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金貨で撃ち合うオークションという名の戦場を制するのは?

『続きまして、エントリーナンバー8、神話級アイテム《脱兎の如く(ファストエスケープ)》です! アイテム効果は戦闘中、非戦闘中問わずダンジョンからPTメンバーを含め迅速に離脱することが可能な永続アイテム! まさに神話級というに相応しい効果ですが今までも多く出回っているだけに高額とはいきません。それでも! ダンジョン攻略を目指す大型PTには必須のアイテムではないでしょうか!? では開始額は100万リムからです! どうぞご入札を!』


 オークションの会場はこの日の為に作られた特設とは思えない程巨大でしっかりした建物だった。

 中の音は外へは漏れず、外観は安っぽくなくて頑強、200名を迎え入れてもまだ席が余るほどの巨大さだ。

 出入り口は搬入口と参加者の入場口の計ふたつが存在し、火災などの緊急時には速やかに退避できるように順路を分かりやすく、大きく広くとっている。

 会場には各国の大商人、貴族、王族、研究機関の学者等が集まり商品を吟味している。

 

『2200万リム――2300万リムでました! 2300万! お続きになられる方は!? 2300万リム……はい! では《脱兎の如く(ファストエスケープ)》は2300万リムでの落札です! おめでとうございます!』

「2300万か、随分と下がったな? 去年は4000万リムはしただろう」

「産出量だな。このアイテムは年に数個、多ければ10を超える数が出回っている。効果から神話級とされているが、そろそろ伝説級への変更もあるだろう」

「今回も目新しい物はないか」

「数年に一度掘り出し物があればいい方だ」


 隣の職員の会話に聞き耳を立てながら内容をメモしていく。

 こういう場は情報を仕入れるのに最適だとシリウスも言っていたし、聞いたことはなるだけ身になるように覚えていたい。

 最初は戸惑ったけれど、この場に招待してくれたボルクスには感謝しないといけないなぁ。


『では続きまして――これは! 出ました! 《竜の眼(アイオブザドラゴン)》!! 過去数点しか存在が確認されていない正真正銘の神話級装備! この腕輪を装備する者には絶大な魔法防御能力を付加してくれるという超強力な装備! 一説にはアストラル体の魔力が結晶化して作られたと言われていますがその起源は不明! ですが、魔法効果を打ち消すという破格の性能は一流冒険者や王族から絶大な人気を誇ります! では開始額は1000万リムから!――2000万リム! 早い! 2500万リム! 2600万リム! どんどん上がります!』

「へぇ……やっぱり高いんだ」

「勿論じゃ。以前オークションに出品された時は他国の王族が落札したがその額は凡そ10億リム。しかしそれが原因でその王族は民や貴族から批判され王位継承権を失い放逐されたと聞く、まさに守護と呪いを意味する装備でもある」

「ふむふむ」

「しかし此度は大豪商であるアーレン・ヒルムが参加しておるからな。恐らく奴が手に入れるであろう」

「アーレン・ヒルム?」

「隣国で名を馳せる大豪商じゃ。類稀なる商才をもってして10年で成り上がり隣国の貿易の9割を管理しておる。更にいうなら冒険者時代に手に入れたとある神話級アイテムを使い独自の商品を生み出しているとも聞く」

「そんなアイテムもあるんだ?」

「だからこそダンジョンへ挑戦する者は後を絶たんのじゃ。まさに夢と希望の詰まった宝箱のような物。そしてそこから掘り出されるアイテムや装備が世界を豊かにしていくと言っても過言ではない」

「そういう人の事を《アイテムリンカー》って呼ぶの?」

「まぁそうじゃな……」

「よく分からないなぁ」


 私は溜息をつくと関係者席の壁にもたれ掛かる。

 眼下では大勢の参加者が事前に渡された参加札を上げ値段をどんどん釣り上げていく。

 既に5億リムを超え、もうすぐ7億リムへと到達しようとしている。


『7億リム! 超えました大台の7億! さぁもう一声ありませんか!? もうひとこ――』

「10億リム」

『……は!?』

「10億リムと言ったんだ」

『10、10臆リム――!! 一気に飛んだ10億リム!! 過去最高額と並んだぁ!! さぁどなたか! 居られませんか!? 10億リム! 10億リム! …………はい! では『竜の眼(アイオブザドラゴン)』は10億リムでの落札となりました!! おめでとうございます!』


 さも当然と言った顔で椅子にふんぞり返るくすんだ赤い髪の男は面白くなさそうに腕を組むと隣に座る青年に何か指示を出している。


「なんか嫌な感じ」

「あれがアーレン・ヒルムじゃ」

「あー……」


 私はため息交じりに返事をするとアーレンをじっと見る。

 顔立ちは若々しいが眼を見ると何となく寒々しいものを感じるのは、アーレンが大豪商と呼ばれるのと関係するだろうか?

