いざ、ドワーフの国ガドールへ!
『コチラ1800リムデノ買取ニなりますがよろしいですか?』
「あ、あぁ。お願いするよ」
『ありがとうゴザイマス。……ドウゾ。マタオコシクダサイ』
「ありがとう。……なんだ、最初は驚いたけどちゃんとした店員さんだったんだな」
『恐レ入リマス』
「また来るよ」
『よろしくお願イシマス』
ここ一週間、ブルームにはシフト制でお店の手伝いをお願いしている。元々誰かに追われているという話だったけれど、ダンジョン内に潜伏しているとは考えてもまさかアイテム屋で店員をしているとは思わないだろうね。
まぁでも一応変装の為に鎧の上に鎧を着てもらっている。上からごちゃごちゃと重ねているものだから、見た目では元の姿は想像できない程だ。
「ブルームお疲れ様。少しだけ言葉が滑らかになったねぇ」
『ありがとうゴザイマス。アリス、サクラの接客を見て常に学ンデイマス。デスガ、人ノ言葉トイウノハ非常ニ難解デス。個体ニヨッテマッタク発音モ違イマスシ種族ニヨッテモ互イニ存在シナイ言葉モアリマスカラ』
「そうなんだよねぇ。たまに同じ商品でも呼び方が違ってたりさ、結構迷う事も多いんだよね」
「しかし、ブルームの学習能力の高さは凄いですね。正直に言って初日で仕事を全て覚えてしまった時は自分の存在意義を疑ってしまいました……」
「まぁブルームはそういうのが得意だって事だね。でも苦手な事もあるからそこはフォローしてあげてね」
『アリス。ヨロシクオ願シマス』
「ブルームも私達を助けてくださいね?」
『命ニ代エテモ』
「そ、そんな大げさな!」
それにしても日に日に言葉も動きも人間に近づいているように感じるのは、それだけブルームの性能が高いという事なんだろうけどどうしても気になるところが隠せていない。
初日に壊れてしまった左腕、そこだけはどうしても隠しようがない。
人間なら《エクスポーション》を使用すれば失くした腕でもどうにかなるけど、機械……本人は《アーティファクト》だと言っていたけど、まぁ生物じゃないから効果はないみたいで直すことができなかった。
そもそも《アーティファクト》だとしたら直せる人はもうこの世界に居ない可能性だってあるんだけど、本人はさほど気にしていないのか取れた腕は自室に放置している。
「じゃあちょっとドワフの国へ行ってくるから。ふたりは留守番しててね」
「はい。気を付けて」
『オ気ヲツケテ』
「いってきます」
私は《鉄鬼の庭》へと扉を繋げると外の様子を窺いながら出かける。
理由として、まずひとつは「例の特殊ダンジョンから逃げ出したモンスター」について。でもこっちはある意味で解決してるようなものだと思う。多分、そのモンスターと言うのはブルームの事だ。
店へと訪ねてきた時、ブルームは全身に傷や凹みが沢山あった。本人は戦闘時につけられたものだと言っていた。敢えて聞いていないけどその戦闘というのはドワフの国かエルフの国から向けられた討伐隊によるものじゃないかな。
だからこそ今どうなっているのか情報収集をして問題がない様ならお店以外へも出かけることもできる。流石に毎日お店の中ではつまらないだろうし……。
それともうひとつはホイールを訪ねる事。
伝説級、神話級の一部の装備を修復できるホイールならもしかしたらブルームの腕も直せるんじゃないかと考えたからなんだけど、正直伝えるかどうかは悩んでいる。
何せ彼もドワフの国の鍛冶職人。もし《アーティファクト》に否定的だった場合は最悪ただ隠れ場所を知らせてしまう事になるだけという可能性もある。
彼にはお世話になっているし、出来れば良好な関係を続けていきたいからあまり無理をして伝える必要はないだろうけど。
そんな事を考えている間にもあっという間にドワフの国が崖の下に見えてくる。
ガドールは大きな山々に囲まれた茶色の目立つ国……ではなく、山間の平原に建つ木々の溢れた自然豊かな国らしい。
ドワフ……ドワーフとか鍛冶っていうとどうにも茶色とか灰色ってイメージがあるけれど、エルフもドワフも元は精霊の一族だという事を考えると自然と調和を取りながら暮らすのは当たり前かと納得する。
「いやぁ、しかし大きいなぁ。どこの首都も大きいけど、ここは今まで見てきた中で一番だね。わ! 山にまで街が広がってるし……凄く神秘的だなぁ」
街をぐるりと囲む壁は何処の国とも変わらないけどその規模はかなりのものだ。平原だけでなく、山の一部も切り開いて街を広げているのは今のところここだけだ。
もしかしたらエルフの国もこんな感じで広々としているのかな?
