さくら商店はかくあるべきか?
「やってくれたなマスター・シリウス」
「はて? 何の事じゃ?」
「例のアイテムの出品者、さては貴様の子飼いだな」
「だから何の事じゃて」
「今まで一度もオークションなど参加したことないだろう!」
「欲しい物がなかっただけじゃよ」
「……白々しいジジイめ」
「ふぉふぉふぉ」
オークション会場を後にして宿屋へと戻った私達の下に《ドラゴンの外殻》を落札したアーレン・ヒルムが尋ねてきた。
最初何か言われるのかとも思ったけど、こんな感じでシリウスとじゃれるくらいで特に恨み言を言われるようなこともなく。
「ところで、例のアイテムだがな。部分的に各国の研究機関へと卸すこととなった」
「早いのう。もうそんな所まで話が進んでいたか」
「ああ。本来なら全てを独占したかったのだろうが……そうはいかんという訳だ」
「あ、あのぉ」
「なんじゃ?」
「おふたりはお知り合いなんですか?」
「お前は……お前か!」
「え?」
「やはりバレたか」
「やはり子飼いだったか! 上手く躍らせたものだなぁマスター・シリウス!!」
「まぁそういうな。投資しておいて損はないぞアーレン」
「……お前、名前は?」
「わ、私ですか? さくらです」
「サクラ……? ああ、最近ダンジョンで露店を開いているという変わった商人とはお前の事だったか」
「え? なんでそれを?」
「知らんのか? 噂になっているぞ。なんでもアンデッドを吹き飛ばし唐突に姿を消したと思ったらその足で違うダンジョンで露店を開き仕入れから買取までこなすと。なかなか手広くやっているようだな」
「は、ははは」
「先ほどの問いに関してだが、元々オレはこのジジイの所で冒険者として働いていたんだ。そこから独立して商会を開いた。だから顔見知りと言えばそうなるな」
「まぁ昔から金を稼ぐことに関しては他の追随を許さぬほどの才能を見せておったからな。冒険者としては弟の方が圧倒的に才能があるが商才に関してはこの大陸では右に並ぶ者はいないだろう」
「ちっ……あいつは体力馬鹿なだけだ。オレは頭を使ってなんぼなんでな。……で、なぜあれをと言っても答えんだろうから訊かんが……お前どこかに店を構える気はないのか?」
「んー……一応考えてはいます。私のスキルがそれを可能にしてくれれば、ですけど」
「レアスキルか……お前、もしかして魔眼も持ってないか?」
「そういうアーレンさんも」
「そうじゃ。お前魔眼持ちだったらしいなアーレンよ。いつからじゃ」
「ああ、とある神話級アイテムのおかげでな。その娘のように純正品ではないが。因みに詳細は教えん」
「ケチじゃのう」
「うるさい。まぁそのうちまた会う事もあるだろうが……店を出したら一度オレに文を送れ。仕事をくれてやる」
「アーレンさんってもしかしていい人?」
「ははは悪ぶりたいんじゃよ」
「うるさいぞジジイ! もう行くからな! 金はマスター・バルクスに預けてあるから受け取っておけよ!!」
言いたいことだけ言うとアーレンは足早に宿を出ていく。
その後ろ姿にはオークション会場で見せたような冷たい雰囲気は微塵も感じることがなかった。
「雰囲気が違うね、さっきとは」
「ん? ああ、奴は仕事には真面目じゃからのう」
シリウスと二三言葉を交わすと今日は解散となった。
私は部屋のベッドへ身を投げ出すとアーレンの言葉を思い出す。
『店を構える気はないのか?』
「お店かぁ……」
冒険者カードを取り出すとスキル一覧へと目を通す。
そこには私の所持するスキルの一覧が表示され、そこをクリックすれば詳細を表示してくれる便利な機能がついている。
《鋼の身体》
《健康な精神》
《異界商店Lv10》
《魔眼:異元の瞳》
「相変わらず増えないなぁ」
そう、私のスキルは《異界商店》以外自前で覚えた物が存在しない。
新しいスキルを覚えないのだ。
「それどころか……レベルも上がらないんだよなぁ」
更に言うと職業レベルも増加していない。
まるでゲームでいう所の「カンスト」状態のように幾ら経験値を稼いでも一切レベルが上がる事も新しいスキルを覚えることもない。
スキルレベルは上がっているけど、スキルを覚えないのだから意味があるのかどうか……。
つまり今の私は『アイテムで武装しなければ何もできない』ただの弱い商人なんだ。
「一度聞いてみないとなぁ。いくら何でもおかしいよなぁ」
そう呟きながら《異界商店》の詳細を確認する。
《異界商店:Lv10》その名の通り異界に存在する商店。同系統のスキル、アイテムと接続することが可能。販売可能商品を選び値段を設定することで商店として機能する。現在『小規模店舗』を設置可能。店舗の拡大はレベルを上げることで可能。
