訪問者はバイト志望
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ひとりの商人からもたらされた報告は冒険者ギルド、いや全ての冒険者にとっても朗報となり得るものだったが同時に大きな謎を浮き彫りにする結果ともなった。
「ではその冒険者の持ち込んだ資料……杖と日記によって此度のアンデッド階層突破事件は一応の進展を見せた訳であるな」
「その通りじゃ。無論、解決したわけではないが我々が別に情報収集を行ってきた事との合致も確認されておる。取りあえずは追うべき対象は絞り込めたという事だな」
「しかしマスター・シリウス、大封印内に杖が2本、そしてどちらも全く同じ物だとすれば3本目、4本目の存在も疑いますが……」
「……それに関してじゃが、大々的にこの事を発表すべきという声も出ておるが、逆に悪用する輩も増えることを考慮して杖を追う為の部隊を新設したいと考えている。具体的には現在任命されている30人の調査官のうち10人を専任として任せたいと――」
「いや、いや待ってくれマスター! 只でさえ30人でも足りないと言われているのにそこから10人も持っていかれては現場は混乱するぞ!」
「調査部の意見は最もじゃ。じゃがアレは……あの『杖』は今回こそ術者のみの命で済んだが、やろうと思えば大きな街ひとつアンデッドの王国へと作り替えることも難しくない物。情報が洩れておらんとは思えんが、それでも人数を割いて探す価値は十分にあると考える」
「それは……そうだが、だからと言って今のこの時期に、よりにもよって王都でのクーデターが起こった今、調査官の人数を減らすという事はそれこそ危険すぎる!」
「では暫くは数名に専任として調査に当たってもらうというのはどうじゃ? 流石に後手に回るのは避けたい状況ではあるしのぅ」
「……ではミノス、それから黒騎士と白騎士に」
「良いのか? ミノスはわかるが黒騎士、白騎士は調査部お抱えの最大戦力じゃぞ?」
「だからこそ、だ。別に俺たちもあの『杖』の異常性を過小評価している訳じゃない。だからこそ少数で挑むなら最大戦力を投入するのは当然だ。言い方は悪いが『クーデター』程度は並みの冒険者でも十分に対応できるが、万が一アンデッドの王国が出来上がったとしても短期間、そして単騎で殲滅できるとすればあのふたりにミノスを加えた3名が妥当だと考える」
「暴風の黒騎士、閃光の白騎士、そして破壊のミノスか……過剰戦力ではないか? 万が一彼らがアンデッド化すれば止められる者はおらぬぞ?」
「ディード、わかっておるじゃろう? 彼らには――」
「わかっておるよ。ただの心配性だ。余計な言であった」
「では冒険者ギルドマスター・シリウスの名において黒騎士ランドルフ、白騎士フレン、重騎士ミノスの3名に『首界の呪杖』探索の任を与えることをここに望む。異のある者は述べられたし」
机を囲むように座る10人の議員は全員静かに頷く。
マスター・シリウスは彼らの顔をひとりひとりゆっくりと見渡すと力強く頷く。
「ではここに臨時調査部隊の設立を宣言する」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そういえば聞きましたか? 王都でクーデターが……さくら、朝からずっとギルドカードを眺めてますね」
「ん? あ、ごめんね。ちょっと気になるスキルを覚えたんだけど効果が分からなくて」
「どんなスキルですか?」
棚の掃除を終えたアリスが興味深そうにカウンターへと近寄ってくる。
私はギルドカードを彼女へと手渡すと肩をすくめ苦笑いをする。
「片方はすぐわかったんだけど、もうひとつの方が意味不明で……」
「貫通耐性と……呪われた光?」
「それそれ」
《貫通耐性:耐性を貫通する攻撃を防ぐ》
《呪われた光:光であると同時に呪いである。それは道を切り開くための光となるのか、破滅を促進させる呪いとなるのか。全ては使う者に委ねられた》
