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新ダンジョン探索前夜

「さくら、いるか?」

「ん? オーレンさん? こんにちは!」

「おう! 久しぶりだな……ここがお前の店かぁ。かなり広いな」

「はい、この間広げたばかりなんですよ。凄いでしょ?」

「兄貴の店よりもでかくなる日は近いな」

「兄貴?」


 オーレンは肩をすくめて笑うと腰のポーチから手紙の様なものを取り出しカウンターの上に置く。


「冒険者ギルドからの要請だ。どうだ、俺と一緒に新しいダンジョンへ潜らないか?」

「え?」


 彼は端正な顔をわざとにやりと歪めウインクをする。

 どうやらこれはダンジョン探索のお誘いらしいけど、でもどうして私に声を掛けてきたんだろう?


「おっと、何故自分を……って不思議な顔してるな。そうだな、お前を選んだのは勿論ちゃんとした理由がある。まずひとつ、お前がこの世界でも有数のアンデッド特攻能力を持っている事。新しいダンジョンだ、どこに何が出るかわからない。そんな時にある程度の事態に対応できないと難易度が跳ね上がる事もある。そしてふたつめはお前の積載量に制限がない事だ。傾向が読めないダンジョンだと対策が立てにくい。だから出来るだけの装備が必要になるわけだが、それだと一人当たりの持ち物の重量がヤバい事になる。戦闘班に持たせるわけにはいかないが非戦闘職を何人も連れ歩くわけにはいかない。ある程度自衛も出来て持ち物に制限のないお前は最適な訳だな。最後は……そうだなとある人物からの推薦があったからと言っておこう」

「マスター・シリウス……」

「ぶふっ! はは! ほらなっ! バレるから最初から名前出せって言ったんだ俺は! まぁあの爺さんなりの気づかいなんだろうが、まぁモロバレだよなぁ」

「まぁ、ありがたい話だけどね! え、それでそのダンジョンってもしかしてアンパルの?」

「そうだ。暫く活動が止まってたんだがようやく活性が最大になってな。明日には入れるようになるだろうとの事だ。俺たちは他の攻略組と一緒に突入して階層主を目指す。道中のアイテムの収集も兼ねているが……まぁ攻略優先ってところだな」

「そっか。わかりました、じゃあ今日中に用意しておかないといけないね」

「そうしてくれると助かるが、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。助けてくれる従業員もいるし、新ダンジョンの解放日なら明日はあんまりお客さん来ないかもしれないから」

「何だ、もう人を雇ってるのか? 立派な店主だな」

「ふふん? もっと褒めてもいいですよ?」

「偉い偉い。んでダンジョンに潜るにあたって頼みたいことがあるんだが……」

「何です?」

「エクスポーションの在庫はあるか?」

「10本ほどは」

「10本かすげぇな……全部持ち出しできるか?」

「え、全部?」

「ああ。さっきも言ったが攻略前のダンジョンだからな。前回の探索じゃ片腕を失くした奴もいたし、その前は足が千切れた奴もいた。正直同じパーティだ、見捨てる真似はしたくないしそういう事態に備えておきたいんだ。それに緊急事態なら他のパーティの為に使ってもらってもいい。」

「んー……まぁ使わなかったら持ち帰ればいいしね。了解、わかったよ」

「すまないな、使った分はギルドで面倒みるから」

「まぁ要らないのが一番だけどね」

「そうだな」


 そんな話をしていると朝からお使いに出ていたアリスとアークが帰ってきた。

 

「ただいま――ぁ、いらっしゃいませ」

「おかえりー! こちらオーレンさん、冒険者ギルドの関係者だよ」

「お、噂の従業員か? 俺はオーレンだよろし――くな……」


 何故か一瞬オーレンが言葉を詰まらせた。

 アリスの後ろで荷物を降ろすアークを見て止まったように見えたけど。


「何? どうしたの?」

「ん? あ、いやいや。知り合いに似てたからな。気のせいだったけど」


 特に慌てた様子もなく笑っている。

 なんか怪しいなぁ。


「さて、それじゃあ俺は帰るよ。明日の朝(=明朝)3時頃にアンパルから北にあるダンジョン入り口前に来てくれ。今そこで野営してるから」

「わかった。他に持っていくものあります?」

「んー、任せるよ。回復ポーションと対状態異常ポーションは結構な数持ってきてくれ」

「わかった。500本くらいあるから持っていく」

「スケールおかしいだろ! まぁよろしく頼むわ。それからダンジョン内で泊まりになる可能性が高いから食料なんかも頼む。金は後で請求してくれれば出すからな」

「あいさー」


 手を振りながらいそいそと扉を出ていくオーレンが一瞬だけアークの方へと視線を向けると小さく頭を下げたように見えた。

 アークの方も頷いて返すとそれきり視線も合わせない。

 どうやらオーレンは何か訳知りみたいだね。


「さくら、もしかして新しいダンジョンの……」

「うん。だから明日はふたりで――」

「私も行きます」

「え!?」

「私も行きます」

「い、いや、それはいいけど……」

「さくらは目を離すといつもトラブルに巻き込まれて帰ってきますから」

「いやいやいや、好きで巻き込まれてるわけじゃ……んー、じゃあアークも一緒に行く?」

「……いいのか?」

「うん。装備はうちの売り物使えばいいし、お店はたまには休んでもいいと思うよ」

「いやしかし――」

「行きましょうアーク。以前言っていたじゃありませんか、冒険者になりたかったと。それにアークも腕に覚えはあるのでしょう?」

「それは……」

「よし! じゃあ決まりだね! そうと決まれば少し早いけど今からお店閉めて明日の準備しようか!」

「はい。私、一度でいいから攻略組として潜ってみたかったんです」

「では言葉に甘えて……装備を整えさせてもらう」

「うん! 必要なものあったら言ってね。全部出すから」


 私達は店を閉めるとそれぞれ必要な物を用意する。

 全員がまるで遠足に行くように少し浮かれているように感じるけど、前回のエルダーリッチの事もあるし用意の手は抜かない。

 ポーションや替えの装備は勿論だけど、食料、飲料水も多めに入れてそれから酒精の強いお酒も何本か持っていく。

 ダンジョンの中で飲むわけじゃないんだけど怪我をした時やエクスポーションを使う程でもない時はこれで消毒しておいた方が治りが早い事に最近気が付いた。

 つまりは消毒の為、だね。

 まぁ戦闘中にゆっくりという訳にはいかないけれど人数が多ければ交互に入れ替わりながら戦えば傷の手当くらいはできると思うしその時にでも使おう。


「さぁ、明日はさくら商店遊撃隊の初任務だ!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ひとりの男が崖の上からアンパルの街を見下ろしている。

 風貌はお世辞にも綺麗とは言えず、だが浮浪者というにはあまりにも立派で美しい剣を腰に帯びた佇まいは名のある騎士と言っても差し支えがないように見える。

 男は暫く目を細めて街を眺めていたがその視線がふと右の手元に落ちる。

 そこには月明かりしか届かない夜だというのに鋭く光を反射する拳ふたつ分程度の長さの短剣が握られていた。

 男はじっと短剣を見た後に不敵な笑みを浮かべると踵を返し森の中へと姿を消す。

 まるで闇に溶ける様に消えていく背中は不気味さと強い殺意を纏っていた。

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