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【第一部完結】辺境の令嬢は王子の愛を求めない  作者: 神宮寺 あおい


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リリアンの企み Sideサイラス

 オーブリーに招かれた応接室からホールまで移動している時だった。

 後少しでクロエの待つホールまで辿り着く少し手前、廊下の角を曲がったところでサイラスはリリアンと遭遇した。


「殿下! こんなところでお会いできるなんて嬉しいですわ」


 侍女を従えたリリアンが嬉しそうに近寄って来て、サイラスは間の悪さに眉根を寄せる。


(早くクロエ嬢のところに戻りたいのだが、リリアン嬢は簡単には解放してくれなさそうだな)


「こちらの部屋で少しわたくしとお話ししていただいても?」


 そう言ってリリアンが指したのは目の前の一室だ。

 しかしサイラスは、何が待ち構えているかもわからない部屋にリリアンと二人で入る気はなかった。


「あなたと二入きりになることはできない」


 はっきりと告げれば、常日頃であれば何かしらの不満を顔に出すリリアンが朗らかに笑う。


「あら。でも廊下で話していたら誰かに聞かれてしまうかもしれなくてよ?」


 そう言ったリリアンはサイラスに一歩近づくと声を落として続けた。


「殿下とわたくしが婚約していたことを、聞かれてもよろしいのかしら?」

「……もし部屋に入るというのなら、扉は開けたままで、あなたの侍女と私の従者も一緒ならいいだろう」


 おそらくここで断ったとしても、またどこかで絡んでくるに違いない。

 そう思ったサイラスはここで話を終わらせて方が良いと判断する。

 それがこれからの自分とクロエの関係を大きく変えてしまうことになるなんて、この時点でのサイラスが知る由もなかった。


「わかりましたわ。殿下のお望みの通りにどうぞ」


 そうリリアンに言われて、扉を開けたままサイラスは部屋に入る。

 

 長居する気のまったくないサイラスは、個室の椅子を勧めようとしたリリアンを遮り話を促した。


「父も殿下とはもっとお話しをする機会が欲しいと言っておりましたわ」


(あれが()()()()()()()()だとするならば、こちらは遠慮したいところだ)


 そう思ったサラスを知ってか知らずか、リリアンが話し続ける。

 しかし何を言ってもサイラスに響かないことがわかったのか、突然口調を変えた。


「つれないのね。あなたとわたくしは婚約を結んだ仲なのに」

「それは正式なものではなかっただろう?」

「いいえ。公表していなかっただけで決まっていたでしょう?」

「……」


 リリアンの思い込みはサイラスにしてみれば病的と言えるくらいだ。

 何をどう言っても、どれだけ言葉を尽くしても、おそらくリリアンが理解することはない。


 サイラスはそう悟った。


 そんなサイラスに声を震わせながら訴えかけるリリアンは、サイラスが何の反応も返さないことに気づくと突然抱きついてくる。


「私があの子に少しの意地悪をしてしまうのは仕方ないと思って欲しいわ」


 その言葉は、サイラスの怒りに火を着ける。


「たとえどんな事情があろうとも、リリアン嬢の行動は褒められたことではない」


 かろうじて自身の怒りを胸の内に留め、サイラスはそう言った。

 そして体に回されていたリリアンの腕をほどく。


「話がそれだけなら失礼する。私の婚約者はクロエ嬢だ。これからはそのことを念頭に置いて行動してもらいたい」


 言っても無駄かもしれないが、サイラスはそう言わずにはいられなかった。

 そして、サイラスは従者を連れて開いた扉から出て行ったのだった。


♢♢♢


 リリアンに触れられたところが不快で、サイラスは手で服をはたく。

 そして足早にホールへと行こうとしたところでノックスに呼び止められた。


「殿下、ご報告を」


 クロエにノックスの同行を断られたサイラスは、自身がオーブリーと話している間にノックスに邸宅の中、特に使用人たちを調べさせていた。


 ホールに入ってしまえばクロエと合流することになり、ノックスからの報告を聞くのが遅くなるだろう。

 数瞬迷ったサイラスは廊下の途中の扉から外へ出た。邸宅側の入り口に従者を残し、何かあったら声をかけるように命じる。


「王宮の交流会に使用人として雇われていたあの女は、今回のお茶会には関わっていないようでした。おかしな動きをしてる者もなく、大きな問題はないかと」


 あの時とは違ってクロエにも友人ができた。周りに誰かしらがいれば何かを仕掛けるのは難しくなるだろう。


 そしてそれ以上に、オーブリーは合法的にクロエを排除しようとしているように思えた。


「ジョシュアが手に入れてきたリストだけでは証拠として弱い。できれば使用人から直接の証言を得たいが……」

「オーブリー邸の使用人は簡単には口を割りそうにありません」

「オーブリー公に忠誠を誓っているからか?」

「いいえ。どちらかというとあれは恐れているからかと」


 そもそもあれは使用人がリリアンの()()()()()起こした事件だ。

 仮に証言があったとしても、リリアンを罪に問うことはできないだろう。


「……わかった。でも少しでも立証に足る証拠があれば残しておけ。今後何かあったときに、積み上げる物証は多い方がいい」

「承知いたしました」

「ああ、もうこんな時間か。そろそろお茶会もお開きになる頃だろう」


 邸宅内に戻りながら、サイラスはホール手前の廊下に設置されていた壁掛け時計を確認する。


(思ったよりも時間がかかってしまった。クロエ嬢は大丈夫だろうか)


 そんな心配に気が急きながらホールに入ったサイラスを待っていたのは、クロエが体調を崩して帰宅したという知らせだった。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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