いい天気の日には出会いたくない人達
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「はーしれよはしれー やーまーこーえてー」
アンパルから出発して1時間、道中速度を抑えて走りながら呑気に歌を歌っている訳だけど快晴の青空でとてもここちがいい。
周りには誰もいないし居ても聞こえないだろうから結構大きな声で歌っているけど、これだけ天気がいいなら一度はこうやって大声で歌ってみたかったんだよね。
ただ世の中には音痴程外で大声で歌いたがるという呪いがあるらしいから私ももしかしたら……と考えると自然と声が小さくなっていく。でも歌うのはやめない!
「うーみを――うん? なんだろ?」
山道を抜け森に入ってすぐ緩やかにカーブになっているところに何やら沢山の人が見える。
目視で20人弱、森の中は比較的道が整っていて広いけれど流石に20人も人がいると通行止めかと勘違いしてしまう。
そういえば以前も森の中で大型馬車がひっくり返って通行止めになってたなぁなんて事を思い出す。
少しずつ距離を詰めると段々とその人だかりが一体何なのかというのが見えてくる。
「うーん……盗賊かなぁ」
この世界は兵士がよく巡回しているとはいえ、山道やこういう森の中というのは行商人なんかは襲われやすいスポットだと聞いたことがある。
地図を確認してみるとここは街同士の中間地点、巡回が一度通ると次に通るまで時間がかかる場所だとすぐにわかった。
しかし道を少しでも走っていればこの手のトラブルにはよく出くわすなぁと思わずため息が出る。
この世界に来た時に感じていた「まったくこの世界の人間は」という気持ちが言葉になってうっかり出てしまいそうになるが仲間の顔がちらつきその言葉をぐっと飲み込む。少なくてもそんな人ばかりじゃないって知ってしまったから……。
そっと足音を消して森の中から近づくとふと鼻に鉄臭さが入り込んでくる。
最悪の事態も想定して茂みの中から外を覗くと原因がすぐにわかってしまう。嫌な想像はよく当たるって本当らしい。
「酷い……」
旅の商人だろうか、男性が2人、女性が2人縄で縛られ横たわっている。
男性2人は斬られたのかおびただしい量の血だまりに沈んでいるが、まだ息はあるようで空気が抜けるようにか細く呼吸をしている。
そしてその周りでゲラゲラと下品な笑い声をあげなら荷馬車を漁る男達……盗賊達は戦利品の話と誰が一番初めに女を抱くかという話で大盛り上がりだ。
なんだろう必要以上にイラっとする。
「オイ見ろ! 次元蜥蜴の鞄がこんなにあるぜ!? 全部捌けりゃ暫くは酒には困らねぇなぁ!ちと見た目があれだがなぁ」
「だったら俺たちで使っちまうか? 今その鞄を使ったかっぱらいが流行ってるらしいじゃねぇか! シノギにゃ困らんぜ!」
「そんな事より早く順番決めようゼ! お頭からは女は好きにしろって許可もらってんだからよぉ! おらぁもう、し、辛抱たまらんぜ!!」
「ギャハハ! バカ、どうせ死ぬまで俺らで使うんだからそんなのいつでもいいんだよ!」
あー、虫唾が走るなぁ。
なるほどなるほど、彼らからすれば《次元蜥蜴の鞄》も《女性》もたいして違いはないのか。
あくまで自分達の戦利品でしかない、と。
「取りあえず助けないと死んじゃうね」
私は深呼吸をすると一足飛びに茂みを飛び出す。
「何だ?」
耳のいい盗賊が私の気配を察知して振り返るけどただ振り返っただけ。
そのまま通りすがりに右頬を殴りつけるとその身体が空中で数回転して地面へと落下した。
「おい何はしゃいで――」
それでも彼らは狩りの余韻に浸っているのか仲間が一人地面に打ち倒されたくらいじゃ取り乱しもしない。それが余計に腹が立って次に振り返った男の左頬を殴りつける。
そのまま速度を上げ荷馬車を取り囲む盗賊達を昏倒させていく。
「ぶぎゃ!?」
