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装備よりも大切な物

 ホイールというドワフに装備を預けて10日、ついに私の下に修理を終えた装備が帰ってくることになった。

 つい先日ホイールの弟子を名乗る若いドワフが手紙を持参して訪ねてきていた。

 手紙には明日、修理した装備を持参する事、良ければ弟子に代金を半分持たせ、もう半分は装備と引き換えにして欲しい事などが書かれていた。


「すみません。師匠も歳ですから金貨の量が多くなると大変みたいで……。護衛も連れてきてますので問題ないと思います」

「わかった! じゃあお願いします」

「はい、では計算させていただきますね! おーい、手伝ってくれ!」


 彼が外に声を掛けると10人程のドワフがゾロゾロと店の中へ入ってくる。

 それからは全員で店の端の床に座り込みお金の計算を始める。


「大変そうですね……」

「んー……私はお金を取り出す時に金額を指定すればいいだけだけど、他の人はそうはいかないよね」

「しかし便利だなその指輪は。カースド系統の装備破壊でも壊れなかったのだろう?」

「うん」


 私はまじまじと指輪を眺める。

 緑の輝く石が印象的ではあるけれど、その形はシンプルで質素。

 極力凹凸のないデザインは人によっては煌びやかさが足りないと感じるかもしれないが、私のように装飾品に興味のない人間からすると目立たなくて落ち着いていて好きだ。


「なんか解決方法はないかな」


 そう呟いては見たものの、私の装備はありがたい事に神話級と伝説級で構成されている。

 普通ならこんなに簡単に手に入るものではないだろうし、誰もが手に入れることができると言ったら魔物の素材から作られるような装備くらいだ。


「お、お待たせしました! すみません部屋の隅を占拠してしまって」

「いえいえ、本当なら私が出向くべきなんだけど……今の私じゃダンジョンの中を歩くのはちょっとね」

「わかります。装備がない時って物凄く不安ですよね! 師匠が打ち直した店主さんの装備、かなり凄いんで期待しててください!」

「ほんと? 嬉しいなぁ……すごく楽しみにしてるって伝えて!」

「はい! では明日また師匠とお邪魔しますのでよろしくお願いします!」

「こちらこそ!」


 若いドアフは頭を下げると扉から『鉄鬼の庭』へと帰っていく。

 アリス曰く鉄鬼の庭は《アイアンゴーレム》が多く生息している上級ダンジョンで、並みの武器や防具では手に負えないのだとか。

 そこを難なく移動するドアフの能力の高さは、流石鉱石の扱いに長ける一族だと感心していた。


「さて……じゃあ逸る気持ちを抑えて今日の事に集中しましょ!」

「はい。あ、ところでアークは?」

「ん? あぁ、アークにはお使いを頼んでるんだ。行こうと思ってたけど代わりに行ってくれるって言うから」

「そうですか」


 アリスは納得したように頷くと早速棚の整理を始める。

 ふたりとも、もうお店の仕事は全て完璧にこなせるレベルになっていて私も安心して任せておける非常に優秀な戦力に育ってくれた。

 アリスも最初は体調を崩しやすかったけれど最近では顔色もいいし何より明るくなってきたように思う。

 アークは今でも何かを考えこむことが多いけれど、最初に店を訪ねてきた時よりもずっと印象は柔らかくなっている。

 私がこの世界に来て半年以上が過ぎ、季節は寒い時期へと差し掛かっていた。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「で、これが今回の修理を終えたお前さんの装備だ」

「お、おおお!! 凄い凄い!! ボロボロじゃない!! 元よりもずっと頑丈そうに見えるよ!!」

「おいおい、頑丈そう、じゃなくて本当に頑丈になってるんだよ。まず破魔の短剣。これは他の装備よりも見た目の損傷が激しかったが、核となる芯材には何のダメージもなかったから魔力を纏わせた鎚と魔石で刀身の再生作業を行っておいた。ついでに数種類の魔石を溶かしこんで《破壊耐性》を付加してある」


