表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/103

ダンジョン攻略 後編

 そこはあまりに広く、そしてあまりにも暗い闇の世界だった。

 前に居る前衛の明かりがなければ自分の立ち位置すらわからなくなってしまいそうな底抜けの闇、そのただなかにひと際暗くそれでいて巨大な存在が静かに座っていた。


『フゥー……フゥー……』


 静かな空間に響くのはその影から発せられる呼吸音のみ。

 背筋に冷たい汗が流れ、全身の毛穴がぞわりと開いてしまうようなそんな気配が充満していた。


「何故動かない?」


 そう誰かが言葉を発すると、まるで言葉を理解しているかのように影がぞろりと身を蠢かす。


「視界確保!! 全員直視するなよ!! 閃光(フラッシュ)!!」


 突如発生したまばゆい光に一瞬目を背ける。

 その光はまるで地面を走るように闇を蹴散らすと辺りを煌々と照らし出す。


「なんだっ!?」


 誰かが驚きの声をあげる。

 それは誰かの声ではあったが、それ以上にこの場に存在する全ての者の気持ちを代弁した言葉のようだった。


『フゥー……フゥー……ウゥゥッ』


 そこには巨大な人の顔を持つ10メートルはあろうかという巨大なディザードが苦しそうに座り込んでいた。

 

「なんだ、なんだよアレ!?」

「落ち着け! 索敵班は下がれ! 交戦はしていないが動かないならば先手を取るぞ! 陣形用意!」


 オーレンの声に背中を押されるように1班、3班が2班を援護するように移動を開始する。

 私もその動きに合わせていつでも援護できる位置に移動を開始するが、どの班も相手が異形の怪物だからか攻撃するのを躊躇っているように感じる。


「お前らがいかねぇならオレ達が行くぜ! 構えろ!!」


 ガゼンがそう叫ぶと1班の戦士たちが武器を構え突撃体制へと移る。

 次の瞬間には魔法使いが一斉に魔法を放ち、その後ろを戦士が追うような形で距離を詰めていく。

 よく考えられたもので爆発系などの視界を遮るような魔法ではなく、もっと一撃で身体を打ち抜くような氷系統、水系統、光系統の魔法を使用しているようだ。

 そして着弾と共に戦士が巨大なディザードの身体に斬りつける。

 その皮膚は思ったよりも強度があるようだけど、勢いの乗った戦士十数名の攻撃は容易くその皮膚を切り裂き血を溢れさせた。


「触るなよ! すぐに距離を取れ! 万が一触った奴は商人からポーションを貰え!」


 ガゼンが敵から距離を取りながら周りに指示を飛ばす。

 自分も斬り込みながら、周りを見て的確な指示を出す姿は何故だか立派な指揮官のようにも見える。


『オオオオ!!』


 巨大ディザードが雄叫びを上げながらお返しだとばかりに1班へと距離を詰める。

 しかしその巨体故か速度は大したものではなくすんなりとガゼンに弾き返されてしまった。


「オーレン!」

「任せろ!!」


 いつの間にかディザードの背後に回り込んでいたオーレンがどこから持ち出したのか巨大なハンマーを振りかぶりその背中目掛けて振り下ろす。

 ドン、と鈍い音がダンジョン内に響き渡りディザードはその身体を地面へとめり込ませた。


「すっご!」


 オーレンが戦う姿は初めて見たけれど、上級冒険者としてパーティを率いるだけの事はあって速度、攻撃力、状況判断力はかなりレベルが高い。

 その動きは装備で武装した私でも簡単には勝てないと感じさせてくれる。

 生身でやりあえるのは多分パスティくらいだろうなぁ……。


「さくら!!」

「うぇえ!? えあ!」


 急に呼ばれて慌てながらも頷くと、その場から飛び上がり倒れたディザードの頭目掛けて全力で拳を振り下ろす。


「ごめんな――さいっ!!」


 オーレンのハンマーにも負けないくらいの鈍い音が辺りに響くと同時にディザードの頭部がぐしゃりと弾け飛んでしまった。


「さくら大丈夫か!?」

「へーき! 私には効かないみたい」

「ふぅ、状態異常無効化の話は聞いてたが、少しヒヤヒヤしたぜ」


 どうやらオーレンは最初から私のスキル込みで倒すことを計算に入れていたみたいだ。

 私はすぐに身体に着いた血を洗い流すとタオルを取り出して水分を拭きとっていく。

 しかし、それにしてもやけにあっけなく決着がついてしまったけれど、これは上級者パーティだからとかそういう事なんだろうか?

