古の幽鬼王
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「へぇ、じゃあガジェスノーツからこのダンジョンへ来たんですね」
「ああ。セレナも私も家族がいないからな。旅をしながらダンジョンを回る冒険者は向いているんだ」
「私と同じですね」
「さくらもひとりなのか?」
「ええ。一応雇っている従業員は居ますから今はその子が家族みたいなものですけど、身内と呼べる人はいません」
「そうか。お互いに不幸な事だな」
「そうですかね? 少なくとも私はそうは思いませんけど……」
私がそう答えるとエリィはキョトンとして黙った後に困ったような顔をしていた。
まぁ私は家族とほとんど一緒に居なかったから「家族愛」とかそういう感情はかなり薄いけど、エリィはもしかしたら家族の事を大切に思っていたのかもしれない。
そう考えるとさっきの私の受け答えは少し突き放した様な言葉に聞こえたかな?
どうにもここに来てからテンションが高くなっているのか、人の心の機微に対して鈍感になっているような気がするから少し気を付けないといけないなぁ。
まぁ昔から人とのコミュニケーションはとれてなかったけどね……。
「そういえばさくらさんはどうして商人になろうと思われたんですか?」
「そうですねぇ……私の場合は冒険者になろうかなと思ってた時に出会った人が商人で、その人の姿を見ていいなぁって思ったのが始まりですね。あと、何故かしっくりきたというか何というか」
「へぇ、良い出会いがあったんですね」
「そういうセレナさんはどうして魔法使いに?」
「私は……私とエリィは幼馴染なんです。昔から家も隣同士で。エリィは昔から少し男勝りで『冒険者になったら絶対に剣士になる!』って言ってたので自然と彼女を助けるなら魔法使いかなって思うようになって……」
「お、おい! 恥ずかしいから昔の事は……」
「へぇそうなんだ。昔からねぇ」
「な、なんだその顔は! やめてくれ!」
「なんでもないですぅ」
「ふふふ」
恨めしそうな視線を向けてくるエリィと軽口を言い合っているとセレナの脚がピタリと止まる。
「しっ……居ました」
「え?」
「トロルだな。セレナは魔力を網のように放射して敵の存在を感知するスキルがあるんだ。さっきは油断していたのと敵のスキルとの相性でうまく働かなかったが……今ならこんな風に、な」
私達は岩の陰から奥の広場でしゃがみ込み何かを捕食するトロルを発見する。
夢中で何かをむさぼっているのか、こちらには一切気が付いていないみたいだ。
「ネームドモンスターってこんなに早く見つかるものなんだ」
「ここのダンジョンが特別なのさ。モンスターはトロルだけだからポップ数は少なくても他のネームドと違って頻度は高い。まぁそのせいで油断してさっきみたいな事になったんだが……よし、セレナ、あの方法で行こう」
「わかった」
セレナは頷くと短く息を吐き杖を構える。
集中し魔力を高めると魔法の詠唱を始める。
「さくら。まずはセレナが魔法であいつに攻撃する。その魔法と同時に私が斬り込むから万が一うち漏らしたら後は頼む。恐らく問題はないと思うけれど用心するに越したことはないからな」
「わかりました」
「じゃあ、頼むな。……いいかセレナ?」
セレナはエリィの問いかけに詠唱を止めずに頷いて返す。
エリィが剣を抜き岩から飛び出すと同時に最大まで練り上げた魔法を一直線に撃ち出した。
「貫け、貫け! 氷の刃よ! 氷槍弾!」
撃ち出された氷の槍はトロルの背中へと吸い込まれるように突き刺さり、その身体を前のめりに弾き倒した。
直後、後ろから走り寄ったエリィが剣を何度か振るとその刀身が赤い色を帯びていく。
「緋走り!」
勢いの乗った斬撃が倒れたトロルの首元を抵抗なくすっと一文字に切り裂くとその場に赤い斬撃が流れ星のように尾を引き消える。
