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七人の神官と七本の錫杖

「さくらさん……この装備……」


 値段を聞いて失神していたミリアナが意識を取り戻すと、預けた《七怨霊の錫杖》を持って困ったような顔をしている。


「どうかしたの? ミリアナ」

「これどうやら装備品の一部みたいです。これだけではいくら鑑定しても詳細が見られません」

「えぇ!? そんな装備あるの!?」

「いえ、聞いたことがないですが……ただどうやら他に6つ、この装備の類似品があるみたいで」

「6つ……って言った?」

「はい。七怨霊という単語と装備品の説明に『7つ全てを集めよ』っていうヒントがありますね」

「ド、ドラッコボードかな……?」


 ドラッコボード。七つ集めることで願いが叶う石膏ボードを巡って主人公達が戦うバトル漫画。何故石膏ボード? という疑問が噴出しあっという間に打ち切られたけど今でもカルト的な人気があるとか。

 まぁ要するに他の6つを集めないと1個の装備品にならないっていう仕様なわけだね。


「……じゃあまだそのモンスターいるって事か」

「確かに錫杖にしては少し短いですよね」

「言われてみれば。短剣より短いもんね……。よし、じゃあまた似たようなの手に入れたら持ってくるよ」

「わかりました。お待ちしてます。多分次は倒れないと思いますし……」

「あは! ありがとうね! じゃあまたねミリアナ」


 ミリアナにお礼を言うと《錯乱の洞穴》へと向かう。

 取りあえず一度帰ってアリスに事情を伝えておかないといけない。

 しかし、7つのうちの1つを買い取って150億? 7つで1050億リムって……誰が買うの? 破産しちゃうよ私が!


「さて、じゃあ急いで奥へ――何だろう、ダンジョンの雰囲気がおかしい、気がする」


 ダンジョン内へと入ると明らかに空気が重いように感じる。普段から少しじっとりとしているけど、そういう湿気とかじゃなくてなんていうか漂う魔力が重いと言うか。


「取りあえず魔眼を――」


『エ……ス……エ…………』


「なんだなんだ!?」


 どこからともなく声が響く。魔眼を発動させて辺りを見回してみるけど魔力の流れが不明瞭に所々渦巻いてるだけで他に気になるところが見当たらない。


『スク……スクエ……』


「どういう意味?……スクエ……救え? って事?」


 段々と声が近づいてくるとその魔力の濃さが魔眼ではっきりと見える。

 そして奥の通路からそれが姿を現した時、あたりを漂っていた魔力の流れが突風のように吹きつけてくる。


「わっ!? 風……魔力の波が……!」


『スクエ……ワレラ……スクエ……』


 私から10メートルほどの距離に姿を現した7人の――違う、6人しかいない。

 6人の神官服を纏った髑髏が赤く光る12の眼孔をこちらへと向ける。


「うわこわ!?」


『ワレラ……スクエ……ワレラ……ガ』


 目を凝らすと頭上に名前が表示される。やっぱりこれ魔眼の能力だったのか。

 『怨霊神官(ゴーストプリースト) Lv???』と書かれている。


「レベル不明!? こっちゃレベル1だよ!」


 『スクエ!!』


 突如、ゴーストプリーストがその身を屈めるとバラバラの方向に動き始める。余りの人体を無視した動きに一瞬驚いて怯んでしまったけれどボヤっと見てられる速度じゃない。


「ええと! 全員同時に倒さなきゃいけないんだっけ!? もうこれしか手がないじゃん!!」


 咄嗟に腰に手を回すと迫るゴーストプリーストに軽く背を向ける。


破魔の短剣(デモンキャンセラー)!!」


 腰の鞘から短剣を抜き放つと同時に洞窟中を真っ白に染め上げる程の魔力光が発生する。光はゴーストプリーストを飲み込むようにして包みこむとその姿を崩していく。

 

