襲撃者 後編
「……ぅ、あ、あれ?」
「お、目が覚めた?」
アリスは一瞬何が起こったのかわからないといったような顔をしたが、周りを見渡し身動きできない事を悟るとその顔に落胆と絶望を浮かべ項垂れる。
「早速で悪いんだけど一応聞いておくね? どうして私の店を……いや、私を襲ったの?」
「……」
「そのまま沈黙を続けるならさくらさんへの強盗未遂として身柄を拘束します。また『錯乱の洞穴』内での殺人未遂容疑もかかっていますのであなたのお仲間にもお話をお聞きします」
「か、彼らは、関係ない!」
「それは私が決める事ではありません。少なくともダンジョン内で意図的に攻撃したという事はそれだけで罪に問われますから。ご存知ですよね? この大陸での法は厳しい。精神を病んでいても執行されるという事を」
「……わ、私のパーティは、そこの商人が持っている指輪を探して、あ、あのダンジョンへと入ったの。けどすでに指輪は拾われていて……だ、だから彼女から……」
「奪おうとして返り討ちにあった、と」
「ううわ、本当に完全な逆恨みじゃん」
「わ、私だって! 事の原因は私達にあると、お、思っている。けど、けどだからと言って仲間があんな……あんな自分でご飯も食べられないような姿に、な、なるのは許せなかった」
「しかしダンジョンのアイテムは基本的に発見者のもの。もし彼女があなた達を騙して手に入れたなら話は分かりますが、先に見つけた者を排除して手に入れてもいいならダンジョンの中はさながら殺し合いの為の壺ですよ。そんな事、貴方達ならわかっているでしょう?」
「……わかって、いたはずなのに……どうして私達は……」
アリスは俯くと涙をボタボタと零しながら泣いた。
何となくその姿には悪意を感じないのは、彼女たちをそういう場所へ追いやった私の負い目もあったのかもしれない。
「あのさ、ちょっといいかな?」
「……」
「錯乱の洞穴ってさ、私みたいな完全耐性がないとずっと精神を蝕まれるんだって知ってるよね? 色々調べてみたら精神異常耐性のポーションも万能じゃなくて、段々とポーションへの耐性がついちゃうから効き目が弱くなるって言うし。だからあの時はあなた達のパーティは『状態異常』にかかってたんだと思うんだよ。やったことは許されないかもしれないけど、情状酌量の余地はあると思うんだ。ね? パスティさん?」
「……そうですね。あのダンジョンはそのギミックの強さから完全な自己責任にはなりますが、襲われた当の本人がそういうならそうなのでしょう」
「だとしたら彼らは十分な罰を受けたし、その慰謝料として彼らが落としていったアイテムは私が貰ったんだからそれでチャラにしようよ」
「ではダンジョン内での殺人未遂に関しては当人の申し出により不問とします。しかし今回の商店襲撃に関してはそういう訳にはいきませんが」
「う、うーん……ちなみにもし捕まったらどんな罰になるの?」
「良くて禁固刑。悪ければ死刑ですね」
「え?」
「良くて禁固け――」
「わ、わかった! わかったから! 結構厳しいのね……そっかぁ、困ったなぁ」
「さくらさん、もし温情を考えているならやめた方がいいですよ。それを許せば彼女自身が自分を許せないでしょう。それに冒険者ギルドの職員として見過ごすことはできません」
私はカウンターに頬杖をつくとじっとアリスを見る。
もうその顔には殺意も、生きる気力さえも残っているようには見えなかった。
「アリスさん、聞いてもいい?」
「……な、に?」
「貴方のパーティってどんな感じだったの?」
「え?」
「だから、貴女が組んでたパーティだよ。街で知り合って組んだの? それとも誰かの紹介?」
「あ、わ、私達は……同じ村の出身なの。16の時に村を出て冒険者になったわ」
「そうなんだ! そういえばどうして錯乱の洞穴にあの指輪がある事を知ったの?」
「そ、それは……アーティファクトで……」
「アーティファクト? もしかして『神話級装備の場所を教えてくれるアイテム』ですか?」
「そ、そう」
「パスティさん?」
「いえ……ただ少し気になる事があって。……恐らくですが、それは罠ですね」
「罠?」
「はい。稀にダンジョン内で手に入るアイテムに『神話級装備の場所を告げる』ものがあります。しかしそのアイテムはダンジョンがバラまくトラップのひとつでアイテム目当てに入ってきた人間を捕食する為の物だと言われています。つまり『撒き餌』の役割を果たすようなんです。私達はそう言ったダンジョンを『捕食型ダンジョン』と呼び立ち入りを禁止しています」
「捕食型ダンジョン!? そんなのもあるの!?」
「はい。普段は特殊な結界を用い侵入を遮断していますが……まさか『錯乱の洞穴』が特殊ダンジョンではなく捕食型だったなんて……」
「けど実際に指輪はあったよ?」
「けれど彼らはそれを手に入れても持ち帰る事は出来なかったでしょう」
「そんなこ――あっ」
『この指輪を身につけし者、無限の胃袋を持つことができるだろう。ただし、選ばれたならば』
「そういえばこんなこと書いてたな……」
「それですね。恐らくは致死性の毒か魔法が仕込まれていたのでしょう。宝箱の中なのか指輪になのか……まさかダンジョン自体も持ち出されるとは思わなかったのでしょうね」
「そん……な……。私達はなんの、た、ために」
「つまりさくらさんが宝箱を空けて装備を取ってくれたお陰で少なくとも『死なずには済んだ』という事ですね」
「わ、わたし、私は……」
悲惨だ。
一生懸命努力して頑張った結果が『ダンジョンに騙されてました』ではあまりに可哀そうじゃないだろうか?