成程、緋が走るから「緋走り」なのか、ちょっと格好いいなと思ってしまった。
「ふぅ……よし、倒した」
「うん。周りも問題なしだよ」
「凄いねふたりとも! トロル一瞬だったね!」
セレナと一緒にエリィの元へと歩み寄ると私は2人に称賛の言葉を贈る。
ふたりは顔を見合わせると照れくさそうに笑う。
「そうだ、これ」
「ん?」
エリィが手渡してきたのは拳大程の石の塊。
手に持つとそのアイテムが少し熱を帯びているのがわかる。
「それが《トロルの胆石》だよ。こんなに早く出るとは思わなかったけど」
「へぇこれが!」
「1個で良いのか?」
「うん! 大丈夫だよ、ありがとうね!」
私はお礼を言うと異空の指輪の中へと胆石を仕舞いこむ。
「そうだ。手伝ってくれたお礼にご飯でもどう? 私がごちそうするよ」
「お、本当か? どうするセレナ?」
「けれど、私達は命を救ってもらったんだし……むしろ私達がごちそうするべきじゃないかな?」
「気にしないでよ。その対価は銀貨2枚とこの手伝いで終わってることだから。私がお礼するのは気持ちだよ」
「ほら、こう言ってくれてるし、今回はお世話になろう」
「……そうだね、うん。それじゃあお言葉に甘えますねさくらさん」
「まっかせて!」
私は親指を立てて返事をすると早速来た道へと帰ろうとする。
その時、明らかに生ぬるい風が大洞穴の奥の方から漂ってくるのを感じ振り返る。
エリィとセレナも感じたのか、驚いたようにそちらを向くと剣を構え警戒態勢に入る。
「セレナ」
「うん。反応はない……けど嫌な感じがする」
「ふたりとも感じた?」
私達は岩陰へと身体を隠すと辺りの警戒を強める。
「あぁ。一瞬で空気が変わったな。セレナのスキルに引っかからないという事は『隠密』スキルを持っているのかもしれない」
「……手ごたえはあるの。魔力が何かに当たっている手応えは。けれど普通ならそこから反応が返るはずだけどそれがない」
「……アンデッドか?」
「多分」
どうやらアンデッド系のモンスターと普通のモンスターでは察知系のスキルでも反応が違うらしい。
アリスは普通に判別していたが範囲が狭かったのに対して、セレナは広範囲を探れるが判別能力は高くないようだ。
なるほど、そういう所もなんだかゲームっぽく設定されてるんだなぁ……。
「アンデッドなら私得意だよ」
「そうなのか? まぁ私もどちらかと言うとアンデッドの方が得意なんだが……しかし『トロルの大洞穴』でアンデッドモンスターか。一体どういう――」
「動いたっ!」
セレナがエリィの腕を掴み敵が動いたことを知らせる。
岩陰から視線だけを頼りに奥を覗いていると、そのモンスターはゆっくりとその姿を現した。
「――なっ!? エ、古の幽鬼王!? 不味いぞ何故あんなものがここに……!」
「凄い魔力濃度……視認できるくらいの魔力を纏ってる……」
ふたりは本気で驚いたように固まっている。
確かにその姿は先日『幽鬼の墓場』で見かけたどのアンデッドモンスターとも違い、大きさも魔力の濃さも全てが桁違いの威圧感を持っている。
身体の大きさは軽く10メートルは超え見た目だけならトロルの倍ほどもある。
長いローブを着こんだ髑髏の神官のような姿は視覚的にも恐怖心を煽るように感じた。
「不味い少し……そこの岩穴まで下がるぞ」
小声でエリィが後退を指示する。
見ると少し後ろの岩陰に入れそうな横穴が見えた。
まだ古の幽鬼王までは100メートルほどの距離があるが、念のためゆっくりとその横穴へと移動する。
「セレナ、魔力探知を切ってくれ。どうやら私達を探しているようだ」
「わかった。ただ動きが察知できなくなるけど……」
「あの図体だ。嫌でも目に入る」
セレナの周りから発せられていた微弱な魔力が消失すると、エリィは溜息をつき壁にもたれ掛かる。
