だ。
以前シュバリオン王国の首都で見かけた《聖女》と呼ばれるメス――女性。
一目見ただけでその身に纏う魔力の質、量に一瞬何かが震えるような感覚を覚えたが……アリスからも似たようなものを感じる。
『アリス』
「何?」
『……いや、なんでもない』
「何よ、変な剣ね」
変なのはお前だ。――いや、お前達だ。
と言いたかったが、そんな事を言えば二度と手入れしてもらえなくなるだろうから言わないでおく。感情を理解した今、自己の保身のために敢えて口を閉じるなど造作もない事なのだ。




