ドラゴンと少女
お久しぶりです。
自身の体調不良、父の急逝、重なるような親類の不幸で少し疲れてしまい休止しておりました。
小説より奇なりという言葉がありますが、まさか自身の身に起こりうるとは思いもしませんでしたね。
少しずつ精神的にも調子を取り戻しており、こうして続きを書けるまで回復した事は本当に運が良かったなと思います。
なんとか話をたためるように頑張っていきたいと思いますので、お時間ありましたらよろしくお願いします!
「グオオオオッ!」
どうしてこんな事に? 私が何か悪い事をしたの?
そんな事を考えながら岩陰に身を隠していると断続的な地響きと巨大な魔物の咆哮が止まった。少しの間震えていたが、どうなっているのか確認する為に息を止めたまま恐る恐る顔を出す。
先程まで大人5人を相手に大暴れをしていた魔物は、彼らが逃げていくのを確認するとその巨躯をゆっくりと横たえまるで私を逃がさないようにこの空洞の出入り口を塞いでしまう。
私は彼ら……冒険者達に追われたまたま見かけた洞穴へと逃げ込んだ。他に生き物もなくただの洞穴だと思ったそこはどうやらこの巨大な魔物の巣だったらしい。
魔物を見た瞬間どうしたものかと固まってしまったが、どうせ掴まってあの貴族に差し出されるなら魔物に殺される方がマシだと思った私は、すぐ後ろに迫っていた冒険者の声を無視して身体を横たえ眠る魔物へと駆けだした。
結果は見ての通り、運が良かったのか魔物は走り寄る私へと視線を向けたがすぐにその後ろにいる冒険者を見た瞬間雄たけびをあげ立ち上がり私を飛び越えて彼らと対峙した。多分私が武器になりそうな物を何も持っていなかったからだろう。冒険者達はそれぞれが剣や弓を持っていたのが仇となって魔物を刺激してしまったんだと思う。
(でも、結局……)
いまだに激しく跳ね回る心臓を押さえ、細心の注意を払いながらゆっくりと呼吸をする。大勢に追われる心配は無くなったけれど状況は何も変わらない。追うのが人か巨大な魔物か、その違いでしかない。
けれどその巨大な魔物は視線を空洞の入り口に向けたまま動く様子はない。さっきの冒険者達との戦いで怪我をしたのだろうか? でもそうは見えない。あの巨大な魔物が普通の剣や弓で傷つけられるとは思えない。
(今のうちに……)
逃げ場はないかと更に奥の方へと視線を向けるがどうやらここで行き止まりのようだった。一部天井が崩れ空が見えるがその高さはとても人間では登れない。少なくても魔法も使えない私では無理だ。
(参ったなぁ。今は助かったけど、それもいつまで)
結局はこのままここで魔物の腹に収まるのが私の運命のようだ。母を殺され、村を追い出された私が行きつく先が魔物の胃の中とは……とても幸せだとは言えない。
せめて母の仇だけはとりたかった。私を育ててくれた母、私を差し出せば殺されることはなかったのに最後まで守ってくれた。母親という存在にはいい思い出はなかったけれど、少なくともこっちの母は私の大切な人だったのに……悔しい。大声で泣きだしてしまいそうだ。本来なら許されるだろう。場所はダンジョンの中だけど私の今の年齢を考えれば泣いたって誰も咎めない筈。
「ん? なんか空洞にでた」
諦めてしまおうかと岩にもたれ掛かったとき誰かの声が耳に入ってくる。驚いて顔をあげると空洞の奥、行き止まりの筈の壁には黒樫の扉――と銀髪の少女がひとり立っている。
どこから現れたのか? 彼女は何者なのか? 落ち着き始めていた心臓がもう一度跳ね上がる。もしかしたら助かるのかもしれない。いやそもそも彼女は人? 魔物? そんな事を考えていて判断が遅れた。
「グオオオオオオオッ!!」
次の瞬間、さっきまで空洞の入り口に居た魔物はまるで空でも飛んだかのような速度で私の前へと飛び込んでくる。魔物の巨体が地面を揺らし風を乱す。岩を支えに踏ん張っていたが体力の衰えた身体には思ったよりも力が入っていなかったようだ。
「うっ――あ、あっ」
「あっ!?」
「グオ!?」
風圧で飛ばされ固い地面へと転がった私の耳に少女と魔物が驚いたような声が聞こえる。
「痛……」
右腕を見ると転んで岩で切ってしまったのか大きな傷が出来ている。その傷を見た瞬間激しい痛みが襲ってくる。ダメだ、血を見た魔物が興奮してしまう。襲い掛かられたら――。
死を覚悟し顔を逸らす。あの巨大な口で噛まれるところなんて見たくない。いっそ一思いに……だけどいつまで待っても何も起こらない。不思議に思い痛みに顔を顰めながら視線を戻すと、そこには驚いたように固まる巨大な魔物と少女が見える。
「角、生えてる……」
「グオオ」
「魔族? って、いやいや聞いたことないよ」
「ゴオ?」
「え? いや獣人とかエルフは居るみたいだけど……」
(え? 何がどうなって? この女の子と魔物、会話をしている? この魔物は彼女が飼っているのだろうか? いやそんな馬鹿な……こ、と)
考えれば考えるほど混乱する思考はどんどんと抜けていく血のせいかひどく鈍くなってくる。ついには激しい眠気で瞼を空けていることもできなくなる。
「ご飯、食べたい……」
そこで私の意識は途切れた。




