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さくら商店、オークションに出品する

「あのぉ……」


 私は頭を抱え机で項垂れる大柄でスキンヘッドの世紀末商人に声を掛けるが、どうにも返事をする気も起きないのか反応を返してこない。

 私が通称『売れ残り市場』で露店を出そうとしたところに冒険者ギルドのギルドマスターに連れられてやってきたのが彼、商人ギルドのギルドマスターであるボルクス・ハーゲンだ。

 ボルクスは私の《異界商店》を見るなり興味深そうに頷きスキルの詳細を尋ねてきたが、その際に出品準備していたドラゴンから貰ったアイテム……になるのかな? 『ドラゴンの外殻』を見て顔色を変えた。

 そして凄い勢いで私の手を引くとこの冒険者ギルドの隣にあるオークションアイテムの預り所まで引きずられてきたのだ。


「……このアイテムの入手経路をお伺いしたい」

「ええと、実は――」


 彼は私の話をまるで『鑑定』するように真剣な眼つきで聞いている。

 時折何かに頷くと経緯を変わった色のついた紙に書き写し質問をする、そんな状態がたっぷりと1時間は続いただろうか。


「君はまだこの商人ギルドには登録はしていないのかな?」

「まだです。取りあえずお祭りに参加しようと思って来ただけなので」

「よろしい。ではまず商人ギルドに登録してもらいたい。商人ギルドへと登録が完了すれば色々と融通が利く。ギルドを通じて高額アイテムを欲している顧客に紹介することもできる。勿論その恩恵を使う必要もないし、登録しなかったからと言って店が持てない訳ではないが……しいて言うなら店の保証がされているかどうかという問題になる。村の中にある雑貨屋なら問題はないが、もし街や王都で店を持つなら商人ギルドに認められた商人の方が信頼度では桁違いだ。それに普通は登録しただけでは店は持てない。厳しい審査が必要になるが、今回はこちらのお願いを聞いていただくことを条件に与えられる権限を全て与えようと思う」

「条件、ですか?」

「まず商人祭には普通に参加して貰って構わないが例のアイテムは夜間開催されるオークションに出品して貰いたい」

「オークション……」

「理由としては2つある。まずひとつはアイテムのレアリティだ。知っているかどうかはわからないが、君が持つその『ドラゴンの外殻』というアイテムは今まで一度もこの世の中に出てきたことがない。勿論公式な記録で……という意味だが。そういう意味で露店で売るよりもオークションで売った方が盛り上がるし何より素性の知れた買い手が多い。その後のアイテムの経路もわかりやすい。もう手遅れかもしれないがそのアイテムを巡っていざこざが起きる可能性もあるし下手をすると他国の介入もありうるだろうと考えている。だがそれをやすやすと許すわけにはいかない。よって公平な場、オークションによって代理戦争というような形で決着をつけてもらう。そしてふたつめの理由、これは極個人的なものだが……そのアイテムがオークションの歴史を覆すところを見たい」

「歴史を覆す? それにどんな意味が?」

「意味? あるとも! なぜなら未発見のアイテムが現れるのはその時代の転換期だと言われている。私は見たことのないアイテムが世界に与える影響を見てみたい。ダンジョンから掘り出されるアイテムが人々にどのような影響を与えるのか見てみたいんだ。それが《アイテムリンカー》に憧れて商人になった私の夢だからな」

「そのアイテムリンカーって最近よく聞くんですけど、いったい何をした人なんですか?」

「それについては後ろにいるシリウス殿がお詳しいだろう」

「え?」


 私が振り返るとシリウスは長い髭を撫でつけ黙って眼を閉じている。


「何せ初代アイテムリンカーがこの世界に生きていた頃、彼を見出したのはシリウス殿なのだから」

「そうなの!?」

「まぁ、のう。顔見知りではあるな」

「一体幾つなんだ……」

「ふぉふぉふぉ」


 シリウスは誤魔化すように笑うとまた眼を閉じる。

 今は語らずということなんだろうか、その態度は何を聞いても答えてくれる感じじゃないんだよなぁ。


「まぁその話は置いておいて。オークション形式にするという事は君の安全を守る事も出来るという事だ。出品者の安全を守りアイテムの出自についての秘匿性を守るのも我々の役目だ。そういう意味ではやはりオークションがいいだろう」

「なるほど。確かに面倒な事は避けられそうですね。ただもう何人かには見られちゃってますけど」

「そうだな。なのであのアイテムは偽装スキルのかかった物で露店を出す商人に協力してもらい接収したという情報を敢えて流す。勿論付け焼刃だが、毎年商人祭では数件程度は偽装スキルが使用されたアイテムが出回る事がある。そう考えれば大体の者は納得するだろうし、現物を見ていない以上は『本当に存在したのか』はわからない。オークション会場で出品されたアイテムの中には参加者と魔術契約を交わし口外をさせないようにするアイテムもある。何とも夢のない話だが、これを使えば事は穏便に済ませられるだろう」

「んー……まぁお金になるんならいいんですけど」

「露店で売るよりはずっと高額になるさ。祭りは明日も続くのだから他のアイテムは明日出品すればいいし、商人祭は毎年3日間は大騒ぎだからな。今年から簡易な地図を配布して売り上げに偏りがある地区をなくすように努めているし君のそのレアスキルの噂がもうすでに出回っているのかあの区画も売り上げはかなり良いそうだ」

「そうなんですか? じゃあちょっとは貢献できたかなぁ」

「ああ。初日参加させてやれないのは申し訳ないが、その代わりにオークションへの参加を許可しよう。本来出品者は参加できない決まりだが今回は特別だ」

「おおー! じゃあそれでいいですよ! なんか楽しそうだし」

「ははは、私が出品している訳じゃないがアイテムを巡って金銭で戦うのを見ていると胸が高鳴るぞ。期待していてくれ」

「ちょっと変わってますよねボルクスさんて」

「自覚しているさ!」


 ボルクスが差し出してくる右手を自然と握り返す。

 興奮しているのかその手は少しだけ汗ばみ力が入っているように感じる。

 それだけ私が売ろうとしたアイテムが異常な物なんだろうけど、まさか歴史を変えてしまう程のものだとは思いもしなかった。

 異世界転生って言うと「見たこともないレアスキル」「見たこともないレアアイテム」なんて普通だけど、いざ実際に遭遇するとなんてご都合な展開なんだと感じてしまうなぁ。

 相手がどれだけ驚いても自分にはその価値観がわからないんだから驚きようがないというかなんというか。

 だけどそれも今夜のオークションで金額として反映されれば私にもわかってくるかもしれない。

 ありがたい事にこの世界の通貨事情は私の元居た世界に似ていてわかりやすい。

 オークションも初めてだし、お祭りの流れは変わっちゃったけどそれはそれで楽しめそうだ。

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