どっちのもの?
「テメェらが言いがかりつけてきてんじゃねぇか!」
「またこれだ。いい加減話にならないな」
「何がいいてぇ!?」
「だからさっきから言ってるだろう! 最初に攻撃したのは我々でアイテムも我々のものだと!」
「こっちの攻撃が先に当たってただろうが!」
え……っと、どうしてこんな事になってるんだっけ。
あぁそうだ。確か《鉄鬼の庭》を探索していてたまたま冒険者同士が揉めている場面に出くわしたんだった。
よりにもよって一本道のど真ん中で喧嘩してるんだもん。邪魔だったらありゃしない。
「あのぉ~」
「誰だお前は!」
「後にしてくれないか! 今言いがかりをつけてきた悪徳冒険者の対応で忙しいんだ!」
「ほう? 自己紹介とは恐れいるぜ! さぞ高名な詐欺師なんだろうな!」
「ハハ! 流石に口が上手いね! そうやって色々な所で言いがかりをつけているんだろう!」
「そうよ! そもそもあんた達がいきなり反対から攻撃してきたのが原因じゃない!」
「だぁかぁらぁ! こっちが先に攻撃を仕掛けたんだって! そしたらそっちが横から攻撃したんじゃないの!」
言い争っているのは口の悪い茶髪の冒険者と質のいい装備を纏った金髪の冒険者。
そしてその後ろからそれぞれのパーティメンバーらしき赤い髪の女性とピンクの髪の女性が援護する形で参戦してきている。
そして面白い事にお互いのパーティにはもうひとり男性と女性の冒険者がいるけど、どちらも呆れたような顔をして雑談に耽っている。
「あのー! 邪魔なんですけど!」
「回り道して行けばいいだろうが!」
「ここは僕たちの狩場だ! 他へ回ってくれ!」
喧嘩してる割りにはいきぴったりだよ。
いい加減イライラしてくる。
「いいから早く通してってば! そもそも回り道したくてもできないんだって!」
「うるせぇ!! 邪魔すんじゃねぇ!!」
「少し黙っててくれ!! まずはこいつと決着を――」
「ああもう!! うるっさぁーーーーい!!」
私は大声で怒鳴るとダンジョンの壁をフルパワーで殴りつける。その瞬間、魔力で覆われた破壊不可能な壁に無数の亀裂が走り辺りを大きく揺らす。
さっきまで罵り合っていた冒険者たちは目を見開き金魚のようにパクパクと口を動かして面食らっている。……でも一番驚いたのは私なんだけどね。
「お、あ……」
「……あのさぁ! ダンジョンの一本道のど真ん中で喧嘩して人に迷惑をかけるのはどうなのかな! こっちにはあなた達の喧嘩なんてどーでもいいんだよ! 表に出てからやれバカ野郎ども!」
「だ、だって……」
「だっても何もない! 人の迷惑を考えられないんならダンジョン探索なんてやめちゃいなよ!」
自然とふたつのパーティが左右の壁へとへばりつく様にして道が開く。
言い争っていたふたりの冒険者の顔を睨みつけるとその間を先に進むために歩いていく。
「あれ、あんたさくら商店の」
「ん?」
咄嗟に名前を呼ばれて振り返ると、さっきまで相手のパーティの男性と雑談していた剣士の女性が手を上げる。
「この間はどうも」
「あ、武器買ってくれたお姉さん! どうしたのこんなところで?」
「いや、それがさぁ。冒険者ギルドでパーティ組んでダンジョン探索してたんだけどこの有様でさ。面倒だからあっちのパーティの盾騎士とパーティ組んで他のとこ行こうって話してたんだよ」
「何!? 途中で投げ出すつもりなのか!?」
「あんたらがくだらない事で喧嘩してるからでしょうが。ったく……。どっちのパーティもレアアイテムが出たから揉めてるだけで、他のパーティがいないのか確認もせず魔法ぶっぱなしたのはお互い様でしょ。だったら捨てちゃえばいいじゃんそんなもん」
「馬鹿言うな! レア鉱石だぞ!? 捨てられるはずがないだろう!」
「だったらあたしらは別へ行くよ。時間の無駄だ」
「じゃあお前たちの報酬はナシだからな!」
「良いよ別に。なぁ?」
問いかけられた盾騎士の男性も頷く。
成程ね、レアアイテムが出たからこんなに揉めてるのか。そりゃそうか、ただの鉱石アイテムくらいでここまで喧嘩にはならないよね。
それならさっさと幕引き出来る様に手伝ってみようかな。このままだと殺し合いになってもおかしくないし。
「じゃあ私が手伝ってあげるよ。どっちが言いがかりか、どっちが敵を倒したのか」
「どういうことだい? そんな事がキミにできるのか?」
「どっちも魔法で攻撃したんだよね? 魔法使いは……赤い髪の人とピンクの髪の人か」
私はふたりの前に歩み出るとじっとその顔を見る。
