さくら商店、平和を謳歌する
累計PV数が15000PVを超えました!
まさかこんなに多く見てもらえるとは思っていなかったのでとても嬉しいです!
今後とも『異世界アイテムリンカー』をどうぞよろしくお願いいたします!
「ああ、異常だな。詰め所の職員の話じゃ感知スキルの推定反応でも200を超えるアンデッドモンスターが確認されたらしい。それを僅か数分足らずで3分の1以下にまで減らしやがった。いくら上級者ダンジョンの中ではレベルの低い方だとは言っても、だ。あぁそれと『漆黒の花園』を投入したんだな……え? 独断? 『月下美人』が? 珍しい事もあるもんだ。よほどあのお嬢ちゃんにご執心……なんだ何笑ってるんだよ爺さん。同じことを言われた? はは、そりゃなんとも。あぁ。了解だ。そろそろアンパルの方のダンジョンも活性化が始まるだろう。オレはそちらへと向かうよ。あ、それとメリオンで集めた情報の中にそろそろ『反王国軍』が動きそうだという話があったがオレ達はどういう立ち位置になるんだ? ……なるほど。いや、それがあの人の考えならいう事はないだろう。あぁ……了解。それじゃあまたな」
少し広めに作られた部屋の窓枠に腰を掛け背中を預けるとグローブを外し濡れた布で手を拭く。
「ふぅ……オレの念話スキルももうちょい効率が良ければなぁ。毎度毎度、連絡の度にこんなに疲れてちゃ用事にならんぜ」
オレは溜息をつくと机の上に無造作に置かれていたアガビの実に齧りついた。
酸味に一瞬眉根を寄せるが、すぐに瑞々しい甘さが舌の上に広がりまるで水筒から水を飲んだように果汁が喉を潤していく。
「しかし……ダンジョンのアイテム屋か。商人ってやつは考える事が似通ってるな。なぁ、兄貴」
窓の外へと視線を移しながら懐かしい顔を思い浮かべる。
もう何年もあっていないが、噂だけは嫌でも耳に届く実の兄の顔を。
「今も仏頂面して何か面白い事でも考えてんのかねぇ」
そうひとりで呟きながら首に下げたペンダントを指でなぞる。
そのペンダントには花をあしらったレリーフが彫られ、窓から入る日の光を鈍く反射させていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そう言えばさくら、聞きましたか?」
「んー? 何をー?」
「幽鬼の墓場で21階層へと退避した冒険者の話です」
「おお、そういえば……どうなったの? 無事だった?」
「はい。全員問題なく救出されたそうです」
「良かったぁ。あそこで死んだらモンスターの仲間入りしちゃいそうでなんかヤだよね」
「そう、ですね。無事で何よりです」
「けどさぁ――おっと。けど、どうして階層を下に降りて行った私達が途中でネームドモンスターを見つけられなかったんだろうね?」
「それですが、パスティさん曰く冒険者ギルドの調べでは『偽装スキル』の痕跡があったそうです。ただモンスターが稀に所持していることから今回はどこかに身を潜めていた、という判断になったそうですよ」
「まぁ私達も隅々まで回ったわけじゃないしね。援軍が間に合ってて良かったよ」
「そうですね」
「で、肝心のパスティさんはいつ帰ってくるって?」
「ふた月程はアンパルを離れるそうですよ。丁度さくらがメリオン周辺の探索依頼を受けた日に出発されました」
「まったく……一言言ってくれればいいのにさぁ」
「仕方ありませんよ。任務では……」
「そうそれ、ずっと気になってたんだけどさ『漆黒の花園』って何なの?」
「何と言いましょうか、『漆黒の花園』は冒険者ギルドが独自に抱える特殊ギルドの様なもので……それぞれが渾名を持って活動しているそうですよ。本来なら素性を隠して行動しているようですが、あの時は何故か素顔でしたね」
「おー、秘密部隊かぁ……格好いいね!」
「構成人数や素性は不明、唯一公言して活動しているのは調査官のミノスさんだけですね」
「ミノス? ミノス……ミノス……。ええと、その人って牛の兜を被った人?」