「ヘブッ!」
「なん――ヒュッ!?」
「げぼぉ!!」
全部で21人いた盗賊達は、一瞬にして人質に一番近い3人だけになった。
その3人もまるで何が起こったのか理解できず、ただ茫然と私の姿を見ているだけ。
「……あーすっきりしない。てんで弱いんだもの。まぁ偉そうに大勢で商人襲って喜んでる下衆なんてその程度なのかな?」
「なん、何だテメェはぁ!!」
「うっさいな。静かに喋ってよ」
「何しやがった……何で一瞬で20人もいた俺達の仲間がやられてんだ……!」
「装備品の力借りてる私が言うと気に入らないだろうけど、それだけあなた達が弱いって事でしょ? ま、例え神話級の武器を持っていても伝説級の防具を着こんでいても私は絶対に負けないけど」
なんだか少しだけおかしい。自分でも感情のコントロールができない。
どうやら私は今『怒っている』んだと思う。
この世界に来てから薄れていた怒りという感情が、まるで今思い出したかのようにどんどんと溢れ出てくる状態。困ったことに冷静になろうとしても感情の制御ができていない。
「テメェ調子に乗るなよ! こっちには人質が――」
「その言葉返すよ。調子に乗るなよ三下。あなたが人質を殺す前にあなた達3人を地面に沈める事なんて簡単なんだよ? それと私今機嫌が悪いから言葉選びは慎重にしてね。一応手加減はしてるけどもっと怒らせて身体のどこかが吹き飛んでも文句言わないでね」
盗賊が後ずさる。
目の前にいるたった16歳の小娘に本気で怯えているというのが気配から伝わってきた。
それが更に私の怒りに火をつけていることを彼らは知らない。
「弱い相手には凄んで見せて、強い相手には怯えて見せる。なるほど、獣らしくていいね! けどね、そこらの獣の方があなた達よりはよっぽど知性的だよ」
その言葉に盗賊達の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
獣と罵られたことに腹を立てたのか、小娘にバカにされたことが我慢できなかったのかその両方なのか。わからないけれど彼らにとっては余程プライドを傷つけられたのだろう。
ひとりが手に持った血濡れの剣を振り上げ巨体に物を言わせて襲い掛かってくる。
その後ろで吹き矢のようなものを構えたひょろ長い男が下卑た笑みを浮かべて筒を口に咥える。
そして最後の髭の生えた男は人質の女性をまるで盾にでもするかのように引きずり起こそうとしている。
「本当、腹が立つ。意味もなく人を傷つける人は」
私は最速で剣の男の顎を殴りつけるとそのままの勢いで吹き矢の男の腹を蹴り飛ばす。
そして人質を取ろうとした男が勝ち誇った笑顔をこちらに向けた時、既にその視界には早駆けの革靴の靴底が映っていたんじゃないだろうか。
「ぶっとべ!! さくライ〇ーキック!!」
顔面を蹴り飛ばされた男は、何度か地面の上を水きりの石のように跳ねるとそのまま森の木を薙ぎ倒しながら森の中へと消えていく。
私はすぐに《異空》からハイポーションを取り出すと地面で気を失いかけている男性2人に中身をぶちまけた。
「大丈夫? どこか痛くない?」
しゃがみ込んで男の顔を覗き込むと彼は真っ青な顔で頷く。
無事そうだと安堵するともう一人の男性の方も見る。彼の方は気を失ってはいるけど傷はふさがっているから何とかなったと思う。
ナイフで彼らの縄を切っていると、女性ふたりが緊張の糸が切れたのか泣き始めた。
気絶した男性を荷車に乗せると彼女たちにミックスジュースとハンバーガーもどきを渡してみるがなかなか泣き止まない。
結局彼女たちが泣き止んだのは盗賊を全員縛り終えて最初の男性ふたりが動けるようになってからだった。うん、ハンバーガーでも愛の力には勝てないか。
「あの、ありがとうございました!」
「いいよいいよ、ポーション代も貰ったし! それより良かったよ何とか息がある時に通りかかって」