その為に彼らは廃人になってしまった。
確かにリサーチ不足というのもあるかもしれないけど、だからと言って結末がこれではどう声を掛けていいかすらわからない。
そんな重たい話私は好きじゃないんだよなぁ……。
「……さくら、さん」
「はい?」
「お、お願いがある」
「なぁに?」
「わ、私を……どうか、殺人の容疑で訴えて欲しい……。証人はそこの貴女にお願いしたいの。できればもう私は生きていたくない。惨めだ。そんな事のた、ために皆あんな事になって……! 私は、逆恨みしてまで……! ごめん、なさい……どうか頼みを聞いてほし――」
「断る」
「え」
「断るよそんなの」
「ど、どうして……あ、あなたも、わ、わたしが許せないでしょう!?」
「確かに罪は罪だよ。だけど死にたいという人に手を貸すほど私は命を粗末にしているつもりはないよ。その命は貴女の物なんだから好きにすればいい。どこへなりと消えて死ねばいいよ。だけどそれを人に背負わすな! 自分が許せないなら自分でカタをつけてよ! じゃないと後味が悪いじゃないか」
「さくらさん……」
「甘えないでよ! いい迷惑だよこっちは。命狙われたかと思ったら今度は死ぬ片棒担ぎさせられて、本当に自分勝手だね貴方達って」
「ごめんな、さい」
「私が言うのもなんだけど……。それにあなたが死んだら残された仲間はどうするの? 誰が面倒を見るの?」
「……」
「だったら冒険者としてもう一度立ち上がって彼らの面倒見たらいいじゃん。死ぬ気なら死ぬ気で生きてみたらいいじゃん。冒険者が無理なら他の仕事探してもいいし、出来ることは沢山あるよ」
「でも……」
「それでも死にたいならどうぞ。ダンジョンで死ねばモンスターが綺麗にしてくれるよ。だけどうちのドアの前で死ぬのはやめて」
「あの、さくらさん?」
「……はい」
「つまりは彼女を訴えない、という事ですか?」
「……あー……そうだね。もういいや面倒くさいし。それにあの時お金とかアイテムを落としていってくれたから今こうしてお店開けているんだし。私は言いたいこと言えてもうすっきりしたから! それとも今度はアリスが私を訴える?」
「い、いいえ……私も、あなたがそれでいいなら……」
「よし決定! もうさなんか色々と面倒だからもう今日はアレよ! お店閉めてご飯にしよう! そうしよう! ね!? パスティさんも、アリスもなんか食べに行こうよ! お腹減ったら嫌な事考えるでしょ! ね!」
「……ふふ、わかりました。お供します」
「わ、わたし、は」
「けってぇ~い! いくよほら、縄外して! ああもう、なんでこんなに強く結ぶかなぁ」
「それはさくらさんが……」
「……よし切ろう」
「腕を?」
「!?」
「いやいやいやいや縄だよ!! びっくりしてるじゃないですか! やめてよ唐突なブラックジョークは!」
「ご、ごめんなさいね?」
私はアリスを縛った縄を切ると店の入り口にぶら下げた金属製の板を裏返しドアを開く。
そこは見たことのあるどこかの庭に繋がっていた。
「え!? さくらさん……もしかして」
「あ、すいません。最初にここで《異界商店》使ったから登録されちゃってて。便利だから繋げてました」
「もう……!」
パスティは頭を抱えると苦笑いしながらドアの外へと歩いていく。
私はアリスの手を引くとその見覚えのある庭へと駆けだす。
「いやぁここからだと街も近くていいなぁ」
「そりゃあアンパルの冒険者ギルドの庭ですからね!」
「へへへ……」
私は頭を掻くとアリスを引きずって裏口のドアから出ていく。
「じゃあ1時間後に仕事を終わらせて合流しましょう。場所はいつものお店で?」
「はーい。じゃあまた後でねパスティさん」
パスティに手を振ると私は裏口を抜けて街へと出る。
1時間か……そだれだけあればアリスを綺麗にすることくらいはできるかなぁ?