「これもなぁ……売れたらレベルが上がるのか一定金額を稼げばレベルが上がるのかわからないんだよね。ゲームみたいに『あと何回』みたいな表示もないし経験値バーもない。まぁその方がやり込み要素はあるんだけど。しかし、小規模店舗かぁ……どうしたものだろうねぇ」
そんなことを考えていると徐々に眠気を感じ始める。
眠らなくても休まなくても平気だけど、このスキルの便利な所は休もうと思えば休める所だなぁ。
まぁ面倒な事は明日、考えよう――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「と、思ってたんだけど……」
商人祭が始まって30分、『売れ残り市場』なんて揶揄されていた割には人が沢山いる。
というかあっという間に商品が売れてしまって早々に店をたたむ人がちらほら……かくいう私も既に売れるものは何も残っていないのだった。
「あっという間に売れちゃって……なんだろ、なんというか初めてコミケに出た人の気分。売れてるだけマシだけど」
「あのぉ~」
「あ、はい? ああ、お隣の」
「昨日はあの後どうでしたか?」
「あー、なんか《偽装スキル》のかかったアイテムがあったみたいで、そのアイテムは商人ギルドに提出してきました! それ自体珍しかったみたいですよ」
「そうなんですか! でもそのおかげで昨日は大繁盛だったんですよ! おかげで私も昨日、今日で仕入れたアイテム全部売れてしまいましたよぉ、ありがとうございます」
「それなら良かった! 私も全部売れたんでこれからどうしようかなって……皆売るものなくなったらどうしてるんですか?」
「あ、初参加ですか?」
「そうなんですよ」
「じゃあ商人ギルドへ品物を売り切ったのでお店を締めますって声を掛けたらあとは自由行動ですね! あ、あの……よ、良かったら私と一緒に商人祭を回りませんか?」
「あ、そうですね。じゃあ一緒に行きましょうよ!」
「ありがとうございます! あ、私はアンズって言います!」
「あんず? ……私はさくらと言います」
「さくら、さん。……なんだろう、似てますね言葉の響きと言うか」
「確かに、そうですねぇ」
だって明らかにあんずって「杏子」の事でしょう? どう考えても日本人の名前だもん。
でも何となく似ているという反応しかしない所を見ると同じ日本人じゃない……のかな?
顔立ちはなんとなく、いやう~ん……まぁ、いいや。細かい事は後にしてまずはお祭りを回ってから色々と考えよう!
「あ、見てさくらちゃん! あんなところに可愛い髪飾りが!」
「あ、ちょあんず! あーもう……可愛い髪飾り買うの何回目なんだよぉ」
一緒に回り始めてから1時間、歳も同じという事であっという間に仲良くなったけど彼女の行動力は異常だった。
気になる物へは基本的に猪突猛進で突き進み、それが何であろうと納得すれば即購入。
行動規範はまさに『可愛い物』だけど、その目は異常な程優れている。
話を聞くと彼女は隣国セイバーンの騎士の家系に生まれ、何の因果なのか生まれつき最高レベルの鑑定スキルを所持していたらしい。
彼女の父はセイバーン王国でも名の知れた騎士であり、ようやくできた子供という事もあってか彼女を異常な程可愛がって育てたという。
生まれついて固有スキルを持ってる人はいるらしいけど、騎士家系から商人系のスキルを持つ者が産まれるのは非常に稀なんだとか。
まぁでもお陰で誰にも邪魔されず自然と商人になる道を進めたのは感謝していると彼女は言っていた。
「あんずは髪飾りが好きなの?」
「んー……というか私、女性向けのお店を開くのが夢なんだぁ」
「女性向け?」
「そう! 冒険者ってどうしても戦闘職の比率が多くなるじゃない? だからみんな武器や防具には拘るけど他の物って意外と無頓着なの。特に女性の冒険者はどうしても身を守るために無骨なスタイルになりがちだから、そんな人達がさりげなくお洒落をできたらいいんじゃないかって。それに冒険しない時はうんとお洒落して欲しいから!」
なるほど、確かに今まで出会ってきた冒険者は実用的な装備は多くても、ちょっとした小物やお洒落な物は身に着けていなかった気がする。
以前パーティーを組んだ僧侶のアンでさえ、年齢の割には実用一辺倒な恰好だったのを思い出す。
モンスターと戦うのにお洒落が必要か? という人もいるだろうけど、それは人それぞれ趣味だろうし私だって無骨な装備だけじゃなくてお洒落な装備があれば試してみたいかもしれない。
それに四六時中ダンジョンに潜るわけじゃない。
休みの時にも鎧と剣を持ってうろつく訳じゃないし、そう考えれば「女性向けの装備屋」があってもいいんじゃないだろうか?
