迷い人は銀色の鎧
おはようございます。
昨日雨の中をびしょ濡れでバイクで帰宅したものですから、見事に風邪をひいてしまいました。
なんとか本日分を書き上げることができましたので更新させていただきます……!
どうしても話が更新できない場合は設定など投稿してお茶を濁したいと思いまうので、どうぞよろしくお願いします!
「……って事らしいよ」
「物騒ですね。場合によっては避難や木霊する咆哮の使用も必要だと思うんですが……そんな発表一切ありませんね」
「もしかすると意図的に隠してるとか? いや、まぁないとも言い切れないけどそんな国なのかな?」
「エルフの国とドワフの国は互いには国交を開いて友好関係にありますが、特別人間の国と親しい訳ではありません。ただあくまで人間も相手をするというだけで、利害の一致がなければ動かない事もあります。今回がそう言った事情に当てはまるのかも? と考えるとぞっとしますね」
「結構閉鎖的――あーいや違うなぁ、第一として何を優先しているのかがよく分かるって事だね」
「はい。ホイールさんも彼のお弟子さん達も人間に対して友好的ですし、あくまで国の方針がそうなのであって個人の感情は別問題ですよね」
「ドワフもエルフもよく見かけるもんね? だから国同士も仲良しなのかと思ったよ」
「アスタルスさんならきっと上手く関係を結んでくれますよ」
開店準備をしながらふたりで雑談をしていると、アリスがこの世界の知識について色々と教えてくれる。彼女はどこかの村で育ったという割には非常に博識でこの世界の事をよく知っているからわからない事がある時はアリス様頼みで大体解決するんだよね。
そう、例えば見たことのない姿、服装、種族のお客さんが尋ねてきても大体アリスが対応してくれるから助かっちゃう。
扉の札を「営業中」に変えるとアリスは棚の整理、私は買い取った商品の値付けを行っていく。
最近では色々と噂が広まったのか、顔なじみのお客さん以外にも一見さんや紹介されてきたというお客さんも増えてきて大変盛況なんだけど、ダンジョンという特性上、やはり単価の安いポーション系が人気でお客さんは多いけど売り上げはそこそこ、なんて日もあるね。
けどアークが旅に出てからというもの、アリスに負担が集中している時が多くなってきてしまい、新しい店員を雇うべきかどうかを思案しているんだけど……どうしても一歩踏み出すことができない。
私のスキル《異界商店》のレベルも毎日使っているせいか既にLv35を超えていて、店自体は中型店舗仕様になっているから部屋自体は余っているし誰か住み込みで働ける人がいないだろうか。
「いやぁ、けど男性は……アークが居た時は何故か安心感があったけどアリスを異性と住ませるのも…………でも力仕事もない訳じゃないし……うぅむ」
「さっきから何をブツブツと言ってるんですか?」
「いや、うん……こっちの話」
アリスにはまだ相談していないけど、本心ではアークが帰ってくる様なことがあればいつでも働けるように『枠』は残しておいて欲しいと思ってるんだろうなぁ。
考え事をしながら買い取った短剣を何度も抜いたり収めたりしていると扉がカラコロと音を立てて開く。
「あ、いらっしゃ――え?」
アリスが驚いたような声を上げる。
何だろうと振り返ると、扉から半身を覗かせてこちらを窺っている人物の姿が見えた。
そこにいたのは、全身を銀の鎧で覆ったアリスと然程変わらない背丈のお客さん? で、何やら店内を驚いたように見回している。
「いらっしゃいませー。どうぞ中に入って。うちはアイテム屋だよ」
私が声を掛けると一瞬びくりと震えるが、何かを決心したようにおずおずと警戒しながら中に入ってくる。
その姿をよく見ると、所々傷がついていたりへこんでいたり、左手もダラリと垂れ下がり上手く動かせないようだった。
全身を覆う銀の鎧も、全身鎧と言うにはシンプルで何て言うか……そう、アンドロイドロボットのようなスマートさというか、親しみやすさを感じさせる。
「ええと……何か探してますか?」
試しに問いかけてみるが、そのお客さんは店内を見ているばかりで返答はない。あんまり凝視するのも悪いかなと考えて、アリスに目で合図を送ると腑に落ちないと言ったような顔をして棚の整理に戻る。
「じゃあ何か必要な物があったら声かけてくださいね」
そう伝えると私も買取品の整理に戻る。
とはいっても完全に目を離すのも心配だから横目で様子を窺いはするんだけど。
さて困った。
銀の鎧が来店してから3時間。私とアリスは部屋の隅で棚の中を見て微動だにしないその全身鎧を見て「死んでいるのでは?」と不安に駆られている訳だけど……どうアプローチしていけばいいやら。流石の私の《呪い》とやらも喋らない相手へのポジティブな対応は教えてくれないみたいだね。
「ねぇアリス」
「はい」
「どう思う?」
「そう言われても……」
「人間、だよね?」
「姿形はそうですが……でも私にはわかりません」
「そっかぁ……アリスならわかるかなって思ったのになぁ」
「今ほど自分の知識だけの頭を恨んだことないです」
アリスも私もカウンターに座って全身鎧を眺めている。
あれから何人も他のお客さんが来たけど、どうやら皆あそこに壊れた鎧を飾っていると思ってるみたいで「あんなポンコツどうするんだ?」とか言いたい放題言って帰っていく。
それでも一切微動だにしない姿は、もうなんていうか本当に鎧なんじゃないかと思ってしまう。
「どうしよっか……」
「もうお昼ですからね。流石に目の前で食事をするというのも……」
「そうだね。一応声かけてみる?」
「……なんだろう、嫌な予感がします」
私は銀の鎧の傍へと近寄ると声を掛ける。
「あのぉ、これからお昼ご飯なんだけど、一緒にどうですか?」
「?」
「うわっ動いた――いや、なんでもないです。よかったらあっちの椅子にどうぞ」
「……」
私が指さすと銀の鎧はその椅子とアリスが座る姿を交互に見る。暫くじっとアリスを凝視するとその場からぎこちなく歩き椅子へとその腰を落ち着けた。
「座った……」
アリスが少し感動したように呟く。私もこの銀の鎧がここへ来た時以来の動きに思わず安堵感を覚えてしまう。
「よし、じゃあ食べようか。アリスは何がいい?」
「何でもいいですよ」
「じゃあはい、焼肉弁当と私特製サラダ」
「ありがとうございます」
「ええと、銀のお客さんは何食べる?」
「?」
私の問いに鎧は小首をかしげて応える。
どうもうまく伝わってないみたいだなぁ、もしかして言葉が通じないって事なのかな?