「本当に、どうお礼を言ったらいいか……」
話を聞くと彼等は男女4人で自作の工芸品や装飾品を作っているらしく、この道を通ったのは契約している商人に商品を届けるためメリオンへと向かっていたからだそうだ。
「でもこの辺で盗賊が出るなんて話聞いたことがありません」
「そうなの? いかにもって感じだけど……」
「この森はすぐそばの山から獣が降りてくるんです。ですから普通は森の中で長居するようなことはしないんです。獣も賢く、馬車に手を出せば人間が大挙してくるのを理解しているのか街道では今まで一度も襲われたなんて話は聞いたことがありません。けど森の中は別なんです。そこは彼らのテリトリーだから」
「本当につまり獣以下だったわけか……」
「え?」
「いや、なんでもないです」
「ただ、ここに来る前にこの街道で最近盗賊がでているって巡回の騎士の方から聞いてはいたんですが……まさかここに出るなんて思いもしませんでした。完全に油断してしまって……」
「その盗賊って昔からいるのかな?」
「恐らく彼らの事だと思うんですが、どうやら最近急に勢力を伸ばしているらしくて。聞いた話ではどこかから流れてきた新しい首領が付いたとかで勢いに乗っているそうです」
「新しい首領かぁ。なんだか面倒だねぇ」
どうやらこの盗賊達の背後には相当頭の切れる……いや、盗賊をコマとしか見ていない人物が糸を引いているらしい。
仲間の命すら成果を得る為の対価くらいにしか考えていないから獣が降りてくる危険な森の中にこうやって待ち伏せさせたりするんだろうね。
確かに誰もやらない事をやるというのは革新的な事だけど、それにしたって危険すぎる作戦だと思う。
盗賊達がどんな言葉で説得されて従ったのかは知らないけれど、この作戦で相当にうまい汁を啜ったんだという事はわかる。
そして彼ら自身が今まで襲われなかったのもただの偶然だというのも。
「まぁこいつらは責任もって処理するよ」
「しかし、どうやって……」
「まぁ運ぶ手段はあるから。一応メリオンの詰め所に預けようと思うんだ」
「そ、そうですか」
「ところであなた達の馬は?」
「それが……真っ先に毒矢か何かで殺されてしまって……」
荷台の女性が反対側の茂みを指さす。
覗いてみるとそこには泡を吹いて倒れる大きな馬がいた。
「……ダメだ、死んじゃってる」
「これからどうすれば……」
彼等はメリオンまでかなりの距離がある場所で移動手段を絶たれてしまった。
それはとても可哀そうだし何とかしたいとは思うけど……あ、そうだ、簡単な方法があるじゃないか。
「あのさ、メリオンに無事着けばいいんだよね?」
「え、あ、はい。」
「じゃあ……よいしょっと」
「え!? 荷物が消えて――」
「うわ――」
「きゃ――」
「ちょ――」
「よしっと」
私は4人を異空の中へと収納するとついでに盗賊達もどんどん放り込んでいく。
この中なら暑さも寒さも感じないし時間の流れは止まってるから問題なくメリオンに到着するだろう。
一通り仕舞い終わると我ながらなんて便利な装備品なんだと感心してしまう。
次元蜥蜴の鞄と違うのは入る量もそうだけど、何よりこの生き物を放り込めるかどうかってところだよね。次元蜥蜴の鞄では生き物は入れられないから。
「では改めて! メリオンにしゅっぱーつ! やまーをとーびー」
私は歌を再開するとメリオンに向けて駆けだす。
なんだか少しお腹がすいたのはきっと久々にあんなに怒ってしまったからだろう。自分でも不思議なくらいに感情が揺れた理由はちっともわからないけれど……。
今はまるで他人事のように落ち着いているのはどうしてなんだろうなぁとこれまた他人事のように考えてしまっているのは、どうしてなんだろう。
急に暗い展開となりましたが、この先の展開の導入部分となっています。
どうぞ続きをお待ちください!




