パーティーまであと半日と少し
おはようございます。
いつも多くのアクセス、ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます。
特に誤字に関しては漢字や言葉の抜け、適当ではない言葉の使い方など多くの部分で指摘を頂き感謝しております。
ブラウザの問題もあるのかもしれませんが、入れたはずの文字がバックして消えていたり、消したはずの文字がそのまま残っていたりすることもあってご指摘、修正は本当に助かります!
なるだけ誤字報告に頼りっきりにならないように時間のある時は入念に確認をしてまいりますので、どうぞ今後ともよろしくお願いします!
「イゼルナ様、セレナが戻ってまいりました」
「そうですか。間に合いましたね」
「急な呼び出しでしたから……悪い事をしましたね」
「ですが、今回は彼女の力なくしては問題の解決に至りませんから」
鏡の前に腰かける女性、イゼルナは静かに微笑むとその美しい銀の髪に櫛を入れる。まるで金糸のように光を反射する髪を撫でつけながら鏡の中の自分自身をじっと見つめている。
「まさか私の代でまたこの儀式を行うなんて……。喜ばしい事ですが安寧とは程遠いと感じてしまいますね」
「致し方ありません。先王は王妃とお世継ぎを相次いで亡くされ、心労からかご自身も早くに崩御なされてしまったのですから。一時的にとはいっても義弟のアレクス様が国の柱として玉座を守ってくださったことに感謝しなければ」
「そうですね。しかしご子息である三王子はそんなアレクス様のご意志を妨げようとしてしまうなんて……悲しい事ですがアスタルス様が居られなければ誰も気づかなかったでしょう」
「ならば此度の儀式は本当の意味で祝いとなりましょう」
「私もそう思います。さて、少し早いですが城へと参りましょう。セレナをこちらへ」
「はい」
イゼルナの侍女を務めるリューシュは深々と頭を下げると部屋を退出する。
その部屋の中には鏡の前に座るイゼルナだけが残っている筈であった。
「いつ見ても美しい錦の髪だな、イゼルナ」
鏡越しに後ろを見るとそこには赤いローブを纏った老婆がひとり映り込む。その姿はイゼルナの祖母にとても良く似ていた。だからと言って彼女は祖母ではない。イゼリナの祖母は彼女が5歳の時にこの世を去っているからだ。
そして彼女が現れたと同時に部屋の中に仄かに香水の匂いが漂い始める。
しかし今日はその香水に混じって酒の匂いも強く感じる。
「お久しぶりです。赤き魔女……もしかして酔ってらっしゃいますか?」
「うむ、ちとセイバーンの倉庫から拝借した酒が強くてな。すまんな、酒臭くて」
「いえ、わたくしも昨晩は緊張から少し嗜んでしまいましたから」
「はは、聖女ともあろうものが。……いや、聖女でもあるが人でもあったなぁ」
「大変美味しゅうございました。ところで今日は……」
「あぁ。キリンダニアの事だ。今日の《聖別の儀》でしっかりと見極めて欲しい。血筋のみに囚われず己が力を信じ判断せよ」
「かしこまりました。聖女の責任果たしてみせます」
「頼むぞ」
そう言うと老婆は忽然と姿を消す。
イゼルナはひとつ深呼吸をすると意図的に口角を上げてみる。その顔は年々姉に似てきていると自分でも感じていたが、こうして微笑むともう見分けがつかない。
うっすらと記憶の彼方にある姉の顔は、今では鏡に映る自分の顔と区別がつかないのだ。
「姉さん……」
顔に微笑みを貼り付けたままイゼルナは今日も《聖女》を演じるのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「えー、ではお揃いになられましたでしょうか? 本日はさくら商店特別臨時馬車をご利用いただきありがとうございます。運転手を務めます花扇さくらと申します。これより当馬車は王都シュバリオンに向けて出発いたしますが、走行中は窓から顔を出したり身を乗り出したりしないようにご注意ください。また気分が悪くなられましたお客様は、座席下に袋を用意しておりますのでそちらをお使いになってください。ではどうぞ快適な陸の旅をお楽しみください」
さくら商店経由で王都近くのダンジョンに出た私達は外に出ると王都に向かうために準備を始める。私は異空の指輪から馬車を取り出すとダンジョン前の広場に設置し、目の前でポカンとしている3人を丁寧に案内する。
しかし誰も突っ込みなど入れてくれるはずもなくただ馬車を見て唖然としている。なんだかひとりで滑り倒しているようにしか見えなくて恥ずかしい。
「ちょっと! 何か言ってよ!」
「いや、それよりこの馬車……どうしたんですか?」
アリスはちょっと信じられないと言ったように馬車を指さす。
「だからホイールさんに――」
