彷徨う屍は彷徨う心を求めるのか? 中編
『アンパル冒険者ギルド・パスティよりメリオン支部、並びに管轄騎士団へ報告! 「幽鬼の墓場」ダンジョン内にて未確認のネームドモンスターが発生し冒険者10数名が20階層以降に取り残されている模様! またネームドモンスターは多数のアンデッドを従えて階層を超え地表へと上ってきているとの情報アリ!! 繰り返す!! ネームドモンスターがアンデッドを従え階層を上ってきている!! 至急応援をお願いします!!』
『――はっ!? なぜアンパルから!? こちらメリオン! その情報はどこからだ!?』
『アンパルへ幽鬼の墓場から避難してきた冒険者によりもたらされた情報です! アンパルへは脱出アイテムを使用し逃げ出してきたとの事! 冒険者名はゴレス=ゴーンドとアン=ヘスカトル! 至急詰め所に確認してください!!』
『くっ――メリオン了解!! 至急冒険者と共にダンジョンへと向かう!!』
『管轄騎士団了解!! 至急向かう!!』
『なおアンパルより協力者一名がダンジョンへと向かっています!! 銀髪に赤い篭手の女商人!! アンデッド特攻能力を持っているので彼女が斬り込みますのでフォローを!!』
『ま、間に合うのか!?』
『……恐らく、あと数分で到着予定!!』
『なんだなんだそのスキル!? いやアイテムか!? 装備!? なんでもいいがあそこは我々メリオンの管理ダンジョンだ!! 遅れを取るなよお前ら!!』
「ふぅー……」
伝説級広域伝達アイテム『悠々たる歌声』から手を離すと魔力がごっそりと抜けるのを感じる。
私は傍にある椅子へ腰かけるとため息をついた。
「パスティさん! ゴレス=ゴーンド、アン=ヘスカトル両名の身元保証終わりました! どちらも詐称反応なく極めて信ぴょう性の高い情報です!」
「そう、ですか。ありがとうございます」
時間にして20分程前だろうか。
私の家へさくらさんが駆け込んできた時は正直驚いたけれど、その話の内容にも驚きを隠すことができなかった。
曰く『幽鬼の墓場からアンデッドが溢れるかもしれない』というのだから。
極稀にダンジョン外へとモンスターが溢れることがあるのは周知の事実で通称『繁殖期』と呼ばれ、ある特定のネームドモンスターが産まれた際にダンジョン内でのモンスター数が増加し入り口から外へと逆流してしまう事がある。
けれどこれは時期も決まっており、更にいうなら極めて低い確率でしか起こらないいわば自然災害に近い現象だ。
さらにダンジョンから溢れたモンスターは長時間、ダンジョン外では活動できない事から近くに村や街があるというような特定条件下でなければ被害が出ることもほとんどないと言われている。
しかし今回は相手がアンデッドだ。
今まではゴブリン、コボルトと言ったモンスターだったが、アンデッドがダンジョンから外に出たという記録は存在しないためどういった被害が起こるのかもわからない。
その為、こうして緊急連絡用の伝説級アイテムを使い通達までしたのだ。
「……しかし、前回の階層ボスのアンデッド化に始まり今回のアンデッドモンスターの奇妙な行動。アンデッドばかりに異変が起きてますね。何か理由があるのかしら……」
思わず口から出た言葉に答える者は誰もいないが、代わりに『悠々たる歌声』からこちらを呼ぶ声が聞こえる。
『――アンパル、聞こえるか?』
急いで駆け寄ると魔力を流しながら返答する。
『はい、パスティです』
『おぉ、お主か。大変な事になったのう。して、向かったのはあやつか?』
『はい。どうやら《商店》経由で冒険者が助けを求めてきたようです。ですので時間は早くなったけど私が行く、と。恐らくもう到着しています』
『ふっ、相も変わらずの猪突猛進ぶりじゃな。まぁ今回はあやつに任せるしかないな。……じゃが、それにしてもおかしいと思わんか?』
『はい。私もそう考えていました。アンデッドモンスター、ですね』
『そうじゃ。以前の階層主のアンデッド化もそうじゃが、此度の階層越えもアンデッドモンスターが関係している。これは何か重大な秘密が隠されていても不思議ではないと考えている。それでな、この騒動に決着がついたら特別部隊の編成をしたいと考えている。どうじゃ、久々に頼めぬか?』
『……わかりました。休暇は終わり、という事ですね』
『なに、叩いて埃が出なければまた休暇じゃよ。まぁ埃が出てもお主にはまたすぐに戻ってもらうが』
『では編成はお任せします。私は準備を整えておきますので』
『頼む』
『はい』
『あー、そうじゃ。あやつには告げて行けよ。急にいなくなったら悲しむからのう』
『は? いえ、それは……』
『構わんよ。あやつはもう身内の様なものじゃ。それに……知っておいた方がいいと思うからのぅ』
『何かお考えが?』
『どうかのう。あやつには情報をため込んでいてもらう必要がある、と考えておる。どうにもあの者を中心に物事が起こっているように感じるのでな。必ず我々にも、あやつ自身にとっても有益になるじゃろう』
『ふふ、マスターは本当に彼女にご執心ですね?』
『何、可能性に賭けておるだけよ。それにな、あやつだけではない。お主も、そしてアーレンも、他の者もそうじゃ。全ての者がこの世界に必要とされているのじゃよ』
『私も、そう感じます。……ではこれで』
『うむ。土産、楽しみにしておるよ』
『はい』
「暫くはお茶もできなくなるなぁ」
私は溜息をつくと部屋のソファーに身を預ける。
眼鏡をはずすとぼんやりと眼が光るのを感じ手で覆い隠す。
「今回は早く終わるといいなぁ」
まるで誰かに縋るように溜息のような言葉が漏れ出すが、やはり私の呟きに答える者は誰もいなかった。