「そうです。先日アンパルで見かけられたそうですよ」
「……そういえば、あの人の鎧にも花の紋章が……」
「それが『漆黒の花園』の団章ですね」
「へぇ~! あの人そうだったんだ」
「お知り合いですか?」
「うん。前にここでミックスジュース飲んでいったよ。って言っても、アリスが来る前だけど」
「それは珍しいですね。あの方は人前で食事をとらない事で有名だったはずですが……」
「うん。いつの間にか飲んでた」
「ふふ、貴重な場面ですね」
私達は棚の整理をしながら他愛のない事を話している。
『幽鬼の墓場』の階層突破事件から2週間、あれからは平和そのもので何の問題もなく過ごしていた。
一度ゴレスとアンが挨拶に来てくれたけど、それ以外にはお客さんがそこそこ来てくれるくらいで事件らしい事件はない。
というか、普通はそんなにイベントに巻き込まれる方が珍しいと思うんだけどね。
「さぁて! 今日も元気にアイテムを売りますか!」
「そうですね。頑張りましょう」
そう意気込んだ時、不意に扉をノックする音がした。
「はーい。どうぞー」
「失礼します。おお、お久しぶりですさくらさん」
「あ、ルドルフさん! お久しぶりです! 今日はどうしたんですか?」
「いえ、実は用事がありこちらへの方へ足を運んだのですが無駄足になりました。その時にこの『さくら商店』のお話を耳にしまして。もしや、と思い伺った次第です。」
「それはわざわざ! ありがとうございます!」
「それで早速なのですが……ひとつさくら商店を見込んで注文したい品物があるのですが、よろしいですかな?」
「はいはい、何でしょうか?」
「ポーション系統のアイテムの中に『仮死蘇生薬』という物があります。名前の通り仮死状態を引き起こしその後時間経過で蘇生するアイテムなのですが、これを2本、手に入れて頂きたいのです」
「あぁそれなら、アリス」
「はい。これですよね?」
アリスが棚の中から紫の鮮やかなポーションを2本持ってくる。
ルドルフは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの穏やかさを取り戻す。
「ほう。流石です。その若さで店を構えるだけの事はありますね!」
「いえいえ、たまたまなんですよ。ちょっと前に『幽鬼の墓場』からアンデッドが溢れたのご存知ですか?」
「はい、街で話は聞きましたな」
「その時の冒険者がドロップしたものを買い取ってくれって昨日持ってきたんですよ。持ってても使い道ないからって」
「なるほど、確かにそうでしょうなぁ……」
「確か、全部で3本ありますよ。2本でいいですか?」
「いえ、全ていただきましょう」
「毎度あり~! アリス包んであげて!」
「お待ちください」
「ふむ、あちらの女性は?」
「ちょっと前から働いてもらってるアリスっていう子なんです。私が留守にすることもあるから凄く助かってるんですよ」
「そうでしたか。もう立派な一国一城の主、ですな」
「そんな立派なものじゃ……でもお陰で店舗をもう一段階大きくする算段も付いたんでもうひとりくらい雇いたいですねぇ」
「ふむ……もしよろしければ私の紹介でも構いませんかな?」
「え? 誰か紹介してくれるんですか?」
「はい。確実に……とはいきませんが、ひと月ほど時間を頂ければ」
「助かりますよ! ルドルフさんの紹介なら信用できる」
「そういって頂けると嬉しいですな。ではその時はまたお伺いします」
「あ、それなら私お店閉めてからはアンパルの『小麦粉亭』で部屋を借りてますからそっちへ来てもらっていいですか?」
「かしこまりました。ではそのようにいたします」
ルドルフはポーションの代金である金貨30枚をアリスに手渡すとニコニコとして扉を出ていく。
そういえばあんなもの何に使うんだろう、と思ったけれどあの人もあの人で大変なんだよなぁ。
けどこの時、ルドルフの紹介だからと安易に受けてしまった事を後に少しだけ後悔することになるんだけど……。