とりわけこの世界では貴族でさえドレスはそこまで華美な物ではなく、どこか「この形で決まっている」というような型に嵌った形状のものが多いように感じるんだよなぁ。
私が元居たところだと女性向けのお店は沢山あったけどこの世界ではそういうお店は見たことがない。
精々、あんずが今まで見つけた様にハンドメイドで作られたものを細々と売っているような所ばかりだ。
「だから私、こうやってハンドメイドの髪飾りや服なんかを作っている生産職の人と情報交換したり契約して回ってるんだ! 良い物は購入して売り歩いているの。けどお店を持てばいつでもそこで買えるし、作った商品を持ち込んでもらうのにも便利でしょう? だから数年以内にはお店を持ちたいなって! だからまずは商人ギルドの催しには積極的に参加して頑張って名前と顔を売ってるんだぁ」
「へぇ、じゃあもしかしたらこの大陸であんずが販売するお洒落な服やアクセサリーが流行る事もあるかもね!」
「へへ、そうなると嬉しいかなぁ」
彼女は夢を現実にしようと必死で頑張っている。
本当に何かを成せるのは実際こういう人なんだろうな、と感じてしまうのはつい先日アーレン・ヒルムと出会っているからだろうか。
彼も一代で莫大な富を築き上げた人だからなのか、オークションの時の雰囲気は恐怖すら感じるほど鋭く尖っていた。
それとは明らかに方向性は違うけど彼女の行動力も十分にアーレンに通じるところがあると私は感じている。
けれど正直に言って彼女の動機は一部の狭い範囲の顧客にしか刺さらない、けどそれを分かったうえで彼女は突き進もうとしているんだから大したものだと思う。
「さくらちゃんはお店とか興味ないの?」
「うーん、興味ない訳じゃないんだよ。ただ今迷ってて。私はあんずみたいに明確なイメージがない。この道に入ったのもたまたま知り合った商人の女の子の影響を受けてだし、ありがたい事にレアスキルのおかげで今はそこそこ人も来てくれているよ。だけどお店を持ってまで何がしたいかっていうとちょっとわかんないんだよねぇ。私、箱入り娘だから何にも知らないんだ」
「ええと、さくらちゃんはダンジョンで露店を出してるんだよね?」
「そうそう」
「それって十分な『お店を持つ動機』になるんじゃないかな?」
「ん?」
「誰もやらない事をやるって十分に凄い事だと思うよ? だからそれ自体が動機じゃダメなのかなぁって……あ、でもダンジョンの中にお店は立てられないね。ごめんね、変なこと言っちゃって」
「あ……なるほど、そうか。ドラゴンも言ってたなぁ……」
「ドラゴン?」
「ううん、こっちの話だよ! あーでも良かった、もしかしたらあんずにヒント貰えたかも!」
「そう? だったらよかったよぅ」
私達はお互いに笑いあうとまた露店を巡り始める。
さっきまでと違って少し気持ちが軽くなった気がした。
友達と初めてお祭りを回ったからかな? なんてそんな事を考えながら私は新生『ダンジョンのアイテム屋』の構想を練っていく。




