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魔眼

『ありゃりゃ、間違えちゃってたか。だけどスキルとしてはちゃんと発動してるみたいだな。というか間違えたおかげでさらに効果がアップしちゃってるし』


 そこは風の凪ぐ草原。

 その場所で一人の少女が湖の中を覗きこんでため息をついている。

 その姿は花扇さくらに瓜二つ、髪が黒いという相違点しかないように見える。


『しっかし聞き間違えるとはねぇ……健康な肉体を鋼の肉体。鋼の精神を健康な精神に。前者はいいとして問題は後者だよね。どれどれ……』


『健康な精神:常時発動型スキル。常に一定の精神負荷を遮断し乱れた精神を健康な物へと書き換える。ネガティブ思考も全てポジティブ思考に塗り替える為決断力に優れる反面、行動に迷いがなくなるデメリットが存在する。基本的にネガティブな者や危機的状況など大きな負荷が精神にかかる時に最大限の補正がかかり効果が顕著に現れる。その対価として精神異常系スキルの効果を受けない』


『……なるほど。ちょっと、うん。えぇ~……。あー常に精神系のバフを掛けることで他の精神異常の効果を受けないのか。バフ……というよりもデバフ? 呪いとはよく言ったものね! 我ながらしてやってしまったぜ。』


 もうひとりのさくらは頭をガシガシと掻き毟ると自嘲気味に笑う。

 

『ふ、ふふははははは! これじゃあまるで思考するバーサーカーじゃない! とんだ誤算だわね! 通りでおかしいと思ったぜ、コミュニケーションもまともに取ったことのない私にしては上手く商人になってるし強引だし後先考えないし! 何かが起こってもすぐに精神補正がかかってる形跡もあるわね。まぁでも、ポカミスにしては上手く動いてる。きっと目的を果たしてくれるはず……私ならきっと行き着く』


 もうひとりのさくらは乱れた髪を手ですくと目を細める。

 彼女が空を見上げると、いつの間にか夜になった草原には満点の星空が広がり目に見える範囲だけでも沢山の流れ星が流れている。

 草原でひとり楽しそうにくるりくるりと回るもう一人のさくらは鼻歌を歌う。

 次の週末、家族で出かけることを楽しみにする子供のようにいつまでも回り続ける。


『異世界転生、楽しめよもうひとりの私! 生きて生きて生きて生きてそして何を産み出すのか楽しみにしているわ!!』


 嬉しそうに回り続ける彼女の眼はうっすら金色に輝いていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まだ痛みますか?」

「いえ、あー……少しだけ」


 無事ガネッサに辿り着いた途端、激しい頭痛と眩暈に市場のど真ん中で卒倒した私を介抱してくれたのはルドルフだった。

 最初こそ私の顔を見て驚いていたが何かを察したように頷くと宿屋へと連れてきてくれた。

 部屋を取っている『夕日の黄金亭』へと入ると、たまたま1階の食堂で食事をしていたパスティが何事かと駆け寄ってくる。


「さくらさん!? どうしたんですか!!」

「心配はありません。少しお疲れになられたようです」

「そうですか……ええと」

「私はルドルフと申します。今回さくらさんに仕事を依頼しまして……その縁で体調の悪くなった彼女をここへとお連れしました」

「まぁ、それはありがとうございます。私はパスティと申します」

「存じ上げています。冒険者ギルドの……」

「それは、お恥ずかしいです……」

「いえいえ、まさかこのようなお若い見目麗しい女性であったとは。眼福というものです」

「すいませんねぇ、見目麗しくなくて」

「さくらさん!」


 私がぐったりとして手を上げるとパスティは身体を支えてくれる。

 そのまま階段を上ると予約していた部屋の中へと入りベッドになだれ込む。

 ルドルフは溜息をつき襟を正すと頭を下げる。


「ではさくらさん、明日よろしくお願いします。また昼前にお伺いします」

「は~い、それまでにはよくなっときます」

「どうぞご自愛ください。ではパスティさん、私はここで」

「ありがとうございますルドルフさん。また後日挨拶に伺います」

「はい。楽しみにしております」


 ルドルフが部屋から去るとパスティはベッドの傍の椅子に腰かけため息をつく。

 

「まったく。冒険者になって以来貴女は大忙しですねさくらさん」

「あはは……流石に今回は疲れちゃいましたねぇ」

「もう! 笑い事じゃないですよ! レアスキルを持っていても貴方は新人商人なんですよ! それをダンジョンの中で商売したり、色々な街まで走ったり……少しは身体を気遣ってください」

「ごめんなさい。つい、楽しくって」

「楽しい?」

「はい。私、小さい頃病弱で。日の光に当たっただけで倒れてたんですよ」

「そんなこと――」

「いえ、本当」

「……」

「まぁそういう事情があって。走り回ったりこんな風に人と喋るのって凄く新鮮で、楽しいんですよねぇ」

「そう、ですか……あれ?」

「え?」

「さくらさん、その目……あれ、元からそんな色でしたか?」

「どういう……」

「はい」


 パスティから手渡された水晶鏡を覗き込んで驚く。

 私の両目は確かに金色に輝いていた。

 まるであのドラゴンのように。


「あー凄い、金色だ」

「いやそんな呑気な」

「あ、見てパスティさん、ぼんやり光ってますよ」

「えぇ? な、何かの病気じゃ……」

「違いますよ……あ、そういえば眼をくれるとかなんとかいってたっけ」

「眼? まさかそれ」

「不思議だなぁ、なんかキラキラとして見える。パスティさんいま私どうなってますか?」

「――! すっごく金色になってます……眼が。ぶ、不気味ですよ!」

「えええぇ!? ど、どうしよどうしたら収まるのコレ?」

「と、とりあえず何か被るのはどうですか?」

「前見えませんよ!」

「あ、ああそうですね」

「まぁ、一晩寝ればなんとかなるかな」

「なると、いいですね……」


 パスティはそう言うと少し後ずさりをする。

 なにもそんなに気味悪がらなくてもいいじゃん……。

 けれど、確かにここまで光り輝くとかなり不気味なのは認めざるを得ないと思う。

 明日の朝も光ってたらとりあえず布でもかぶってパスティに手を引いてもらおうかな、なんて。

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