初めてのお祭りは異世界で
朝目が覚めると目の色は元通り黒く戻り、勝手に光る事も発動することもなかった。
水晶の姿見を見ながら魔眼の発動を命じると私の眼は徐々に金色に染まり僅かに発光を始め、そして同時に視界に能力を遂行対象を選択する為のサークルが表示される。
能力発動対象を選択するとその物の情報が簡単に表示され名前の横に星のマークが表示されている。
更にはその物の状態もわかるらしく、折れた木の枝を見ると、
《木の枝(破損)》
と表示されている。
この状態だと簡単なステータスの確認ができるらしく、正直かなり便利だ。
「これすごいなぁ……少しドラゴンの説明と違うけどこれかなり使えるよ」
私は再度姿見に向き合うと恐る恐る自分自身に魔眼の能力を使用する。
《花扇さくら(16)154センチ/50キロ。B80/W60/H85。異世界よりの転生者。病弱な身体をスキルによって無理やり作り替えている。38%%なkっかいそいうs12=)56545――》
「ん……? なんだこれ、文字化けして――」
突然の眩暈に倒れそうな身体をベッドへと横たえる。
見上げた天井がまるで円を描くように歪んで頭の片方が何度も何度もきゅうっと収縮するような違和感で気分が悪くなる。
「これ、入院してた時の……」
少し前の事を思い出して顔を両手で覆う。
しばらく目を手の体温で温めるとゆっくりと起き上がり、眩暈がしていない事を確認すると安堵のため息をついた。
「あー……懐かしいような懐かしくないような。昔は一日に何度もこうなってたっけ。ちょっとマシになってたしこの世界だとこんなことなかったんだけどなぁ」
でもおかしいな……もし疲れや以前みたいに病気のせいならもっと早くこうなってるはずだし……もしかすると自分に『魔眼』のスキルを使ってしまった事が原因なのかな?
そうだとすると私自身は自分の状態を理解することもできないという事になる。
『案ずるな。この娘、何やら複雑な出自のようだ。「祝福」と「呪い」を同時に受けているな?』
そういえばドラゴンがこんなことを言っていた気がする。
最初は話が意味不明過ぎて聞き流していたけれど、よくよく考えたら私自身に関わる滅茶苦茶大事な話じゃないか!
けど『祝福』は多分この世界に来るときに貰ったこの健康な身体……というか鋼の身体の事だろうけど、『呪い』って言うのは一体何のことなんだろう?
単純に考えれば今の文字化けして具合が悪くなったことがそうなんだろうけど、そもそもそれってなんで私に呪いをかける必要があるの?って話になるんだけど皆目見当もつかない。
「まぁ、わかんないや! わからないこと考えてても時間がもったいないし取りあえず朝ご飯食べて明日からの商人祭に備えようかなぁ。あ、お昼からルドルフさんくるんだっけ……」
大雑把に寝間着を投げ捨てると一張羅の商人服に着替える。
この商人服はアンパルで購入した着心地抜群の職業専用装備で、初期装備としては耐久力がとても優秀だとおススメされた。
服で防御力? とか思ったけど、そんな難しい話じゃなくて本当に『耐久力』に優れているだけの話だったんだけど。
何度転んでも破れないし洗濯しても縮まない、色あせない、色移りしないのは本当にありがたい。
「ふんふん~、私はこれしか服持ってないからねぇ。殆ど汗もかかないし使い勝手最高!」
「……少し臭うな」
「……そう、ですね」
「え!?」
私が鼻歌を歌いながら廊下を歩いているとどこからともなく私を批判する声が聞こえてくる。
その声は廊下の途中に設置されたバルコニーから聞こえてきた。
恐る恐る覗き込むと、そこには椅子に腰かけ神妙な顔をするギルドマスターシリウスとパスティの姿があった。
「一応洗濯はしてるんだけど……」
「え? あら、おはようございますさくらさん」
「おはよう。具合はどうじゃ?」
「朝からテンションダウンです……」
