聖女と吸血鬼は全てを知っている
16日から投稿してきた話はこの先の為にどうしても必要なお話でした。
が、敢えて全てを書いていないので謎なまま終わってしまって申し訳ありません……。
次回からは普通に「さくら商店」がメインの話に戻りますのでよろしくお願いします!
ある所に稀代の天才と称される双子の神官が暮らしていた。
姉も妹も小さな頃から知識でも力でもどちらが劣るという事もどちらが優れているという事もなく、どちらも全く同じように評価されてきた。
それが彼女達《双子の神官》の特徴でもあり、授かったスキルの効果でもあったのだ。
彼女達が授かったのは《双極の明星》というユニークスキルでお互いの能力を共有するという稀なもの。姉妹はお互いに全てのスキルを共有し次々と能力を伸ばしていき、僅か16歳にして国の最高位である《神官》の称号を得たのだ。
国々が覇権を賭け争う荒れ果てた時代に、彼女達双子を含む8人の神官は己の国の為に幾度となく他国の侵略から民を守り戦った。
そして彼女達が神官位を得てから2年、突如世界中にダンジョンと呼ばれる謎の迷宮が現れる。
ダンジョンからは見たこともないモンスターが溢れ出し戦いに疲れた人々に牙を剥いた。
当初は自国の戦力だけで押しとどめていた国々も次第に摩耗し疲弊していく。そしてこの緊急事態に全ての国が戦争破棄の協定を結びこの異常事態に対処するべくダンジョン攻略を開始する。
そして最後のダンジョンには当時の最大戦力である八神官や六騎将、カストルの狂戦士等多くの戦士が参加する予定だったが、溢れ出るモンスターの勢いはとどまるところを知らず攻略組と防衛組に別れて挑む事となった。
もしこの時、全ての戦力を攻略に参加させていたら……。
今のこの世界の姿は存在しなかったのかもしれない。
「姉は私に言ったわ。ここで世界を守りなさいと。世界のバランスを保ち二度と人々の命が無意味に失われることのないようにしなさい、と」
「そして今に至るのですね?」
「そう。だけどそれも今日でおしまいね。貴方が……いえ、あの商人が彼らの魂を連れ帰ってくれたおかげで私の役目ももう終わり」
「……今までありがとうございました。これからこの世界は新しい道を歩み始める事になります。全てが良い方向に進むとは言えませんが、もし多くの民の命が無意味に失われる様な事になれば、今度は私が魔王となります」
錦の髪の女性が決意に満ちた眼でじっと誰かを見つめている。
そんな彼女をまるで子供でも見る様に穏やかに見ているのは何時ぞやに何処かで誰かと話をしていた赤いドレスの女性。しかしその姿ははっきりとはせず、老婆のようにも見えたり少女のようにも見える。
「年々力が弱くなるのを感じていた。まさかこんなに早くお役御免になるとは思いもしなかったけど……それだけ人の世界が早く流れているという事かしら」
「彼女が現れてから加速度的に早くなっています。それが悪い事なのかどうか、私は見極めるつもりです」
「そうね。だけど私は所詮一番初めの堰でしかないわ。それはしっかりと理解なさい」
「はい。ありがとうございます」
「……思えば短かったのか長かったのか。それすらももう曖昧ね。お酒の味も貴方やかの王との語らいも、そして世界の美しさも。もう感じることはできなくなるけれど、ようやく私も人の流れに戻る事が出来るんだから、今度はその中から人の命の光を見守る事にするわ」
「最後に……いえ、なんでもありません」
「……私の愛おしい子供よ。この世界の変わりゆく様をしっかりと視よ。そしてお前も変えていくのだ。私達が変わった様に、お前達もまた変革の時を迎えるのだ。生きるのだぞイゼルナ」
赤い魔女はその姿を老婆に変えると錦の髪の女性に優しく語り掛ける。
そしてその姿は月の光に溶け込むようにして消えていく。
女性は部屋の壁際へと近付くと布の覆いを外しそっと窓を開く。
そこからは空高く昇る8個の美しい光の珠が、嬉しそうにじゃれあいながら天の星々の中へと消えていくのが見えた。
「さようなら。お元気で」
後には静かに空を見上げ涙を流すイゼルナだけが残されていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あら、早かったわね。もう出て行ってしまうなんて」
月の光を反射する湖の傍で黒髪の女性がひとり舞っている。
まるで誰かに捧げるようにひらりひらりと踊りながらその胸を優しく包み込む。
「いいのよ。貴方とは長い付き合いだったけれど、こうして優しい気持ちで送り出すことができるんだから……。それに残されたのは何も寂しいという気持ちだけじゃないわ。この力も、私という人格、そして身体もしっかりとこの世界に残る。私はそれを感謝しなきゃいけないの。貴方こそ、今度はしっかりと妹と話をするのよ? ……それじゃあまたいつか会いましょう?」
女性は踊りをとめるとその手を空高く掲げため息をつく。
「ふぅ……行ってしまったわ。……今日の月は酷く悲しい色をしているのね。やっぱり私は赤が好き」
少し寂し気に呟くと、彼女はその身体を無数の蝙蝠へと変え完全に姿を消してしまう。まるで初めから誰もいなかったかのように静寂だけを残して。
けれど、風に揺れる湖と月の光はそこにひとりの女性がいた事を知っていた。
悲しい吸血鬼の女性がひとり、《葬送の舞》を舞っていたことを知っているのだ。




