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真冬の恐怖体験は突然に

「やべぇって! ほ、いや本当だって!」

「えー、だって他の人からはそんな話聞かないよー?」

「まだ目撃情報すくねぇだけだって! だからマジで気を付けとけよ! 戸締りしろよマジで!」

「わ、わかったよぉ。そっちも死なないでよね? ウロウロしてて顔なじみの死体とかみたらヤだから」

「もうしばらく潜らねぇわ! 他のダンジョンいくわマジで!」


 彼はウェッジ。最近よく来てくれる冒険者のひとりでこんな軽いホストみたいな喋り方だけど実力はかなりのものらしくて、何と剣士の上級職であるソードマスターなんだとか。

 ソロメインで活動する冒険者なんだけど、パーティでも十分に戦えるオールマイティーな器用さと初心者の面倒見もいいから人気の冒険者なんだって。そうは見えないけど。

 彼は今、里帰り中のルート上にある色々なダンジョンに顔を出しては冒険者のサポートをしているらしい。


「じゃあな! マジで気をつけろよマジで!」

「はいはーい。そっちもねぇ」


 彼が気をつけろと口酸っぱく言っているのは《渇望の霊園》という上級者ダンジョンで未確認のネームドモンスターが現れたという話だ。

 なんでもそのネームドは7体で1体のモンスターらしく、1体を倒してもすぐさま再生し復活するとかで基本1対1を得意とするウェッジには相性が悪く撤退する羽目になったと悔しがっていた。

 しかもそのネームドモンスターはかなりの強さだったらしく1体倒すのにかなり苦戦を強いられたと言うんだけど……。


「どう思うアリス?」


 アリスは棚の前で小首をかしげると腕を組み考えるような仕草をする。

 

「そうですね……ウェッジさんほどの冒険者が危険だと言うなら素直に信じてもいいと思います。けど、問題は信じるとするならその7体のモンスターの危険性を無視できない事ですよね」

「だよね……。あの人上級職でしょ? そんな人が倒すのに苦労するモンスターとか私だったら死にそうなんだけど……」

「可能性は否定できませんね。さくらのスキルを突破してダメージを与えてくる可能性もあります。実際、以前に蜥蜴のネームドモンスターにダメージを与えられたと言ってましたよね?」

「うん。だから私もそろそろ身を守る防具が欲しいんだけど……いまいちビビっと来ないんだよね」

「ビビっと?」

「いや、まぁ。これだぁ! っていう装備がないと言うか」

「そういう事ですか」


 アリスは納得したように頷くとカウンターの横に置いてある椅子に腰かける。


「けれど《渇望の霊園》と言えばアンデッドモンスターで有名な場所です。もしかしたらさくらに声がかかる可能性もありますね」

「うーん……正直言って古の幽鬼王(エルダーリッチ)の一件以来ちょっと苦手意識が」

「ひとりでは危険かもしれませんね。まぁそうそう商人を頼るなんてことないと思いますけど」


 私は黙ってカウンターの木目を指でなぞると、そうだろうか? と考える。

 商人を当てにしてダンジョン攻略するパーティがあるくらいだしなぁ。


「失礼するわ」


 ふたりで暇を持て余していると不意に扉が開く。

 扉の隙間から滑り込むように店内へと入ってきたのは以前どこかで会ったことがある女性だ。


「お久しぶりね、商人さん」

「アムネアさん?」


 そこに現れたのは豊満な胸を持ち上げるように腕を組んだ黒髪の女性、『鮮血のアムネア』と呼ばれている魔法使いの女性だった。

 しかし、相も変わらず……でかい。


「覚えていてくれたのね。うれしいわ」

「インパクトがあったので」

「あぁ、これね」


 アムネアは微笑むとゆさりと手で揺らして見せる。私とアリスはその部分に一瞬釘付けになるがすぐに頭を振り咳払いをして用件を尋ねる。


「んんっ! そ、それで今日はどのような御用ですか?」


 尋ねられたアムネアは少しつまらなさそうに唇を尖らせると、胸の谷間から何やら棒状のものを取り出す。


「なぁっ!?」


 アリスが顔を真っ赤にして驚いているが当の本人は涼しい顔だ。

 一体なんちゅうところに《次元蜥蜴の鞄》を挟んでるんだこの人は。


「これね、実はダンジョンでドロップしたんだけど買取をお願いできないかしら?」

「……え、えぇ。大丈夫ですよ」


 その棒状のものを受け取るとスキルを操作してアイテムの買取価格を表示させる。


《買取価格算出中……完了しました》


・七怨霊の錫杖 150億リム


「はぁっ!?」


 買取価格を見て考えるより先に声が出てしまう。150億リムなんて神話級って言っても遜色ないレベルじゃん! 一体どこでこんな装備を――っと、でも価格と名前だけしかわからないなぁ。効果と等級がわかってないのは鑑定レベルが低かったからかな?


