ボーナスステージ
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「しかし参ったな……ここは一体どこだ?」
「一瞬足元に魔法陣が広がったような気がした。恐らくだが倒した階層主の死体から5メートル前後に転移陣が発生する仕込みだったんだろうぜ。魔法陣自体には魔力がないから視覚でしか判断できねぇのが仇になったな」
ガゼンは辺りを警戒しながら地面にうっすらと残る魔法陣の跡を調べている。
そっちはガゼンに任せて私は反対側を見ているけど、特に何か変わったものは見当たらないしモンスターもいない。
「あ、そうだ。魔眼起動」
視界が一瞬赤く染まるがすぐに元に戻り、今までは視認できなかった魔力の乱れがはっきりとわかるようになる。
私がドラゴンから貰った魔眼は彼の予想に反して凄く便利な物になっていた。
まず魔力の流れが視認できるのは勿論だけど、その魔力を解析してダンジョンと《さくら商店》の扉を繋ぐ《場所渡り》の能力が行使できるようになっている。
ただしこれは攻略されたダンジョンに限るのがデメリットのひとつだけど、どこでも好きに繋げられるのならチートどころの騒ぎじゃない。
いやむしろ今でも十分チートなんだと思うけど。
「ん~……」
ゆっっくりと広場の隅から奥へと視線を動かすとふと魔力が塊になっている場所が何か所か見える。
その数は徐々に増えていき広場に一面に魔力が集まる点がまるで花のように広がっていった。
「綺麗、だけど……」
「どうし――お前、魔眼持ちなのか!?」
「それより、今私の眼には魔力が点になって地面に広がっているように見えるんです。これ何?」
「魔力の点――っ不味いポップ反応だ!!」
ガゼンが叫んだ瞬間に今まで花のように広がっていた魔力の点が形を変えていく。
魔力は徐々に大きくなるとディザードと同じ姿形に変化し、瞬く間に赤いディザードが溢れ返る。
「えええ多すぎる!?」
「ざっと100以上は居るな……こんなに大量のポップは初めて見たぜ。さしずめここは処刑場ってところか」
「……ん? なんだ、なんか文字が見えるぞ」
《次元蜥蜴:Lv30》
「次元、蜥蜴?」
「何だ? 何を言っている!?」
「いや、なんかあのモンスター頭の上に名前が表示されて……」
「そんなものは見え……何だと……!?」
ガゼンが初めて焦ったような表情を見せた。
しかしそれがモンスターの数とかそういう事じゃなくて、何か別の所を見ている気がするのは……もしかして見えてらっしゃるのでは?
「見えます?」
「あ、あぁ。なんだこれは、お前のスキルなのか?」
「スキル……あ、魔眼で見たから?」
魔眼を解除してみたけど文字は見えたままで何も変わりがない。
一度名前が分かったものはそのまま固定されてしまうのだろうか?
「……まぁいい、それは後だ。取りあえずこの群れの中を突っ切って端まで行くぞ。ゆっくりと探索するにしてもまずは脅威の排除からだ」
「了解、じゃあ本気で行きます!」
ガゼンの言葉に頷くと私達は次元蜥蜴との距離を詰める。
相手はこちらを見ているのか見ていないのか一切動きがみられないけれど取りあえず近づけば何かアクションがあるはず。
数歩足を踏み出すと今まで明後日の方向を見ていた次元蜥蜴達が一斉にこちらを凝視する。
「うわっ気持ち悪い!?」
「チッ、いくぞ! 一応血液とスライムかもしれない点にも注意しろよ!」
「う、うぇーい!」
ガゼンが剣を片手に飛び掛かると次元蜥蜴も動きを見せる。
まるで餌に群がる蟻のようにわらわらと群れてきてはあっと言う間に斬り倒されているが、まるで感情のない人形のように仲間の死体を乗り越えて迫ってくる。
その数にも驚かされるが、何よりガゼンの動きには目を見張るものがある。
群がる敵を一刀のもとに斬り捨てながらも血液を浴びない最適な距離を保つ戦い方は歴戦の戦士ならではと言ったものを感じる。
私はそんな戦い方できないからとにかく通りすがりに殴りつけて一瞬で距離を取るというごり押しオブごり押しで戦っている。
「どっちがパワーキャラなのかわかんないや」
「何か言ったか!?」
「何もー!」
しかしこの敵、微妙に弱い気がする。
Lv30というのがどういった程度なのかはわからないけど、ガゼンみたいな上級者ならLv60程度は超えているだろうし大した労力ではないだろう。
私は元々レベルが上がらないから偉そうな事は言えないけれど撫でるように攻撃を当てるとどんどんと破裂していく様は何と言うかボーナスステージなんじゃないかと勘違いしてしまう。
「こいつらは普通の蜥蜴みたいですね!」
「ああ、どうやら血液も問題ないらしい! 最速で進むぞ!」
今まで以上に斬り進む速度が上がると100匹以上いた次元蜥蜴の数が瞬く間に減っていく。
そしてとうとう最後の1体を倒し終わると同時に部屋に聞き覚えのある無機質な声が響いた。
《報酬部屋の攻略を確認。転移を開始します。なおこれ以降は次元蜥蜴は通常階層にポップします》
「わっ」
ここに来た時の様な浮遊感を感じた瞬間に 目の前がぱっと明るく光る。
「えっ!? さくら!?」
「んー……お、おお! 外だ!!」
気が付くとそこはダンジョンの外、最初に訪れた天幕を張った広場だった。
辺りを見渡すとオーレンをはじめとしてパーティメンバーは全員揃っているみたい。
「よかったー、無事出られた! ガゼンさんは?」
「おう。ここにいるぜ」
「良かった! 無事攻略できましたね!」
「ああ」
ガゼンは短く返事をすると少しだけ笑ったような気がした。
やっぱり友情を深めるには拳! いや、同じ危機を乗り越える事が大事なんだ。
「だがテメェには借りがある! 次に会った時はしっかりお返しするからな!」
あれぇ、気のせいだったかな?