「ここが魔力を放出する植物だらけなのは救いだな」
「もしかしてあのぼんやりと光ってる苔みたいなの?」
「そうだ。私達はあの苔の一番魔力の溜まっている部分を採取しに来たんだ。そしてそれはトロルの主食でもある」
「じゃあさっきトロルが必死にむさぼってたのは……」
「そう、この苔だよ」
エリィの手にはぼんやりと緑色の光を放つ苔が乗っている。
どこのダンジョンもうっすらと明るいが、ここはそれに輪をかけて良く見えると思っていた。
エリィ曰く、この苔は何処にでも生息していてどのダンジョンでもダンジョン内を照らす灯りとしての役割を担っているらしい。
壁の中で繁殖する物、ダンジョンの魔力によって発光色を変える物などがあり、この『トロルの大洞穴』はとりわけこの苔が表に露出しやすい環境なんだとか。
まぁでも言われてみればそうか、と思った。
だって一度も松明とか持って移動したことないもんね。
便利な、もといダンジョンもよく考えて作られているものだ。
あながち人間を栄養としてみているというのは間違いじゃないのかもしれないね。
「さて、どうする?」
「私はここで奴が引き返すのを待った方がいいと思うわ。ここは階層ダンジョンじゃないからあまり近くによられると逃げ場がない。まぁあの大きさだから途中で追ってはこられないとは思うけど……エルダーリッチの使う魔法は規格外だし出来れば交戦は避けたいわね」
「そうだな。特にあの魔力量だ。魔法なんか使われたら一瞬で消し飛びそうだな。さくらもそれでいいか?」
「うん。避けて通れるんならそれで。でもいざとなったら私がこれで斬りかかるから逃げてね」
「それは?」
「破魔の短剣」
「……そういう事か、アンデッドが得意だって言うのは……だがそれもあの魔力の厚みじゃどこまで通じるか」
「目くらまし位にはならないかな? 本当なら私のスキルでさっさと逃げたいんだけど……お店の中に人がいると解除できないんだよね」
「何の事かわからないが、やり過ごすのが一番だな……」
私達は頷きあうと息を殺し見えないように穴の壁へとへばりつく。
なんだろう、不謹慎なんだけど『お化け屋敷』とかってこういうドキドキ感があるのかな? とか考えてしまう。
昔はこんなにドキドキしてたら心臓が止まってたけど。
どれだけ壁際で息を潜めていただろうか。
じめっとした空気が肌に張り付き、時間の感覚を狂わせてくる。
走って逃げた方が良かったんじゃないかと思ったけど、魔法の効果範囲もわからないしもしかしたらあんな姿でも私より早いかもしれないから油断できないよね。
色んな事を考えていると、唐突にピリっと肌にしびれの様なものが走る。
私には状態異常の効果は効かないはずなのにな、と不思議に思って首筋を抑えるとエリィとセレナの顔色がどんどん蒼白くなっていくのが見えた。
私が心配して声を出そうとするのをセレナが手で制止する。
そしてゆっくりと穴の外を指差し、その指を唇の前へと持っていく。
少しだけ穴の外へと視線を向けると、そこには紫色の霧のようなものが立ちこめているのがはっきりと見えた。
一瞬驚いたけれど、その正体がわかって納得する。
丁度古の幽鬼王が穴の前を通り過ぎているんだ、と。
そしてふたりはその魔力に中てられて体調に異変をきたしているのだろう、段々と汗が滴り落ち苦痛に顔を歪めている。
私のこの『鋼の身体』でさえ感知してしまう程の高濃度の魔力だ、生身のふたりには相当辛いんじゃないだろうか。
『ク……クチオシイ……』
早く通り過ぎるのを願っていると、どこからか人の声が聞こえた気がした。
驚いた私達が顔を見合わせていると続いて声が聞こえてくる。
『オノレ……コンナハズ、デハ……。ワタシノケンキュウハ……カ、カンペキ、ダッタハズウゥ……』
研究? 完璧? もしかしてこれはあのエルダーリッチの声なの?