「そうじゃなくて! この馬車どう見ても大型馬車ですよね? しかも貴族用の。これは普通は貴族しか購入できないものですよ。一体どうして……」
「ホイールさんの家に放置されてた中古の馬車を改造してもらってそれを買ったんだけど……」
「なるほど。鍛冶師とはいっても国のお抱えとなると一応扱いは貴族になるのか」
「放置、ですか。1台5億リムはくだらない大型馬車を……スケールが違いすぎますね……」
「ところで早く乗らないのか? 私は大型馬車なんて初めてだから楽しみで仕方がないんだが」
アリスの疑問もよそにアークはすぐに納得し、エリィに至ってはずっと目を輝かせている。
そうそう、私はこういう反応を期待していたのだよ。
「では中へどうぞ。あ、そこ引っ張ると階段が出るからね」
「お、おぉ凄いな! これが馬車の中か……まるで部屋じゃないか!」
「ほ、本当に。これなら長時間乗っても疲れませんね」
「ドワフ製らしく堅実な造りだ。素晴らしいな。それに不快な軋みもなく自然な乗り心地だ」
「アークはわかってるねぇ! 車輪周りは一番気を使って改修した部分で、高速走行中の路面の突き上げを6割以上改善してるんだ!……ってホイールさんが言ってたよ」
「そうか。だがいい馬車だ」
さて、お喋りはここまでにしてそろそろ出発しよう。私達は夕方から開かれるパーティーにお呼ばれをしているんだけど、一応お城に行くんだから格好はちゃんとしていかないとだろうし、どこかでドレス? 的な物を買っていかないとなぁ。
「では出発いたしまーす! ゴーゴー!」
言葉とは裏腹に少し速度を落として移動を開始する。前回みたいにアリスが具合を悪くしてもいけないしこのダンジョンからシュバリオンまではそこまでは慣れていないからね。
馬車の往来も多いし、万が一事故を起こしてもいけないから。
1時間ほど街道を走っただろうか、無事にシュバリオンが見える所までやって来ることができた。
二度目だけど遠巻きに見ても美しいその街並みはまさに『王都』と呼ぶにふさわしいものを感じるなぁ。セイバーンもかなり大きなところだったけどどちらが優れている、劣っているという訳ではないと思う。
「すみません、こういう者なんですが……」
私は以前もルドルフさんと入った要人用の門へと回ると自分の冒険者カードを差し出す。
馬車を引いてきた私に驚いた兵士は警戒しながらも登録された要人名簿と照らし合わせる。
「お、お嬢ちゃん。その大型馬車を引いてきたのか?」
「はい。装備品とスキルのお陰で全然平気なんですよ」
「凄いなぁ、後ろにはどこかの貴族様が乗ってるのかい?」
「いえ、うちの従業員が」
「は?」
「はい、大丈夫ですよ! 一度城門前の詰め所にお越しくださいとのことです! お気をつけて!」
「はーい。あ、それじゃあ」
「あ、あぁ……」
何故か引きつった笑顔を向ける兵士に会釈をすると私は街の中へと入っていく。
いやしかし相変わらず人が多い。街の規模もあるけど、それ以上に訪れる人が多いせいなのか以前よりも街を行く人が増えている気がするね。
「お城は……うん、あれだね」
街を一直線に貫く大きな通りの先にお城の全景が見える。そこを目指していけば嫌でもお城に辿り着けるのは今の私には便利だ。
しかし、街中で馬車を引いて歩いていると周りの人達からは何とも言えない視線を向けられる。明らかに『変なモノ』を見るような目だなぁ。いっそ馬の被り物でもしてみようかな?
「そこの少女よ! 待ちたまえ!」
お城までもう少しという所で前方から馬に乗ってやってきた騎士に呼び止められる。
馬はセイバーンでよく見る《早駆け馬》、そしてその人物は豪華な鎧に身を包み兜を被らず美しいブロンドの髪を風になびかせている。
まるで「キラリ」「キラン」という擬音が後ろに見えそうなその人物は、颯爽と馬から飛び降りるとまるで大切な友人を亡くしたような悲しみを湛えた瞳で私に近付いてくる。
「あぁ……このような小さな子にこんな大型馬車を引かせるとは! 一体どこの貴族だ!」
「え?」
「安心しなさい。この私、リオン=ウィル=ファルクマージが君を救って見せよう! さぁ姿を見せたまえ!」
そう叫ぶと馬車の扉を叩く。
今度は私が唖然としていると扉を開けてアークがその姿を現す。
瞬間、自信満々の顔をしていたイケメン騎士はその表情を歪ませ真っ青になる。
「えっ!? あ、これは……!」
「どうされた騎士殿? この馬車はそちらの女性――我々の雇い主であるさくら商店の店主の持ち物で我々は単なる従業員だが……」
「そんな!? 店主自ら馬車を引いているというのか――ですか?」
「あのぉ、何か問題が……」
「い、いえ!? すみません何か勘違いがあったようで!! 申し訳ありません!! どうぞ先をお急ぎください!!」
「はぁ……」
やはりか……やはりこの姿だと強制的に馬車を引かされる可哀そうな少女に見えるのか?