 確かに、以前の破魔の短剣に比べると少しずっしりと重さはあるように感じるけれど刀身から放たれる光は前よりも鋭さを増している。

 まるで光が全てを断ち切ってしまうそうな、うすら寒さすら感じてしまう程だ。


「次に剛腕の篭手。こいつは片方がほぼ形を失っていたが、保存状態が良かったのか完全消失には至ってなかった。短剣と同じように魔石を溶かし混みながら新しいプレートを増設し補強してある。勿論《破壊耐性》付きだ。当初は装備の持つ能力が戻るか心配したが補修部分との相性が良かったのか問題なく能力を発揮しているようだ」


 以前は赤一色だった剛腕の篭手だけど、今は手の甲までが赤い金属で指部分は全て銀色のプレートで出来ている。

 少し細身にはなっているけれどその強度は明らかに強化されているのが感触でわかるほど堅実な造りになっていた。

 指先の動きもスムーズでまるでゴムの手袋のようにフィットするのは一体どういう技術なんだろう。


「最後、早駆けの革靴だが……すまんがこっちは前面が殆ど破れていたんで大改修になった。革も特殊な魔物の皮が使われていたようで入手できなかったしな。だが破れた部分を敢えて切り離し残った部分を核として周りを軽く強度のある金属で覆うような形で補修した。更に走りやすいように底には特殊な《ダール金属》という物を使用し強度はもちろん、柔軟性も持たせてある。言わずもがな《破壊耐性》が付いてるが特筆すべきは《長距離滑空》というスキルが付加できたことだ。補強に使った金属が滅多に手に入らない《フレキシブル鉱》という物でな。最初は軽いからという理由で使ったんだが思わぬ副次作用があったものだ」


 一番大きく変わっていたのはこの早駆けの革靴だと思う。

 見た目も、材質もとても前の革靴と同じとは思えない。

 持ってみるとその軽さは異常で、もしかすると片方が金貨2枚と同じくらいかもしれない。

 皮の部分は土踏まずから踵、足首まででその上からつま先、踵部分に金属製の補強がされていて、履いてみると以前よりもずっと足の稼働域が広くまるで羽根に乗っているみたいだ。

 靴底は金属だけど地面に足を衝くとまるでゴムの様に感じるほど粘りがある。

 これならどんなに速度を上げても問題なく次の行動に移せそうだ。


「凄い……どれもこれも以前と同じ……うぅん、以前よりもずっと身に着けやすいよ!」

「そうだろう。何せ他の仕事をほっぽりだして修理したんだ。……まぁ途中から俺の方が楽しくなってしまったんだがな」


 ホイールは大きな口をあけて笑うと満足そうに頷いている。

 確かにドワフ国でも4人しかいない鍛冶師の一人というだけの事はあって、その技術もセンスも素人の私が見ただけで感じ取れるほど類稀なるものを持っているみたいだ。

 修理してもらった事に対する忖度とかじゃなくこれは黙っていても認めざるを得ない程の圧倒的な実力、本物の『職人』というのは彼の様な人を言うのだろう。


「嬉しい……私はこれでまたダンジョンへ潜る事が出来るし色々な所へ出かけることができる。本当にありがとう、ホイールさん」

「なぁに、礼ならアーレンとメリンに言ってくれ」

「メリン……メリンさん? エルフの?」

「ん? 何も聞いてないのか? まぁ元々ア-レンからの紹介というのもあったが、工房へ帰りついた時にメリンからの手紙を持ったメリンの姉が訪ねてきていてな。その手紙を見て俺も本気で最高の物にしようと頑張れたんだ。メリンは小さかったから覚えてないだろうが、俺とメリンの姉は幼馴染でな。ちと俺の方が老けてしまったがね」

「メリンさんが……でもどうして……」


 私が理由を探すように視線をアリスとアークへと向けると、普段は落ち着いているアリスが何故か目を逸らした。

 それを横目で見ていたアークが苦笑いをするとこそっとアリスを指さす。


「ア、アリス? もしかしてアリスがメリンさんに?」

「あ、い、いえ! 私だけじゃありません! アークも手伝ってくれましたので……」

「オレはあくまで助言したに過ぎない。一番心配していたのは間違いなく彼女だ」


 アリスは照れくさそうに視線を下げるとモジモジとその場で落ち着かない。

 

「アリス、アーク……ありがとう」


 私は今この世界で本当に心から「良い仲間」を持ったと確信していた。

 友達も、親しい人も、頼れる相手もいなかった私にこんなに素敵な仲間が出来た。

 こんなに嬉しい事って他にはないよね。

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