「え、ええと……」

「おいくらかしら?」

「ひゃ、ひゃくごじゅうおくリム……です」

「ひゃくおひゅ!?」


 アリスが驚きすぎて舌を噛んだ。

 だって普通に考えて買取に持ち込まれるレベルの装備じゃないもんね。ぶっちゃけ来年の《ガネッサ商人祭》でオークションに出してもいい商品だもん。


「こ、これどこで手に入れたんですか?」

「ここよ。このダンジョン、私のホームグラウンドなの」

「……さくら、もしかしてさっきウェッジさんが言っていた7体で1体のモンスターと関係あるのでは? だって名前が……」

「あら、もう情報を持ってたのね。流石マスター・シリウスが目を掛けるだけの商人、情報収集もお手の物なのねぇ」

「あぁいえ、さっき偶然……っていうか、やっぱりそのモンスターだったんですか? 7体で1体の?」

「えぇ。1体ずつ倒してもすぐに復活しちゃうから7体同時に倒したらすぐに終わったわ。少し呆気なかったわね」

「ソードマスターが手を焼く相手が呆気ないですか……」

「うーん。怖い」


 ニコニコと笑うアムネアがなんだか得体のしれない生き物に見えてくる。万が一御機嫌を損ねてしまったら私達なんて一瞬で爆破させられるんじゃないかな?


「え、ええと、それで買取は……」

「えぇ。お願いするわ。私あんまりお金に興味ないからこれで暫く適当に暮らせるわね」

「適当とかって数字じゃないですよ。下手したら一生暮らせます」

「私見かけによらず大食漢だから食費がかかるのよね。どれだけ持つか心配だわ」

「何食べたら150億使えるのか知りたい……」

「確かにそうねぇ」


 思わず突っ込みを入れてから顔が青ざめる。爆破されたりしないか心配です。


「じゃ、じゃあ150億リムを……ええと、《次元蜥蜴の鞄》経由で良いですか?」

「お願いね」


 そう言うと胸元から小さな財布サイズの鞄を取り出す。

 それを受け取ると異空の中へと一度放り込み中に金貨を詰めて取り出す。


「どうぞ」

「あら、もう? 本当に便利ねその指輪」

「は、ははは。便利ですよ本当」


 アムネアは受け取った鞄を胸元へと仕舞いこむと引きつったように笑う私を見て不思議そうな顔をする。

 

「あぁ、そういえば近々貨幣の単位が変わる事は知ってるかしら?」

「はい。来年からだそうですね」

「何でも金貨以上、銀貨以下の貨幣を追加するそうね。誰が考えたか知らないけれど高額取引をするとその意味がよくわかるわ。金貨150億枚って常軌を逸してるわよね?」

「んー……確かに。どうやって持ち運ぶんだよって話ですよね」

「アナタが見つけた《次元蜥蜴の鞄》のお陰で持ち運び自体は楽になったけど、数えるのは相変わらずだものね」

「本当ですよ。滅多にないですけど買取で1億リム超えたりするともう本当一日仕事ですもん」

「最近は高額アイテムが増えているのが問題ね。新しい貨幣でどれだけ変わるか楽しみだわ」

「ですねぇ」


 彼女は意味あり気に私の顔を見つめると何故か首を傾げて笑う。

 なんだろう、何かあるのかな?


「それじゃあ今日はこれでお暇するわ。また何か見つけたら持ってくるわね」

「あ、よ、よろしくお願いします。ただちょっとだけ時間空けてもらえると……」

「そうね。流石に150億リムも出した後に高額商品の買取はね」

「死んじゃう」

「ふふ、そんなに簡単に良いアイテムが出たら苦労しないわ。それじゃあまた」

「はい、またー」


 帰っていくアムネアを見送ると扉を閉めため息をつく。


「さくら……お金は大丈夫でしょうか……」

「うぅん。まぁオークションで稼いだお金はあるし、最近はずっと黒字続きだったから問題ないと思うけどね。……ただこの装備は早く売った方がいいような気がするんだよね。金銭的な意味で」

「私もそう思います。ではミリアナさんの所へ行きますか? 再鑑定してもらわないと売れませんし」

「そうだね。じゃあちょっと《錯乱の洞穴》経由で行ってくるよ。セイバーンのお土産も持っていかなきゃだし」

「わかりました。気を付けてくださいね」

「はーい」


 扉を《錯乱の洞穴》へと繋げると早速ミリアナの所に向かう。

 久々にここに来たけどやっぱり何もないし何もいない。そして誰もいない。


「相変わらず人の気配がないなぁ。まぁ辛い思いしてまで実りのないダンジョンなんて誰も来ないか」


 独り言を呟きながらダンジョンを入り口に向かって進んでいく。

 ここもミリアナの所に向かうのに頻繁に来ていたせいか、自然と道を覚えてしまって今では地図なしで辿り着くことができる。

 そうこうしていうるちにあっという間に出口へとたどり着く。今日の晩御飯の事を考えながら出口を抜けようとした時、ふと首筋にピリっと電気が走るような感覚があった。


「ん? なんだろ……寒くなってきたからかな?」


 見渡して異常がない事を確認するとダンジョンを抜けミリアナの住んでいる村へと向かう。

 もしこの時に引き返しておけば何かが変わっていたのだろうか? もしあの時に装備を買い取りしなければどうなっていたのだろうか?

 その時の私はこれから私の身に起こる恐怖の体験をまだ知らないでいた。

 


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