道を歩くのが面倒で崖を飛び降りることにする。幸いすぐ下には真っ直ぐにガドールの市街門へと伸びる道があるし、折角だから早駆けの革靴についてる《長距離滑空》のスキルも試したい。前回のお出かけの時は試せるような場所がなくて使ってないけど、今回はまさにうってつけ! 高さ的には下の道まで40メートルくらいかな? 多分落ちても死なないでしょう。
「……いやぁ、でも流石に少し緊張するなぁ。多少麻痺しているとはいってもこの高さは中々……。よ、よし、それじゃあいざっ!!」
「お、おい! 何してるんだ!? 命を無駄にするな!!」
「う、おおぉ!?」
「あっ!?」
飛び降りようと覚悟を決めた時後ろから急に肩を掴まれる。けど身体は半分ほど前に出ていたから後ろに引かれたことで半回転くるりと回りながら崖下へと落下してしまう。
落ちる瞬間見えたのは驚いたような顔で固まる髭面の男性。どうやら心配して止めてくれようとしたみたいだけど、それが裏目に出てしまったみたい。
そのままの体勢ならしっかりと景色を確認しながらタイミングを計れたのに、この状態だと上を向くような形で周りが全然見えない。
それに思ったよりも「落ちる感覚」の恐怖感が強くて頭が混乱してしまっている。
「おああああ!? えっとえええと! どうすんだっけ!? 何するんだっけ!? ふ、浮遊! あ、ちが! ち! ち! 《長距離滑空》!!」
スキル名を叫ぶと足元が引っ張られるような感じがする。そのまま空中で身体が縦にくるくると回転すると体勢が元に戻る。
足元を見ると早駆けの革靴からキラキラと輝く粒子が溢れ、身体を少し前へと倒すとそちらの方向へすっと滑空していく。
「お、おお~……これが長距離滑空かぁ! 凄い凄い、結構自由に動けるんだ!」
思ったよりも飛距離も出ていて後ろをチラリと見るとさっきまで立っていた崖が随分と遠くに見えた。
その崖の上でポツンと男性が立っているのが見えた。
「あー、悪いことしちゃったな。びっくりしただろうなぁ。まぁでも死んでないから問題ないでしょう!」
強引に自己完結するとそのままガドールの門へ向かって滑空していく。
もう少し高い場所から飛べばそのまま壁を越えて入れるかもしれないけどそうなると不法入国になるし、丁度今くらいの高さだと空の散歩を楽しみながら城門前くらいで降りられる筈。
さて、今のうちに《地図》を作ってこの辺の地理を確認、後は……のんびりとガドールの街並みでも眺めていようかな?
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「あー、行っちまったか。なんだ、あんなスキル持ってたのかあの子」
男は先程までの慌てた表情をすっと消すと冷静に、そしてつまらなさそうに呟く。
それはあまりにも不気味な光景で、とてもうっかり人を殺しかけた人間の態度とは思えなかった。
この場にさくらが居たら間違いなく殴りかかってしまうだろう適当な態度で彼は大きなため息をつく。
「はぁ~……折角死にたがってる奴の手伝いをしてやろうと思ってたのに。ありゃただ単に飛んでいく機会を伺ってただけか」
『下らぬ事をしている暇があるなら早く街へと入れ。任務中だという事を忘れるな』
「はいはい。ちっ、しかし面倒な事だ。たかがモンスター1匹の為に俺が駆り出されるなんてな。そんなこたぁ下っ端にやらせりゃいいんだ」
『残念だが皆お前よりも階級が上がってしまったよ。今はお前が一番の下っ端だ』
「げぇ!? マジかよ……。まぁた同期に置いて行かれるのか俺ァ」
『真面目にやらぬからだ。何故王もお前のような不心得者を傍に置くのか』
「まぁそりゃ俺が一番かわいいからよ。ダメな子ほどかわいいって言うだろ?」
『知らん』
髭面の男はつまらなさそうな顔をすると腰に下げる剣を小突く。
先程まで誰と会話をしていたのか、そこにはその男以外の姿は見えない。
男は髭を掴んで数本を抜くと崖から放り投げる。
「だがまぁ、その前に仕事ができた。いい所で面白い人間に会ったもんだなぁオイ。これで仕事が遅れてますって情けねぇ報告を仕事を完了しましたって報告に変える事が出来るぞディスペンザー」
『さっさと帰りたいものだ。お前が耳長の国でメス漁りなどしていなければ今頃ゆっくりできたものを』
「うっせぇよ。ほらさっさとダンジョンに行くぞ」
『チッ』
「舌打ちすんな!」
男は独りで喋りながら来た道とは反対へと向かい始める。
その先は上級ダンジョン《鉄鬼の庭》へと続く道が伸び、そして今そのダンジョンには《さくら商店》へと続く扉が開いている。
男は楽しそうに鼻歌交じりで歩いていく。
その頭にははっきりとさくら商店のカウンターに座る銀色の鎧の姿が浮かんでいた。