 今までの事を考えても少し違和感を感じてしまう。


「まだです!」


 少し離れた位置からアリスが叫ぶ。

 声を聴いた瞬間オーレンが距離を取り、ガゼンが武器を構えて一歩前に踏み出す。


「おいおい、嘘だろ」


 オーレンは苦笑いでもするように声を喉の奥から絞り出した。

 それもそのはず、さっき頭を潰されたディザードがその身体をゆっくりと起き上がらせたのだから。


「うぇえ!? 頭ないのに動いてる!?」


 余りの気味悪さについ後ずさりをしてしまう。

 周りを見てみると皆同じ気持ちなのか、明らかに不気味な物を見る眼をしていた。


「なら今のうちにもう一発だ!」


 オーレンがその場でぐるりと身体を回転させると遠心力の乗ったハンマーがディザードの腰に目掛けて吸い込まれていく。

 直撃した、と確信した瞬間ディザードの太い腕がそのハンマーを押さえつける。

 何かを察したオーレンが手を放し距離を取ると、まるで餌でも捕食するかのようにハンマーがその腕の中へと消えていってしまった。


「はぁ!? なんだそりゃ!」

「武器を喰いやがった……」


 その瞬間アークが叫ぶ。


「離れろ!! そいつはスライムだ!!」


 その声に一瞬で戦線が崩壊する。

 あのどんな状況にも対処できると言われていた上級冒険者達がアークの声に反応し我先にとディザードから距離をとる。

 この時点で包囲殲滅という当初の作戦は通用しなくなってしまったけれど、それでも一部のメンバーはその場に残り敵の動きをけん制している。


「スライム?」


 スライムと言えばゲームやマンガでは初期の敵として有名だけど、そこまで強いというイメージはない。

 私が病院で読んでいた漫画の中にはスライムが無双する話もあったけれど、あれは物凄く特殊と言うかなんというか。

 とにかく「弱い」という言葉の代名詞のような存在がスライムだと思うんだけど、どうもアークや他のパーティメンバーの反応を見るとただ事ではないように思う。


「アリス、スライムって?」

「……スライムは取り込んだものの特性を使用する厄介なモンスターです。とはいってもここ何十年も目撃情報すらありませんでした。攻撃も防御も関係なく生き物に纏わりついて取り込み息の根を止める異常な程に凶悪なモンスター……対策がない訳ではありませんが、あのサイズになるとそれも通用するかどうか」

「因みに炎系の魔法は効果あるの? 氷系は?」

「まさにそれです。炎はその体表を消滅させますし氷はその体表を凍らせ砕くことが可能になると言われています。ただ魔法も万能ではありませんからサイズが大きくなればなるほど体積が増え対処が難しくなるそうです」

「これだけの人数が居れば問題ないんじゃない?」

「救いはそこですね。時間さえかければ何とか……」

「よし!」


 アリスに仲間を集めるように頼むと私はオーレンの所へ駆けていく。

 オーレンはガゼンとコンビネーションを組み、巧みにターゲットを取りながら回避に専念している。

 

「オーレンさん!」

「さくらか! どうした!?」


 私は黙ってアリス達の方を指さす。オーレンはそちらへ視線を向けるとニヤリと笑った。


「理解した! ガゼン! 暫く頼むぞ!」

「早くしろよ!」

「さくら、代わりに頼むな!」

「んん!?」


 そう告げるとオーレンは何故かその場を後にしてアリス達の所へと走り去る。

 残された私はガゼンの邪魔をしないように立ち回りを……できるはずがないよね!?


「テメェ! 邪魔すんなら下がってやがれ!」

「しょうがないでしょ! 共闘なんて滅多にしないんだから!」

「ふざけんな遊びじゃねぇんだぞ!」

「うるっさい! ほらタゲ取ったでしょ! 早くサポートして!」

「チッ! 動きを見ながら揺さぶるんだよ! こうやんだ!」

「わかったよ! こうでしょ!?」


 半ば口論しながらも敵に攻撃を仕掛けターゲットを取りながら戦っている。

 とはいっても飲み込まれても嫌だから誰かが落としていった棍棒みたいな武器を使って殴りつけているけど、あれ以来スライムディザードが武器を飲み込んだりする様子がないのは不思議だ。