「無事ですか!? 怪我はありませんか!?」
「心配したぞさくら! まぁガゼンの奴が付いてるから何の問題もないとは思ってたが……無事で何よりだ!」
アリスは一生懸命私の身体をあちこち確認し、オーレンは心配そうな顔をしながらも安心したのかほっとしている。
アークも少し離れてではあるけどこちらを見て笑っている。
皆に心配を掛けちゃったなぁ。
「けど、みんなどうして外に?」
「はい、階層主を撃破してさくら達が消えた直後に外にはじき出されました。そこで色々な事が分かったんですが……」
「実はな、どうやら俺たちがこのダンジョンに入ってからすぐに入り口が魔法で封鎖されたらしい。後ろの攻略組が何度か入ろうとしたがどうしても入り口から出てしまうらしくてな」
「え? じゃ、じゃあ追い付いてこないんじゃなくて……」
「あぁ、物理的に侵入不可能になっていたようだ」
「えーそんな、それじゃあ私達が魔法使ったって思われるんじゃ……」
「そこは大丈夫だ。どう考えても入り口同士を繋ぐ魔法なんて存在しないしな。恐らくはダンジョンの特性だったんだろう」
「でもそれって……」
「大型パーティだから良かったが、少数パーティが先に入ってたら間違いなく全滅してたな。それを狙っていたのかはわからないが、このダンジョンは相当に厄介だぜ」
「今はどうなの?」
「ああ、さっき何人か中に入ったが問題なく探索できるらしい。一応モンスターの情報も知らせておいたから今回は様子見になるだろう」
「あ、それならもうひとつ追加情報が――」
初めてのダンジョン攻略は無事終わり攻略組は解散、後日ドロップアイテムの分配や買取も私が行う事で決着がついた。
例のダンジョンは攻略済みになり、冒険者ギルドが『呪詛の狭間』という名前を付け上級者ダンジョンとして管理を行う事を発表。
モンスターの特異性や難易度の高さから当初は人気がないダンジョンだったが、私とガゼンが発見したとあるドロップアイテムがその在り方を変えてしまう。
最近では始終人で溢れ返り、莫大な富を生み出す金山としての側面に目を取られ死傷者の絶えない欲望のるつぼと化してしまった。
だがそのおかげでドロップ品を加工したあるアイテムが世界的に量産され、生活が一変してしまう事を、今の私達は知らないでいた。
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「お疲れ様。で、どうだった?」
「あぁ。彼女の能力はじっくりと確認できた。素晴らしいな」
「だろ? オレ的には次の調査官は彼女に……って思ってるんだが、まだまだ危ういところもあるしどうかなと思ってね」
「そうだな。所見で悪いが……彼女には調査官は向かないと考える。もっと、なんというか自由な方がいいだろうとは思うがね」
「うーん、やっぱりか?」
「恐らくマスターも同じ意見だろう?」
「ご明察。しかし悪かったな、任務前にざわざわ呼び出して」
「いや、構わんさ。これからしばらくは人前に出ることもなくなる。上級冒険者として最後のつもりで顔を出したんだ」
「そうか……まぁ会えなくなるわけじゃないしその内また飲みに行こうぜ」
「ああ。その時はまた馳走になろうか。今回の攻略料金としてな」
「任せとけ! 何軒でもな」
「期待しているぞオーレン」
「ああ、任せろよガゼン――いや、白騎士殿」
ふたりの男が酒場の端で酒の入ったコップを打ち鳴らす。
オーレンの対面に座る騎士は穏やかな笑顔でひとりの女商人の行く末を楽しみにしていた。
この日を境に上級冒険者ガゼンは忽然とその姿を消すことになる。