 彼は10億リムものお金を使ったばかりだというのにそれを何とも思っていないかのようにオールバックに固めた髪を撫でつける。

 ふと、彼が視線をこちらへと向ける。


「――っ」

「どうした?」

「いえ、アーレンっていう人と眼があった気がして……」

「ふむ……一応ここは向こうからは見えんようにはなっているが、まぁ奴の勘ならここに人がおる事くらい見抜くだろうな」

「勘、ですか」

「何か引っかかるのか?」

「うーん……なんか、なんていうか、一瞬ですけどあの人の眼が赤く輝いた様な」

「……なるほど、魔眼か」

「魔眼……?」

「うむ。奴の異常な勘の鋭さは商才だとばかり思っていたが、何か秘密があるのだろう。恐らくは魔眼を所持しているのだろうな」

「へぇ」

「じゃがそんな話は聞いたことがない……まぁ今はいいじゃろう」


 シリウスはパスティと目線を合わせると頷き、パスティが部屋を後にする。

 何事かと窺っていると、司会者がオークション最後の出品物を読み上げる。


『えー、それでは最後の出品物となります! ……ええと、これ間違いないよね? え? ここに持ってこられるの? マジで? ……んんっ! 失礼しました。では本日最後の出品物、ええ信じられませんが、アイテムのクラスは測定不能です……!! つまり、正真正銘、この世界に初めて現れたアイテムという事になります!!』

「バカな!?」

「そんなものがあるのか!?」

「おい、すぐに連絡を取れ! 金を集めさせろ! 場合によっては世界がひっくり返るぞ!」

『では、ご紹介します! こちらが本日トリを飾りますまさに当オークションの目玉と言ってもいいでしょう!! 測定不能!! 『ドラゴンの外殻』であります――ってでけぇなオイ!?』


 さっき私が会場の倉庫で異界の指輪から取り出した『ドラゴンの外殻』が10人程の騎士によって運ばれてくる。

 急遽集められた10台の台車に大きな木の板で台を作りその上に今にも動き出しそうなドラゴンが載せられて会場へと現れる。

 先程まで静かに入札していた参加者たちはまるで何かに取り憑かれたような熱狂に声を上げ、余りの驚きに椅子から転げ落ちる人までいた。

 あのつまらなさそうに椅子にふんぞり返っていたアーレンでさえ立ち上がり信じられないといったような目でドラゴンを見ている。


「ううむ……最初に見せられた時も驚いたが。やはりこうして全体を見ると凄まじいのう」

「あ、やっぱり」

「なんじゃ?」

「あの人、アーレンって人。眼が光ってるよ」

「……うむ、魔眼じゃな。お主の出品物に対して使用しているのだろうな。鑑定に関する能力かのう」

「便利そう」

「お主がいうか……」


 会場の熱気は一向に収まらず、司会者の声も参加者に届かないのかドラゴンの周りに殺到し我先にとその感触を確かめている。


『お静かにっっ!!』


 瞬間、先程まで舞台裏で待機していたバルクスが現れると一声で熱気に浮かれ大騒ぎしていた参加者を黙らせる。

 

『出品物には手を触れないようにしていただきたいっ!! まだこのアイテムは出品者の物!! この会場の誰の持ち物でもないのだ!! ルールを守っていただく!!』


 そう宣言すると騎士達が剣を抜き参加者を威嚇する。

 渋々といった様子で参加者たちはドラゴンから離れ自分の席へと戻っていくが、ざわめきはいまだに収まらない。


『えー、商人ギルドのマスター・バルクスです。今宵はオークションにご参加いただき感謝いたします。こちらの商品はとある冒険者から持ち込まれた未発見アイテムであり、今夜この場にご参加いただいた皆様全てに事前に魔術契約で結んでいただいた「秘匿事項」に該当するものであり他言は無用に願いたい。……ご存知の通り、ドラゴンという存在は古より目撃はされてきたものの、誰が《ドラゴン》と名付けたのかも分からないままただ伝説のみが語り継がれれきた。言葉を交わしたという者、魔法が効かなかったという者、剣で斬った部分が一瞬で再生したという者、そして中には大きな四足歩行の獣や少女に見えたという者等曖昧な伝聞のみがその存在証明だったのです。しかし、今宵、この場所からドラゴンという存在は確かにこの世界に存在するという存在証明を得たのです。誰が落札するかはわかりませんが、今この場にいる我々が間違いなく歴史の証人となったのです! ではこれより商人祭オークションの締めを飾ります《ドラゴンの外殻》の入札を始める! まずは5000万リムより!!』