「な、何よ」
「何する気なの?」
「じゃあまずあなたに質問。魔法攻撃でゴーレムを倒しましたか?」
赤髪の魔法使いを指さすと簡単な質問をする。
彼女は一瞬何を言われているのか理解できていなかったみたいだけど、理解が追い付いたのか激しく頷く。
「も、勿論! 私の魔法が先に届いたんだから!」
「ふむふむ……じゃあ今度はあなただよ。魔法攻撃でゴーレムを倒しましたか?」
次にピンクの髪の魔法使いに質問をする。
彼女も力強く頷くと少し大きな声で答える。
「そうよ! 間違いなく私の魔法だわ!!」
私は頷くと《異空の指輪》の中から《魔法の墨石》と紙を取り出すと胸元へと手を当てる。
「答えて真贋のネックレス! 嘘をついているのはどっち?」
私の声に反応してスター・ゲイザーが淡く発光を始める。
《魔法の墨石》を紙に押し当てるとスター・ゲイザーの導き出した答えを印字していく。
《真贋のネックレスの能力による判定結果。どちらも真実である》
紙をみると確かにそう書かれている。
この使い方は最近気が付いた。真贋のネックレスは真実を見抜く能力を持っている訳だけど、この能力は「どちらが先に倒したか教えて?」というような質問には答えてくれない。だが「あなたが倒しましたか?」というような質問に相手が答えた場合はその答えを判定して真実を教えてくれる。
つまりYESかNOで答えられる質問なら必ず答えてくれるって事なんだよね。正直物凄く便利な能力だと思う。最初の質問も「どちらが先に倒した?」という質問に彼女達が「私よ」「いや私よ」と答えればどちらが真実かがわかるんだから汎用性はかなり高い。
「あぁ、つまり彼女達は嘘をついてないって事だよ。つまり魔法は同時にゴーレムに当たって同時に倒したことになるね」
「な!? そんなバカな!?」
「けど嘘じゃないんだから仕方がないよ。まぁでも、そういう偶然はあるんじゃない? ゴーレムは固いけどHPは低いし」
「それを信じろってぇのか!? お前がそいつらの仲間じゃないって証拠はねぇんだぞ!?」
「神話級装備が信用できないなら勝手に殺しあってなよ。私からすればどっちの味方をしても得になる事なんて何もないんだから」
「し、神話級……」
「まぁもし本当に殺しあうつもりならどっちも叩きのめして衛兵に突き出すけど? そこで死ぬまで主張してたらいいじゃん。いつまでもいつまでも子供みたいに駄々捏ねてれば?」
「だがどうすればこの話は決着がつくんだ……。もうここまでこじれたんだ、今更どちらも譲り合うなんて無理だろう?」
金髪の冒険者のいう事も最もだ。事実が分かったからと言って「はいそうですか」とはいかないだろうね。
「だったら最初からパーティ組んでたって事にしたらいいんじゃない?」
「は?」
「だからさ。どっちかが手に入れようとするから揉めるんだよ。同時に倒してどちらにも権利があるんだったら同じパーティでしたって事で売っちゃえば全員お金が手に入るじゃん」
「それじゃあ稼ぎが少なくなるだろうが!」
「稼ぎのために殺しあうわけ? いつまでもつかない決着を探して不利益被りたいの? そんなの馬鹿らしいよ。そんな時間でさっさと狩りした方がい絶対にいい。それこそ剣士の彼女と盾騎士の彼の方がよほど大人だよ」
「……はぁ。確かに、言われてみればくだらないな。モンスターを狩りに来て人間相手に剣を抜いては意味がない。いいだろう、今回はキミたちに譲ろう。これ以上は時間の無駄だ」
金髪の剣士が髪を掻き上げならうんざりしたように言う。
ピンク髪の魔法使いは不満そうだけど金髪の剣士がリーダーを務めているからなのか特に言葉に出したりはしない。
「……待てよ」
「なんだい、まだ何かあるのか?」
「半分だ」
「何?」
「だからそこの商人の女の言う通りにしてやろうって言ってんだよ! 売った金を半分くれてやるってんだよ!」
「いらないよ。一度決断したことは曲げたくない」
「あぁ!? 人の好意も受けられねぇのかテメェは!」
「キミこそ! 散々喚き散らしておいて今更どういうつもりだ!」
まぁた始まった。
折角丸く収まると思ったのに、これじゃあまた元に戻っただけじゃないか。中立の立場だったふたりも呆れて肩をすくめている。
あーあ、面倒くさいな。
「ぶっ飛ばすか……」
「よしキミの好意を素直に受けよう」
「あ、お、おう。じゃあさっさと外に出て……」
私が目を細めて毒づくとまるで手のひらを反すようにふたりの意見が合う。
一度決断したことは曲げないんじゃなかったのかな?