「ユニークスキルでしょうか」
「ユニーク? レアスキルじゃなくて?」
「レアスキルの中でもよく知られていないものはユニークと呼ばれます。基本的にはその人が持つ固有スキルがユニークになる可能性が高いですが……極稀に発現後の固有スキルが変化する場合もあると言われています。例えば『調査官』はユニークスキルの所持者が多いようですね」
「そうなんだ……」
「特徴として、スキルの説明がすぐに分からないものはユニークである可能性が高いですね。私も、こんな感じです」
アリスが手渡してきた彼女のギルドカードのスキル欄には多様な魔法が記載されていたが、その中でもひときわ目を引くものがあった。
《精霊に愛されし者:精霊が愛するのは魔法の申し子か、それとも破壊の忌み子か。》
「なにこれ……」
「そういう感想ですよね。ユニークスキルは大体そんな感じの事が書かれてるみたいです」
「でも確かに、私のスキルと同じような事が書かれてる……」
「自分にしか意味が分からないようになってるみたいですね。私は元々魔法職だったのでその意味はすぐにわかりました」
「じゃあ私も職業に関係するもの、なのかな?」
「それはわかりません。固有スキルと普通のスキルの違いはご存知ですか?」
「固有スキルはどんな職でも使える――あっ」
「そういうことですね。なので商人に向いているかどうかはわからないんです」
「あー……じゃあ私が自分で使い道を考えないといけないんだね」
「そうですね」
私はカウンターに突っ伏しどうしたものかと考える。
このスキルを試してみたい気持ちはあるけど、果たしてどう試せばいいものやら。
今のままでは戦う事もできないし、名前からして商人には関係ないかもしれないし……こういう時にインターネットがあればなんて考えてしまう。
「いや、人生に……攻略本はないよね」
「何か言いましたか?」
「なぁんでも! さぁ今日もお店をあけ――」
その時不意に扉がノックされる。
表示板を見ると『赤鬼の谷』と書かれている。
確かあまりに辺鄙な場所にあって赤鬼が沢山いるせいで人気のないダンジョンだったかな?
「……珍しいですね。開けてもいいですか?」
「あ、うん」
「はーい。今開けます」
扉を開けるとそこにはハットを胸に当て頭を下げる初老の男性が立っていた。
「お久しぶりです、さくらさん」
「ルドルフさん! ……なんか少し痩せましたか? っていうかどうしてダンジョンから?」
「少し事情がございまして……入っても?」
「あ、ごめんなさい。どうぞどうぞ!」
「では失礼します。――こちらへ」
ルドルフが扉で隠れて見えない場所へと声を掛けると、金髪を短く整えた40代くらいの男性が扉をくぐり店の中へと入ってくる。
その顔からは疲れが見えるがそれでも雰囲気にどこか高貴さを感じる。
「お初にお目にかかる。私はアレ……アークという。」
「はじめましてアークさん、私はさくらと言います」
「初めましてアリスと申します」
「以前お話したことを覚えてくださってますかな?」
「あ! 新しい店員さんの話ですね? 覚えてますよ」
「ありがとうございます。早速なのですが、この男性を是非ここで雇ってはいただけませんでしょうか?」
「アークさんを?」
私は不思議そうにアークへと視線を向ける。
少し汚れてはいるけど着ている物はとても高価そうにみえるし、何より一目見た時から感じているあの威圧感にも似た雰囲気……とても気になる。
なんだろう、初めて会ったような気がしないのは。
「ご迷惑でなければ」
「うちは構いませんよ? アリスもそれでいい?」
「はい。さくらがそう決めたのであれば」
「それじゃあ今日からよろしくお願いしますねアークさん」
アークは少し驚いた顔をするとルドルフへと視線を向ける。
ルドルフはニコリと笑うとただ黙って頷く。
「……ああ、よろしく頼む。私の事はアークと呼んでくれて構わない」
「じゃあアーク、ようこそさくら商店へ!」
この日、さくら商店に新しい仲間が加わった。