「さくら!」

「合点! ガゼンさん!」

「わーってるよ!」


 私とガゼンの攻撃が同時にヒットし10メートルの巨体が大きく体勢を崩した。

 瞬間、その周りに白い靄のようなものが立ち込め始める。


「凍てつけ世界!! 凍結境界(ワールドエンド)!!」


 尻餅をついた状態のスライムディザードの足元から水分が甲高い音を響かせながら凍り付いていく。

 スライムディザードも腕を振り回し氷を砕こうと抵抗するが、走り込んできたアークの一撃で片腕を切り落とされその落とされた腕も連鎖的に凍り付いていく。

 しかし残すところ3分の1と言ったところで氷の浸食が止まってしまう。

 理由はわからないけれど胸部から上はその身体を晒したままになっている。


「これ不味いんじゃないの!?」

「まだだ! オーレン!! ボサボサするなよ!!」


 ガゼンが盾を拾いその身を隠す。

 それを見て私もその後ろへと滑り込むと頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「走れ風よ、渦巻け竜巻よ!! 唸れ!! 翡翠の旋風(ワールウィンド)!!」


 オーレンが魔法の詠唱を終えるとスライムディザードの足元から竜巻が巻き起こる。

 その竜巻はいまだに放たれているワールドエンドの冷気を巻き上げるように伴い一瞬で巨体を包み込み激しく回転する。

 私達が盾を構えて隠れているところにも激しい冷気と風が流れ込み服の表面を凍り付かせていく。


「ささ寒い寒い!?」

「我慢しやがれ!! 俺の方が寒いんだよ!!」


 私はスキル効果もあるしガゼンの後ろにいるから寒いくらいで済んでいるけど、ガゼンはもろにダメージを受けているに違いない。

 でもこういう時はやっぱり防御力の高い方が低い方を庇わないとね!

 多分私の方が高いけど。


「さくら!」


 一瞬冬眠しかけたけど、アリスの声で我に返る。

 いつの間にか地面に突っ伏していたみたいで、飛び起きるとガゼンの背中越しにスライムディザードを見る。

 

「おぉ~! 見事な彫像!」


 逃げ場のない冷気に晒され続けたスライムディザードは完全な氷の彫像へと姿を変えていた。

 まるで某雪まつりの様な10メートルの彫像は、すでに絶命しているのか完全に沈黙してしまっている。


「ふぅ、お疲れさん……何とかなったな!」

「寒かったよ! なんか言ってから撃ってよ!」

「しょうがないだろ。逃げてくるの待ってられなかったんだから。まぁ何とかなって良かったな!」

「もぉー……あ、アーク、アークは!?」

「ここだ」


 アークは特にダメージもなくアリスの傍に立っていた。


「大丈夫だった? 巻き込まれてない?」

「ああ、逃げる時間は十分にあったから問題ない。それよりもそちらは大丈夫なのか?」


 私は自分の身体を眺めてどこも凍り付いていないことを確認すると親指を立てる。

 

「テメェは俺の後ろに隠れていただけだろうが!」


 折角格好つけてたのに後ろから頭を小突かれる。

 私は頭をさすりながら不満げに後ろを振り返ると口をとがらせて抗議する。


「そんなことないから! ちゃんと何かあったら飛びだせるように準備してたから!」

「嘘つけ! 頭抱えて丸まりやがって! 死んだかと思って肝が冷えたぞ!!」

「あ、そういうガゼンさんは大丈夫なの!?」

「俺は冷気耐性があるからな……まぁ飛んでくる氷の破片はダメージになっちまったが問題ねぇよ」


 よく見るとガゼンの顔には無数の切り傷が見える。

 多分私ならダメージを受けなかったけれど、あの冷気が身体の動きを鈍らせてしまったのは事実だしなんだかんだで助けられたことに変わりはないよね。


「はい、ポーション! ありがとうねガゼンさん!」

「チッ」


 ガゼンはポーションを受け取るとバツが悪そうにそっぽを向く。

 その顔を見ると、昨日アムネアさんの言っていたことがなんとなくわかるような気がしていた。


「あとは帰るだけだね! 少し休憩して――」


《ダンジョンの攻略を確認しました。転移を開始します》


「え?」


 ダンジョンに突如無機質な声が響く。

 その時私の脚元に突如真っ赤に光る魔法陣の様な物が現れたかと思うと、身体が宙に浮かぶような奇妙な感覚に思わず眼を閉じてしまう。

 どれくらい浮遊感を感じていただろうか?

 ようやく何とも言えない気分の悪さが収まったかと思い目を開けると、そこはぼんやりとした光が溢れるどこかの広場に姿を変えていた。


「え? なん……ここどこ?」

「やられたな。どうやら階層主の絶命と同時に発動する仕掛けだったらしいな」


 振り返るとガゼンが頭を抱えてため息をついている。

 どうやら私達はボスの一番近くに居たせいでどこかの部屋に強制的に飛ばされてしまったみたいだ。


「……戻ったらアリスに怒られちゃうなぁ」


 私は自分のトラブル体質をこの時ほど恨んだことはないね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