「……じゃあ私が買い取ってあげるよ。値段に不満があるんだったら他で売ってもいいから」
「あ、あぁ。お願いするよ。いいだろう?」
「おう……」
彼等は私の肩越しにダンジョンの壁を見ている。やっぱり面倒な時はこれに限る! なんて悪役みたいなことを考えながらレアアイテムを拾いスキルを使用する。
《買取価格を算出中……完了》
・宵闇の魔法鉄 1個 2000万リム
「じゃあこれ2000万リムでどう? 少しは高値だと思うけど」
「十分だよ。他だと1800万リム位だろうし」
剣士の女性と盾騎士が頷く。
彼女達に釣られる様にして茶髪の剣士と金髪の剣士もカクカクと頷く。
私は彼らにお金を渡すと《宵闇の魔法鉄》を異空の中へと仕舞う。
「すまない、ひとつ聞いていいか?」
「いいよ?」
その様子を興味深そうに見ていた盾騎士が初めて口を開いた。
「その指輪は《次元蜥蜴》の革で作った鞄とはまた違うものか?」
「あぁ、これは《異空の指輪》って言ってね。神話級のアイテムなんだ」
「また神話級か……恐らくだが、その篭手も靴も、それから腰の短剣も相当の業物ではないのか? いったいどこからそれだけのアイテムを手に入れたんだ?」
いつの間にか全員が興味深そうに私と盾騎士の話を聞いている。
何と伝えたらいいものか、と悩んだけど誤魔化しても意味がないし素直に伝える。
「《錯乱の洞穴》って知ってる? そこで見つけてきたの」
「そうか……なら我々には無理だな」
「うん、少し難しいかも。それにあれから何度も行ってるけど宝箱が一度でも復活した形跡はないみたいなんだよね」
「特殊ダンジョンの宝箱は再配置されないと聞いたことがあるが、噂は本当だったのかもしれないな。……そうだ、特殊ダンジョンと言えば、最近エルフの国の近くにあるダンジョンからモンスターが1体飛び出した話は知っているか?」
「え、本当? 聞いたことないよ」
「それなら僕も聞いたよ。今ドワフ国、エルフ国ではその話題で持ちきりらしい。大規模な討伐隊を組んで行方を捜しているとか」
「けどよぉ、探知魔法に優れるエルフが見つけられないんじゃ相当のモンスターか、それともとっくに死んじまってるかじゃねぇのか?」
「十分に考えられるね。モンスターがダンジョンから外に出て生きていられた事例は殆どない。しかし特殊ダンジョンから飛び出したとなればその法則が当てはまるのかすらわからない」
どうやら今ドワフの国もエルフの国も大騒ぎらしい。ダンジョンに籠っているとやっぱり情報に疎くなっちゃうなぁ。
それとも人間の国にはまだ情報が入っていないのか、意図的に隠されているのか……その可能性だってあるよね。
けどまぁ逆を言えば、ダンジョンに籠っている限り外の事はあんまり関係ないとも言えるね。
以前のドラゴンみたいな例もあるかもしれないけど今度こそ私とは関係ない話で少しだけ安心する。