『イシキガァ、アガガ……イシキガ、ナクナル……ワタシハイマドコニ…………アガココハァ……カ、カァサン……』
エルダーリッチが何処か悲しそうにつぶやいた直後、今まで纏わりついていた濃度以上の魔力が放出されるのを感じた。
その瞬間セレナが杖を外へと突き出すと私達を中心に薄い膜の様なものが形成され、今までピリピリと感じていた魔力が遮断される。
「グッ!? はぁはぁはぁ!! ヤバかった!! ハァあのままだったら確実に死んでいたぞ!!」
「はぁはぁ……ご、ごめんなさい、堪え切れずに結界を張ってしまった……」
「いや、助かったよセレナ。……死ぬよりはよほどいい」
「うん。鈍感な私が感じるくらいの強烈な魔力だった。あれを食らってたら流石に気絶位はしてたかも」
「気絶って……いや、しかしこれからどうするかだ。恐らく奴は気づいた。もう時間もない」
「よし。じゃあ私がやるよ。対アンデッドなら私の仕事だから」
「いやしかしひとりでは……」
「ううん。キツイ言い方になるけど、多分魔力耐性が一番高いのはわたしだから。ふたりはあの魔力の放出に耐えられない。守りながらだとあの大きさには勝てないと思う……」
「……確かに……だがだからと言ってひとりで行かせるのは!」
「エリィ。足手まといが何人出ても囮にもならないよ……。それはさくらさんを困らせてしまうだけ。全てを丸投げしてしまうみたいだけど、ここで一番実力があるのはさくらさんだから」
エリィは少し男勝りな喋り方だけど人情に厚く自分で動かないのは我慢できないタイプ、逆にセレナは合理的で周りが良く見えていて我慢するところを知っているタイプだなぁ。
看護師さんにもこういう人はいたなと思い出す。
どちらも決して間違いじゃないし、どちらの言い分も正しい。
けれど結局それは軋轢を生んで破綻してしまう。
私にはそれを修復する術がわからないんだ。
だから敢えて強く言葉を紡ぐ。壊れてしまう前に。
「そう足手まとい。邪魔だから私一人で行くよ」
「なっ……!」
「……」
「ごめんね。だから無事に生き延びて。 お互い大切な人なんでしょ!」
私は腰の短剣に手を当てると一気に横穴から外へと飛び出す。
エリィが何かを言おうと手を伸ばすが私の速度を捉えることはできない。
穴から飛び出す瞬間に破魔の短剣を抜き破魔の光を浴びせかけるが、エルダーリッチが纏う高濃度の魔力を削り取ったくらいで止められてしまう。
「チッ!そこのアンデッド! こっちだよ!」
私はわざと挑発するようにその辺にあった手頃な石を投げつける。
その石はエルダーリッチの背中へと命中するとその注意をこちらへ引きつけた。
「うわぁ……幽霊みたいな見た眼なのに物理攻撃あたるの?」
私は一瞬呆気にとられたけれど、エルダーリッチの腕が振り下ろされるのを見て後ろへと飛び跳ねる。
標的が私にうつった、と確信する。
本当なら最初の奇襲で倒してしまいたかったけど、まさか止められるとは思いもしなかった。
いや、並みのアンデッドなら倒せていただろうけど、あのアンデッドは何もかも格が違うのだと再認識する。
何にせよ、もっと距離を取ることが出来れば彼女たちが逃げ出す時間を稼げるはず。
それに例え分が悪くても私一人ならいくらでも逃げ出せる自信があった。
ふたりがエルダーリッチから距離を取れれば一瞬で追いついて抱えてダンジョンから飛び出すことも不可能じゃないんだという確信もあったし、実際にそれは不可能な事じゃないんだ。
丁度、視線の先にはエルダーリッチの後ろを駆け抜けていくふたりの姿が見える。
よし! あとはもっと距離を! どうにかそれまで逃げ回れば――
『カ、カカカカ! カースド・アース』
私が何度か大きく飛びのいたのを見ていたエルダーリッチが何か呪文を唱える。
地面へと着地し様子を見ようとした瞬間、その地面へと付いたはずの右脚がまるで沼の上に着地してしまったかのようにどぷりと沈み込んだ。
「――!?」
その時私の意識はエルダーリッチから右脚へと移ってしまった。
