表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】辺境の令嬢は王子の愛を求めない  作者: 神宮寺 あおい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/41

サイラスの焦り Sideサイラス

「クロエ嬢が先に帰った?」


 急いでホールに戻ったサイラスを待っていたのは、クロエが帰宅したとの知らせだった。


「はい。殿下が席を外されてからしばらくして体調が悪くなってしまったようで……。僭越ながら我が家の馬車を使ってお帰りになりましたわ」


 シャーロットはそう言ったが、一緒にオーブリー邸に来た時は何の問題もなかったクロエが急に体調を崩したのが心配だった。


「調子が悪くなる前に、何か口にした物とかは?」

「いいえ。殿下からも何も口にしないようにと言われておりましたので」


(ノックスからの報告でも問題なかったようだし、前回のように薬物を使ったわけではないのか)


 それには少しだけ安心した。

 毒を含む物を口にすればタダでは済まないからだ。


「だいぶ顔色が悪かったので、私の方からも早めにお帰りになった方が良いのではと勧めましたわ。勝手に申し訳ございません」

「いや、調子が悪いのにここにいても休まらないだろう。馬車を貸してもらえたのはありがたい」

「身に余るお言葉です」


 シャーロットは心の底からクロエを心配しているようで、ターコイズグリーンの瞳が不安に揺れていた。


「クロエ嬢に馬車を貸したのなら帰りが困るだろう。お茶会ももうお開きのようだし、私が送って行こう」


 サイラスがそう言うと、シャーロットはとんでもないとでもいうように首を振った。


「もうすぐ我が家の馬車も戻って来ますし、恐れ多いですわ。それよりもクロエ嬢のご様子を見に行かれた方がよろしいのでは?」


 たしかに、クロエの顔を見なければサイラスも安心できない。

 クロエを助けてくれたシャーロットをこのまま残していくことには抵抗を感じたが、まだこの場に残っている他の令嬢も多かった。


「わかった。では礼はまた別の機会に」

「お気になさらないでください」


 そう言うと、シャーロットはドレスをつまんで頭を下げた。


♢♢♢


 オーブリー邸を出るとサイラスはすぐにマディソン邸へと向かった。

貴族街の入り口側と王城側ということで二つの屋敷の間にはそれなりの距離がある。とはいえ、どちらも同じ街の中だ。

王都から辺境へ行くことを考えれば比べるべくもなく近い距離が、サイラスにはやけに遠く感じた。


 そうして逸る心で訪れたマディソン邸で、しかしサイラスはクロエと会うことはできなかった。


「殿下、申し訳ございません。クロエは帰ってくるなり寝込んでおりまして……」


 通された応接室でサイラスはマディソン辺境伯夫人と向き合っていた。


「主治医が言うには、疲れが出たのではないかということでしたわ」

「そうか。今日は一緒に出かけたにもかかわらず、送り届けることができなくて申し訳なかった」

「いいえ。事情は聞いております」


 サイラスとしては寝顔でも良いから一目クロエに会いたかったが、婚約者といえども未婚の女性の寝室に入るわけにはいかない。


「本当はクロエ嬢に会いたいところだが、無理を言ってはいけないだろう。しかし見舞いには来たいと思っている。目が覚めたら教えてもらえるだろうか?」

「もちろんですわ」


 そうして夫人に約束を取りつけることが、この場でサイラスのできる唯一のことだった。

 

 オーブリー家のお茶会以降、サイラスは毎日クロエに花を贈っている。


 その度に会えないかをたしかめているが、なかなかベッドから起き上がることさえできないクロエは、『伝染病だといけないから』との理由で会うことすら拒んだ。


 もちろん、王子であるサイラスは伝染病などの可能性のあるところに無闇に行くことはできない。

 しかし断られ続ければ気持ちも落ち込んでいく。


 そしてそんなサイラスに追い討ちをかけるようなことが起こった。


「誰かが漏らしている可能性があるということか?」


 ジョシュアからの報告に、サイラスは珍しくも不機嫌そうな声で答える。


「可能性の話ではありますが……」


 ジョシュアの報告は、サイラスがクロエに宛てたメッセージカードや手紙の内容が漏れているということだった。


「カードに関しては誰でも見ることができる状態ですが、だからと言ってその内容が他の者たちの口にのぼるのはおかしいかと」


 たしかに花束に添えているだけのカードはむき出しなため、見ようと思えば誰でも見ることができる。しかしたいていの使用人は王族のカードなどあえて目に入れない。

 何か情報が漏れた時に疑われないためだった。


「殿下の手紙は多くの者たちの手を経てクロエ様の元に届きます。狙おうと思えば不可能ではありません」

「侍従が直接届けていない物は、盗み見ようと思えば可能だろうな」


 もちろん手紙にはサイラスの封蝋が施される。しかし裏の道に通じた者たちならやり用はあるだろう。

 例えば、国王や王太子の手紙は必ず侍従や専門の者が直接相手に届ける。それは間違っても誰かが盗み見できないようにするためでもあった。


 しかしサイラスは第二王子。

 そこまでのことはしていない。


(一番良いのはやはり直接会って話すことだ)


 そう思ったサイラスは、それ以降クロエに宛てた手紙には当たり障りのないことを書き、いつ会えるかと問いかけた。


 何よりも、手紙よりも会ってクロエの顔が見たい。


 その気持ちが大きかった。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録、評価などしていただけるととても励みになります。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