令嬢からの招待
メイソン家のお茶会以降も、クロエは母と相談して招待を受けたいくつかのお茶会へ参加した。どの家もクロエに対して好意的であり、母がかなり慎重に参加する会を吟味していたことがわかる。
しかしそれなのに、どこから聞きつけてくるのかクロエの参加するお茶会にはたびたびリリアンが現れた。
どの主催者も困惑の顔を見せていたことを考えると、クロエが参加することを知ったリリアンが後から捻じ込んできたのだろう。
そして時には、会が始まるのに先んじてこっそりと謝罪してくる家もあった。
共通しているのは最初の時点でリリアンを招待してはいないということ。
つまり、リリアンはクロエを攻撃するためだけにお茶会に参加しているといえた。
そしてさらに、クロエを悩ませることがある。
それは、リリアンが顔を合わせるたびにクロエに言う『ある言葉』だ。
他の誰にも聞こえないように言うあたり、その言葉が褒められたものではないことを彼女は知っている。
そして確実にクロエにショックを与えることを分かって、あえて言っているのだろう。
「クロエ嬢? 顔色が悪いが、体調がすぐれないのだろうか?」
不意に自身の思考の海から意識が浮上し、クロエは何度か瞬きをした。
(いけない。今は殿下と一緒にいたのだわ)
クロエが王都のタウンハウスに滞在していることもあり、サイラスは時間を見つけては会いに来てくれる。
今日も予定の間を縫ってお茶の時間を共にしているところだった。
(最近よく眠れていないからボーッとしてしまうのね。殿下と一緒の時になんたる失態なの)
「少し疲れ気味ではありますが、大丈夫ですわ」
顔色があまり良くないのは分かっていたので、クロエはあえてそう答えた。
「無理をさせてはいけないな。今日はこれで失礼するから、よく休んだ方がいい」
サイラスが心配そうな表情を浮かべ、お茶の時間を切り上げようとする。
「いえ、わざわざ来ていただいていたのですもの。もう少しお話しができたら嬉しいですわ」
サイラスがマディソン邸を訪れてからまだ小一時間も経っていない。
いくらここが貴族街の中とはいえ、王宮から移動の時間がかからないわけではなかった。
「そうか……。しかしクロエ嬢の体調のためにも、やはり長居は良くないだろう。だから、今日伝えなければならないことを先に話したい」
そう言うと、サイラスは部屋の隅に控える侍従を呼び、封筒と思しきものを受け取る。そしてその封筒がクロエへと差し出された。
厚手の光沢のある封筒にはサイラスの名が記されている。裏を返せば封はすでに開けられていたが、クロエはその封蝋に見覚えがあった。
「これは……オーブリー家からの手紙でしょうか? 殿下宛のものを私が見てもよろしいのですか?」
「ああ。宛名は私になっているが、中の招待状にはクロエ嬢との連名で書かれている」
うながされて見れば、それはお茶会の招待状だった。
『近い日程での開催で申し訳ないが、半月後にお茶会を催す。ついてはその会に殿下とクロエ嬢の二人で参加いただきたい』
簡単いってしまえば、そのような内容が書かれていた。
通常本格的なお茶会は一ヶ月前には招待状を送る。ましてや相手が王族ともなればさまざまな予定を考慮しなければならないから当然だろう。
しかしこと子どもたちのお茶会に関しては、それほどきまりは厳しくなかった。
元より十五歳以下の貴族の子どもたちはまだ学校には通っておらず、時間に余裕があるからかもしれない。
そして交流会後は子ども同士の社交が重要視されているからこそ、このタイミングでサイラスを招待することもできたのだろう。
「オーブリー公は国の宰相を務めている。その相手からの招待ともなれば断るわけにもいかない。その日一緒に参加することを予定しておいてもらえるだろうか」
サイラスはエスペランサ王国の第二王子だ。
今回のこともクロエには命令すればいい。
それでも『お願い』という形で言ってくれるのは、サイラスの優しさなのだろう。
(殿下は、私とリリアン嬢が上手くいっていないことをご存じなのね)
あれだけさまざまなお茶会でリリアンがクロエに絡んでこれば、当然サイラスの耳にも情報が入っているのだろう。
今回のことも、サイラスと関係なく直接クロエが招待されただけならば断ることも可能だった。
さすがに公爵家からの誘いがある日に他家のお茶会には参加できないが、どうしても嫌ならそれこそ当日に体調を崩したとでも言えばいい。
しかしサイラスと共に招待されたのであれば訳が違う。
サイラスが参加するならば、そのパートナーであるクロエは体調も万全にして必ず一緒に出席しなければならない。
(絶対に私に断らせないようにしたのだわ……)
そこまでしてなぜ、オーブリー家はクロエをお茶会に招待したいのか。
他家でクロエに絡むだけではなく、自身の家に呼ぶからには何か思惑があると考えた方が良いと思えた。
「私は殿下の婚約者ですから。殿下が参加されるのであればもちろんご一緒させていただきます」
だからクロエはそう言うと、にこりと微笑んだのだった。
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