『オ……オォォ!!』


 然程時間を掛けずに6人全てが光の中へと消えてしまった。

 なんか、以前よりも光量が増えたと言うかなんというか……放射する魔力光の量が半端じゃない。

 確かに以前の破魔の短剣(デモンキャンセラー)もそれなりの魔力光を放っていたけれど攻撃自体はレーザーのような細い光線が追従する形で行っていた。

 けれど修理した後の破魔の短剣(デモンキャンセラー)はなんて言うか全方位攻撃? みたいな感じになっている。凄い、凄いチート。


「って言うか眩しい!」


 背中向けても眩しいとか、これちょっと使う場所が限られるなぁ。


「ゴーストプリーストは……流石に消滅しちゃったか」


 対アンデッド特攻であるデモンキャンセラーの魔力光を受けて完全に消滅してしまったのかもうどこにも彼らの気配はない。

 眩しさでぼやけていた視界がはっきりとしてくると、足元にアイテムがドロップされているのが見えた。


「まさか……お、おぉ? 出た! 《七怨霊の錫杖》だ!」


 そこには2本目となる《七怨霊の錫杖》が転がっていた。

 手に取ると《異空の指輪》の中で最初の1本と反応しあっているのを感じる。どうやらミリアナの言ってたことは間違いないみたいだ。

 でもどうしてこのダンジョンに現れたんだろう? 元々は《渇望の霊園》でウェッジに目撃されてアムネアが倒したはずのゴーストプリーストが《錯乱の洞穴》に出現する理由……もしかして最初の1本を追ってきてる?


『スクエ……スクエ……スクエ』


 まるで私の考えを肯定するかのように再度ゴーストプリーストが姿を現す。しかし今度は全部で5人しかいない。

 まるで《七怨霊の錫杖》をひとつ落とす毎にひとり消えているみたいだ。


「と、とりあえず……倒せることがわかったんだからあと5回、倒してみますか!」


 私が短剣へと手を回すとゴーストプリーストは歓喜するように赤く光る目を細め、隊列も何もなく我先にと襲い掛かってくる。

 まるで早く倒されたがっているようだ。


「任せたよ、デモンキャンセラー!」


 再度ダンジョン内に魔力光が輝いた。




「お、おぉ……なんかフラフラするぞ?」


 あれからぴったり5回戦闘して、今そこには全部で6本の銀の棒が転がっている。

 デモンキャンセラーの魔力光の放射を5回連続で使用して何とか凌ぎ切ったけれど、最後の方は出現までのタイムラグが殆どなかった。

 それに連続してデモンキャンセラーを使って気が付いたけど、どうやら魔力を消費しない代わりに体力を消費しているらしい。


「取りあえず、全部を回収して……あー、眠たい……よし完了……ちょっとだけ寝ようかなぁ」


 意識が身体を離れていく。久々に()()()()()って感覚を味わったなぁ……。

『オイオイ、お前死ぬ気かよ』

「……やぁ久しぶり」

『なぁにが久しぶりだ。ここにはそう簡単に来られちゃ困るんだよ』

「仕方がないじゃん、どうしてかここに来ちゃうんだから……でも、前に比べて随分と明るくなったね。()()()()


 辺りを見渡すとそこはまるで()()()()()()()()()()()()()()()


『あぁ。上を見てみな』


 空を見上げるとそこには真っ白く輝く大きな月が一つ、まるで太陽のように輝いている。

 それなのに周りはちゃんと夜で星だって見える。


「随分とおかしな……」

『まぁ例によってここの事は忘れてもらうがな。……っと、そろそろ戻らねぇと死ぬぞ』

「なんで?」

『魔力がゼロになるとどうなるか知ってんだろ? 魔力ってのはあの世界ではどんな人間も持ってるが、お前には魔力がねぇから体力でそれを補ってる。つまり、体力が底を尽きるとどうなる?』

「なるほど。通りで体力高めの設定になってるわけだ」

『いや、それは設定ミスだな』

「――あ、なんか意識が引っ張られる」

『身体が目覚めようとしているな。起きたらすぐに飯を食えよ、マジで死ぬぞ』

「――じゃあね」

『あぁ、じゃあな』

「……ダルぅい……」


 なんか夢を見ていたような気がするけどやっぱりはっきりしない。

 ただ猛烈にお腹がすいてることだけは確かだなぁ。


「よし、串焼きにしよう。歩きながら食べられるし……」


 取りあえず一度お店に帰ろう。思ったよりも体力を消耗してるし、何よりなんか精神的に疲れちゃった。

 しばらくダンジョンを少し進むとダークウッドの扉が見える。

 疲れているからか、その扉が無性に安堵を感じさせるのは、私がそこを家だと認識しているからなのかな? 懐かしいなぁ家かぁ。

 

「なぁんて、私自分の家に帰ったことすらないんだけどね! 寧ろ家を建てたって親から聞いてもその家を見たこともないよ!」


 ため息をつきながら店の中に入る。

 なんだか独り言が口癖になってきちゃったな。


「ただいまぁ……あぁ疲れたぁ」

「おかえりなさい。サクラさん」


 そこには椅子に腰かけ優雅にお茶を飲む錦の髪の美しい女性が私の帰りを待ち構えていた。

 なんだろう、物凄く面倒な事に巻き込まれそうな気配がしてきたんだけど。

 そんな私の心とは裏腹に、彼女はにこりと笑って見せた。

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