「どうしてじゃ? それより良いところに来たな。少し話を聞かせてくれんか?」
「え、何を?」
「例のお主を連れてきたルドルフという男についてじゃ」
「ルドルフさんがどうしたの?」
「あの方、どこかでお見かけした気がするんです。向こうも私をご存じでしたし……ただ記憶にはルドルフというお名前の方は居られなかったものですから」
「あー、でも私も荷物を運んでくれって言われただけだから詳しくは知りませんよ?」
「ふむ。して荷物とは?」
「言えません!」
「だろうな。商人として当然の事じゃ」
「まぁでもすぐに分かると思いますよ。確かオークションに出品するという話でしたから」
「オークション? 成程な……では間違いなく伝説級又は神話級のアイテムじゃな」
「因みに私は『売れ残り市場』で良い物売りますよ! 見に来てね二人とも!」
「売れ残り……ああ、街のはずれにある資材置き場ね? なかなか厳しいところになっちゃいましたね」
「なんか場所の確認に行った時に近くに居た商人さんも言ってたよぉ。去年良い物だしてたけどダメだったって」
「ふむ……幾人かの目利きは隈なく露店を巡ると言われているが、やはり人目につくというのは商売の基本じゃからな。しかしどういう訳か『売れ残り市場』に店を構える商人達はあまりいい品物を置かないと言われているらしい。そういう意味でも客足が遠のく訳じゃな」
「じゃあその風評、私が吹き飛ばしますよ!」
「ほう? 自信があるようじゃな?」
「いえ、ただ見たことないから高値で売れるかな? って思ってます」
「それは楽しみだ。是非ワシらもよらせてもらおうか」
「お願いします! できれば商人ギルドの人も連れてきてくださいね! お墨付きが貰えれば最高だし」
「腹黒い奴め……」
三人で顔を見合わせて笑うと食事をするために1階へと降りていく。
とりあえずお昼前に一度露店の準備をしておこかなくちゃいけないし、今日はちょっと忙しくなるかもなぁ。
「お迎えに上がりましたさくらさん」
「あ、おはようございますルドルフさん」
「お加減はいかがですか?」
「ばっちりです」
「何よりです。ではオークションの出品受付に参りましょう」
「はーい」
私とルドルフは街馬車に乗ると受付をしている商人ギルドへと向かう。
オークション会場は街の中央に特別な会場が作られるそうだけど、受付は前日までに商人ギルドの「オークション出品係」まで出向く必要がある。
商人ギルドの周りは沢山の兵士に囲まれ、オークションの品物を狙う不届き者をギルドに近づかせないように警戒し同時に治安維持にも努めている。
街馬車の窓から身を乗り出して見ているとその中には指揮をとるシルヴィアの姿も見える。
じっと見ていると視線に気が付いたのかシルヴィアが手を挙げて挨拶をしてくれる。
なんだか少し嬉しくなってブンブンと手を振ってみた。
「さくらさん、着きましたよ」
「あ、はーい」
街馬車を降りると商人ギルドのオークション受付窓口に並ぶ。
建物の中に入る時は兵士が二名同行するらしい。
ここまで大きなイベントになると国を挙げての援助があるのか、王都の守りはいいの? ってくらい兵士が多い。
まぁそれだけ期待値が大きいんだろうけど。
兵士に付き添われオークション受付へ入ると、中は思わず後ずさってしまう程厳重な様子だった。
壁際には兵士が10人程待機し、カウンターの背後には巨大な金庫の様な黒い箱が見える。
「どうぞこちらへ」
「あ、はい」
本当に商人か? と勘ぐってしまうような大柄でスキンヘッドの受付に促されるまま椅子に腰かけると、相手はまるで私達を値踏みするような視線を向けてくる。
「失礼、商人の癖でして……それで、本日はどのようなものをご出品予定ですか?」
「ルドルフさん」
「はい、お願いしますさくらさん」