「1億!」

「2億!」

「面倒だ10億!」

「11億!」


 あっという間に『竜の眼(アイオブザドラゴン)』の値段を超えてしまった……正直に言ってちょっと怖い。

 お金に無縁な私でもわかる異常性、私の実家もそこそこのお金持ちだったみたいだけど私が欲しがったゲームやマンガは高くても2~3万円、この世界の価格単価は私の世界と似ているからこそ余計にそう感じるのかもしれないけど『億』という数字が一瞬で増えていく様は気持ち悪さすら感じる。


「商人だもんね……慣れなきゃ……」

「何か言ったか?」

「ううん」


 私は首を振るとオークションの熱気が向かう先を見守る。

 錯覚だけど、会場の熱気がまるで赤い色を帯びて竜のようにくねっているように見えた。

 そして中でもひときわ輝くのがあの男、アーレン・ヒルム、まるで竜の眼のように他の誰よりも輝いて見える。


「50億」

『50億リム!! 続くものはいないか!!』

「55億!」

「60億」

「ろ、65億……」

「70億」

「……71億」

「80億だ」

『80億リム!! 続くものは!』


 バルクスも興奮を隠さずどんどんと語気が強くなっていく。

 私だけがこの中で異質な程の冷めた目線を持っているように感じるのは、私がこの世界の事を知らないからだろうか。

 それとも私がこの世界の純粋な人間ではないからだろうか。

 シリウスでさえこの状況を楽しんでいるように見える。


「では90億でお願いします」

『90億!! 続くものはないか!?』


「ほう? 王国が動いたか」

「王国?」

「文字通りじゃ。この国の研究機関じゃよ。アストラル体の研究に利用するためじゃろうが相手が悪いのう。恐らくは競り負け、そしてもっと高額で買う事になるな」

「そんなにアーレンって人はお金持ってるの?」

「奴は全てを金に換える天才じゃ。恐らく100億出しても痛くもかゆくもないだろう。噂では隣国の王族と繋がっているともいわれているがな」

「そんなコネがあって羨ましいよ!」

「お主が言うのか……」


 シリウスの言う通り既に戦いのステージは100億リムを超えてしまっている。

 

『さぁ130億リムを超えた!! もう他について来る者はいないか!?』

「くっ……流石はヒルム大商会ですね……。国家に匹敵しますか」

「ここでは国も個人も関係ない。全ては金だ。こんなに単純なゲームはないだろう?」

「恐れ入りますよ……」

『では130億リムで――』

「140億です!」

「150億」

「――っふぅ。負けましたね」

『決着か!! ではドラゴンの外殻は150億リムで――』

「200億じゃ」

「なんだと!?」

「え!?」


 私は思わず後ろを振り返る。

 だってさっきまで私の傍で話していた人が今オークション会場に立ってるんだから。


「どうしたね? このおいぼれよりも資産はあるじゃろう? 私は200億リムを提示しよう」

「ギルドマスター・シリウス……」

『200億リム!! 過去最高の金額だぞ!! さぁ一体どうするね!!』

「……300億だ」

「ほう!」

『300億!! 300億が出たぞ!!』

「やれやれ流石にそれ以上は出んのぅ。流石じゃアーレンよ」

「ちっ」

『ではドラゴンの外殻は300億で落札された!! おめでとう!!』


 バルクスとアーレンが握手を交わすと会場は割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。

 途中までアーレンの陰口を言っていた職員でさえも健闘に拍手を送っている。


「300……億……どうしようこれ」


 私は力なく椅子に腰かけるといまだ熱気の収まらない会場を眺める。

 シリウスが一瞬こちらを見てウインクをするのが見えたが敢えてスルーすることにした。

 こうして私の初めてのオークションは気持ちが付いていかないままいつの間にか大金持ちになって終了していたのだった。


 

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