「ええと、食事!」
「さくら、そのお箸を使う動作はさくらだけです。こっちのフォークがいいのでは?」
「あ、そっか。こうやって……食事、食べ物! ん、美味しい」
身振り手振りでお弁当を食べて見せるけどいまいち反応が悪い。
どうしたもんかとアリスと顔を見合わせると銀の鎧は席を立ち買取品を置いてある商品棚を指さす。
「ん……? 欲しいものがあるの?」
「ええと、あれは先日さくらが買取してきた《宵闇の魔法鉄》ですね」
「なんだ、最初から欲しいものの前にいたのか」
棚から《宵闇の魔法鉄》を取り出すと手渡す。
「はいどうぞ。2300万リムですよ」
「ジー」
「……ジー?」
突然銀の鎧の腹部が開くと《宵闇の魔法鉄》を中へと押し込む。
「えぇ!?」
「窃盗!? ――では、なさそうですね……」
銀の鎧はそのまま椅子へと戻り腰かけるとじっとしている。
「え、商品お腹に入ってるんだけど……」
「どういう事でしょうか?」
「さぁ……あれ、なんかちょっと青くなってない?」
銀の鎧を見ているとその表面が少しずつ青みがかっていく。しばらく眺めていると銀色は一部分を残して全てが鮮やかな青に変わっている。
しかし相も変わらずじっとして椅子に座っている姿は、ただ色味が変わった置物の鎧にしか見えない。
「綺麗な青色です。魔法鉄には大量の魔力が含まれますからその魔力を吸収してこんな色味になったんでしょうか?」
「いや、冷静だねアリス。それよりも私はあの魔法鉄がどこに行っちゃったのかが心配なんだけど……」
「うーん……」
私達の話など聞いていないかのようにじっと座っている鎧が何を思ったのか僅かに首を動かす。
視線……があるのかわからないけどこちらを見ているという事だけは辛うじてわかる。でも果たしてそこにどんな感情があるのかは流石に読み取れないのが少し不気味だね。
「しかし相変わらず喋りませんね?」
「アークだったら……もしかしたらこの人ともコミュニケーションが取れたのかも」
「多分もっと早く商品に行きついてますね」
『……アーク』
「うお!?」
「さ、さくら、なんて声を」
「喋ったよ!」
『……シツレイ、シマシタ。イマダ全機能の回復、ニハ至ラズ。魔力補給ノタメ止ムヲ得ズ魔法鉄ヲイタダキマシタ』
「えらく片言ですね」
「いやぁ……なんか、こういう感じの喋り方するのってもしかして……」
『現在当機ハ所属不明ノ一団ニ追ワレテイマス。一時的ナ避難場所ノテイキョウヲオ願イシタク思イマス』
只の置物から喋る鎧へとグレードアップしたのはいいけど、どうやら誰かに追われているらしい。不用意に匿ってこっちに面倒な事が起こったらたまらないけど……このボロボロの姿を見て「出て行って!」とは言いにくいんだよなぁ。
「当機……とは何でしょう?」
「自分……って事だね」
「さくら、わかるんですか?」
「うーん」
『対価トシテ労働力ヲ提供サセテイタダキマス。オ願イデキマスカ?』
「わ、わかったよ。取りあえずしばらくここに居てもいいから……アリスも構わない?」
「私は問題ありませんよ。悪い人? ではなさそうですし」
『感謝シマス。サクラ、アリス。当機ノコトハオ好キニオ呼ビクダサイ』
「え、名前を忘れてしまっているんですか?」
『登録サレテイマセン』
「じゃあアリス、何かいい名前考えてあげて?」
「私ですか? ……うーん、それじゃあ……」
アリスはじっと喋る鎧を見つめる。
きっとアリスの事だからいい感じの名前を付けてくれるに違いないよ。
「じゃあブルームーン……ブルームというのはどうでしょうか?」
「おぉ、ブルームか。悪くないんじゃない?」
「ブルームーンというのは《青銀》という魔法鉄の事で、滅多に手に入らない希少鉱石です。その鎧を拝見するにどうやら表面に《青銀》を使用しているようですからそこから考えてみましたが……」
『ブルームーン。ブルーム、良イ名称デス。デハ当機ハコレヨリ《ブルーム》ト呼称イタシマス。ヨロシクオ願イイタシマス』
ブルームは椅子から立ち上がると頭を下げる。
その瞬間、今まで垂れ下がっていた左腕が床へと落下し派手な音を立ててめり込む。
左腕があった場所ではバチリと電気が走るような光が見え、数本のケーブルも露出している。
「……やっぱりロボじゃん!!」
私が叫ぶと同時にアリスは気絶し椅子から転がり落ちた。