私は頷くとその場で異空を開き、その中から『偽・竜の眼』を取り出すと商人の目の前に置かれている少し高級な座布団? のようなところに置く。
途端に商人の顔色が変わり、まるで歴戦の戦士のような鋭い眼光でアイテムを睨みつけている。
「おお……これは素晴らしい。神話級装備『竜の眼』ですか。いや、少し違うようですが……アイテムとしてはそのように表示されていますね。効果も申し分ない。ではこちらの契約書類に署名を。はいよろしいですよ。開始額はいかほどからにしますか?」
「ではまず1000万リムからお願いします」
「妥当でしょう。かなり盛り上がるでしょう。……はい、ではこちらの指輪をお持ちください。魔力認証ですので指輪を失くされても問題ありませんが手間がかかります故お気を付けを」
「ありがとうございます」
「では明日の夜にまた会場にお越しください。認証されない場合はオークションには出品されませんのでご注意を」
「かしこまりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
世紀末商人とルドルフは固い握手を交わすとニヒルに笑う。
私達は兵士に見送られて建物を出ると街馬車を探して街を歩く。
最初はどんな仰々しい登録方法なのかと思ったけど、蓋を開ければ一瞬で終わってしまった事に少し拍子抜けする。
「ではさくらさん、そちらも明日の準備があると思いますので今日はこの辺で」
「はい! あ、明日は『売れ残り市場』に居ますのでよかったら見に来てくださいね!」
「おお、そういえば目玉商品は何を出品されるのですか? まさか例のアレを……?」
「一応その予定です! 色々と調べてみましたけど出品された記録がないんですよねぇ。だから高額になるんじゃないかって期待してます」
「そうですね。私も今まで一度も見たことがありません。後は人さえ集まればとんでもない事になるでしょう。頑張ってくださいさくらさん。私も友人に宣伝しておきます」
「わぁありがとうございます!」
「ではまた明日」
「また明日~」
私はとりあえずルドルフと別れると一人ぶらぶらと街を歩く。
明日から商人祭の本番、街の活気は最高潮に達しているのが見ていてもわかる。
「おや? お嬢ちゃんも参加するのか?」
「え? ……あ、アンパルでお世話してくれたお兄さん!」
「よう。奇遇だな」
「その節はどうも!」
声を掛けてきたのはアンパルでダンジョンについて教えてくれた赤髪の冒険者だ。
「お兄さんも商人祭を見に来たんですか?」
「ああ。おっと自己紹介してなかったな、オレはオーレンだよろしくな」
「あ、私はさくら商店のさくらです、よろしく!」
「さくら商店、成程お前さんが」
「え?」
「いやなんでも。それで、お前さんは何を売るんだ?」
「ふ・ふ・ふ……それは明日のお楽しみですよ! 『売れ残り市場』に居ますからぜひ見に来てくださいね」
「あそこか! くじ運は悪かったみたいだがその顔だと自信ありだな。是非よらせてもらうよ」
「ありがとうございます! よかったら買ってくださいね!」
「ハハハ、オレは安月給でね。あんまり高い物は買えないさ」
「残念、でもきっと楽しんでいただけるはずですよ!」
「中々煽るじゃないか? なら楽しみにしてるよ」
「お待ちしてます!」
「おう、じゃあ明日な」
「また~」
オーレンは手を振ると人ごみの中へと消えていく。
色々な人に宣伝しているけど、もし売れなかったらどうしようかな?
自分で使うのもいいけど、何をどうしたらいいかわかんないし、出来たらここで資金に変えておきたいというのが本音だけど……少し後ろめたくもある。
まぁくれるっていうしどう使ってもいいよね?
「さぁて! まずは明日の為に商店の品物の調整をしなきゃ!」
お祭りなんて初めてで心臓が高鳴るのを感じる。
明日はきっと楽しい一日になるはずだよね。