その一瞬がはっきりと明暗を分けることになったのは言うまでもない事だ。
『カースド・フレアアァア』
視線を戻した時には、既に眼前へと巨大な紫色の火の玉が迫っていた。
斬り払うことができるかと短剣を構えるが、私にはそんな器用な事はできる訳がないと諦める。
ならば一か八か、防御力に賭けるしかないと咄嗟に顔を守るように腕を交差させ身構える。
瞬間全身を高熱が覆う。
『鋼の肉体』を貫通して熱を伴う痛みが身体を焼いていく。
信じられない事だがこれでも十分にスキルは機能しているだろう。
あの魔力の塊が放った魔法で消し飛んでいないのだから。
「あぐっ!! くぅう!!」
これはこの世界に来て初めて感じるとてつもない痛み。
肌に突き刺さる呪われた炎が身を焼いていく。
このままでは恐らく死んでしまうだろうという考えが頭をよぎる。
時間にしては一瞬、けれど私が感じていた体感時間はどれ程長かっただろうか。
「――ぁ、うぅうううぅ!!」
身を焼く痛みに耐え、ようやく魔法を受けきった私の身体はボロボロになっていた。
服は焼け焦げ、その下の肌は高熱にどろりと垂れ下がっているところもある。
部分的に黒く炭化した肌がずるりと剥けて落ちるが、もうその感触すらわからない。
何とか息を取り込もうと何度も大きく口を開けるが、周りの熱気に遮られ上手く空気を取り込めないでいた。
「ま、だ……だ!」
私は震える手で異空の指輪を操作すると中からエクスポーションを取り出し半分ほど飲み干す。
残ったポーションを身体へと振りかけると、瞬時に皮膚が再生されていくのがわかる。
その様子をエルダーリッチは明らかに狼狽えて見ている。
この機を逃していいはずがない。
「負けるかぁああっっ!!」
走り出した私を迎撃しようとエルダーリッチが大きく腕を振り上げるが、私の速度はそれを大きく上回っている。
瞬時に懐へと近づくと破魔の短剣を抜き放ちその身体へと強引に突き刺す。
短剣の切っ先が魔力の層を抜けエルダーリッチの身体へと触れると、放たれた光の線がその身体を貫通し抉り取っていく。
『ギャアアアアアアァァァッッ!!』
エルダーリッチは身体を食い破られる痛みに悲鳴を上げ無茶苦茶に両手を振り回す。
何度も何度も私の身体にその拳を叩きつけるがダメージを与えることができないと悟ると至近距離から魔法を放とうと構える。
「させるかっ!! 緋走り!!」
逃げたはずのエリィが何処かから飛び込んでくると魔法を放とうとしていた右腕を切り飛ばす。
一瞬驚いたような仕草をしたがそれでもエルダーリッチは尚も動きを止めず、空いた左腕でエリィを殴り飛ばし再度私に魔法を撃ちこもうと構えた。
「凍れ! 凍れ! 凍てつけ世界よ!! 凍結境界!!」
今度はその左腕がバキリと音を立てて凍り始める。
一瞬で左腕を飲み込んだ氷はエルダーリッチの身体まで飲み込もうと襲い掛かるが、魔力の差なのかその動きを止めてしまう。
しかしそこに確実な隙が出来た。
「おおおおおおおおりゃあああっっっ!!!!」
脚に、腕に渾身の力を込めると10メートルを超えるその巨体が後ずさりを始める。
その度に破魔の短剣は深く深くエルダーリッチの身体へとめり込み光が溢れ出る。
「行けぇ!!」
エリィの声が背中を押す。
その声の勢いに弾かれるように、私は破魔の短剣から両手を離しその柄を渾身の力で殴りつける。
剛腕の篭手の全力全開の一撃が短剣の柄を砕き、刀身のみとなった短剣はまるで撃ちだされた弾丸のようにエルダーリッチの身体を突き破るとその身体の内側から驚くほど爆発的な光を放射する。
『グギャアアアアアアアアアアァァァッッッ!!』
光に包まれたエルダーリッチは、最後にひと際大きく断末魔の声を上げるとその姿を消していく。
私は放心したようにその場に座り込むとその消えていく姿をじっと見つめていた。
意識を手放しそうになりながらも、何となくこんなことになるんじゃないかと考えていた事を思い出すと自然と苦笑いしてしまう。
《スキル:貫通耐性、スキル:呪われた光を取得》