けどそれを聞こうにもイケメン騎士は頭を下げたままその場で固まって動かないし、なんだか面倒だからそのまま置いてきちゃったけど問題なかったのかな。
「お! お城に到着でーす」
「失礼いたします! さくら商店ご一行様でお間違いないでしょうか?」
「あ、はい。こんにちは、さくら商店です」
「お待ちしておりました。まだ開催まで時間はありますがどうぞ城内へお入りください」
「あの、それなんですけど、服を買いに行きたいんで馬車を停めさせてもらいたいんですが……」
「ご安心ください。ドレス等もこちらに用意しております。必要な物がありましたら城内から使いを出しますので、まずはゆっくりとお休みになられてください」
「うーん、じゃあお言葉に甘えて」
私は兵士に案内されるがままお城の中庭へと入っていく。
馬車を待機所へと停めるとアリス、アーク、そしてエリィを連れて部屋へと案内してもらう。
「な、なぁ。なぜ私が一緒なんだ?」
「いやぁ、乗っているのは全員従業員ですって言っちゃったから……」
「いや場違いだろ!? どう考えても!」
「こちらです。どうぞお入りになってください」
通された部屋は広々とした豪華な部屋で、明らかに貴族が泊まるようないい部屋という印象だ。
ベッドなんか見たことないくらいふかふかしていて見ただけですぐに眠りに落ちてしまいそう。
「……では男性の方は別室が用意されておりますのでこちらへ」
「あぁ。ではさくら、アリスまた夕方に会場で」
「え? うん、じゃあまた後で?」
アークは苦笑いをすると何故か私とアリスの肩をポンと一度叩いて出ていく。
不思議に思ってその姿を見送っているとアリスも肩に手を当て小首をかしげている。
「では後ほど着付けにメイド長が参りますので、入浴後に準備の方をよろしくお願いします。それまではゆっくりとお休みください」
ここまで案内してくれた兵士は深々と頭を下げると部屋を後にする。
私達も軽く会釈をすると3人だけになった部屋の中で同時に溜息をつく。
「はぁー……意外と緊張するね」
「そうですね。私お城になんて来たことありません」
「いや! それより私だ! 何故途中で降ろしてくれなかったのだ!?」
「だから、途中で会ったイケメン騎士のせいでタイミングを逃しちゃったんですよ!」
「なんなんだあいつは……! いきなり文句をつけてきたかと思ったらアークの顔を見て引きつるし……今更出ていける雰囲気ではないじゃないか!」
「……そういえばこのお城の人も何となく恭しかったですね。招待されているのでわからなくもないですが、それにしてもなんというか凄く畏まられているというか」
「ん、確かに。少し変だったね」
「ふたりとも、数時間もしないうちに準備するんだろ? 取りあえず休まないか? 私も今更外に出られないから警護役として同行するよ。まぁ連れてきてもらった礼だな」
「そうだね、お願いしようかな? じゃあまずはのんびりして英気を養いましょ!」
私達は装備を脱ぐと少し躊躇いながらもベッドへと腰を掛ける。
「お!? おおおぉ……!」
思わず声が出るほどの柔らかさは、病院のベッドや宿屋のベッドとは大違いだ。確かにこれなら豆が何粒か入っていたらわかっちゃうかも……。
それからはゆっくりと女3人他愛のない話をして時間をつぶす。途中アリスが寝落ちして自然と全員昼寝することになったけど。
欲しいものは入り口の兵士に声を掛ければメイドさんが持ってきてくれたから特に困る事もなかったし、出てくるお茶もクッキーも最高に美味しくてお代わり自由。
あぁ、お姫様になったらきっとひと月で体重が倍になっちゃうなぁなんてふたりも笑っている。
あとはパーティーが何事もなく終わり、適当に話をして帰るだけなんだけど……果たしてどうなることやら。




