令嬢からの嘲り
十歳を迎えたこどもたちの交流会後、しばらくは母親同伴でお茶会を開くのは皆に共通の認識だった。
また、格上の家から望まれれば招待するのは当然であったが、お茶会に参加する者たちの家格差を考慮しないわけにはいかない。
今回のお茶会に参加しているのは、伯爵家であるメイソン家を筆頭に、クロエを除くほとんどが子爵家か男爵家の令嬢たちだ。
つまり、公爵家のリリアンを招待するには不釣り合いの場ということである。
しかしオーブリー夫人は当然のように席を用意させるとその椅子に腰を下ろした。それは彼女に付き従うように現れたもう二人の伯爵夫人も同様だった。
「リリアン、あなたはあちらのご令嬢たちと交流を深めてきなさいな」
そう言った公爵夫人の言葉に従い、リリアンと共に二人の令嬢がこちらにやって来る。
(あの二人は……交流会の時にリリアン様の後ろにつき従っていたご令嬢たちだわ)
クロエにとっても、とても見覚えのある二人だ。
「ごきげんよう」
そう言ったリリアンはシャーロットを挟んでクロエの反対側の席に着く。そして他の二人の令嬢もまた、リリアンの隣の席を陣取った。
いきおい、クロエに楽しそうに話しかけてくれていた令嬢たちがテーブルから追い出されてしまう。
「交流会ぶりですわね。お会いしたかったので、こちらでご一緒できて良かったわ」
リリアンは扇を広げながらそう言ったが、言葉に反してその瞳はまったく笑っていなかった。
「ごきげんよう、リリアン様」
明らかにクロエに話しかけているとわかっていて答えないわけにもいかず、クロエはまず挨拶を返す。
クロエとリリアンとの間に挟まれたシャーロットは侍女に合図をして、急に増えた客のためのお茶を手配していた。
(シャーロット様に嫌な思いをさせているわね)
そもそもこのお茶会の主催者はメンソン家だ。ここでシャーロットではなくクロエへ最初に話しかけるのはマナー違反とも言える。
しかしリリアンはそんなことはまったく気にしていなかった。
彼女の言動を見るに、下位貴族は高位貴族を優先して当然という思考の持ち主なのだろう。
「そうそう、わたくし先日サイラス殿下とお会いしましたのよ。一応婚約者であるクロエ様はそのことを知っていらしたかしら?」
まるでリリアンがサイラスと個人的に会い、そこには何か特別な理由でもあるような言いように、クロエはピクリと体を揺らした。
反応しては相手の思う壺と分かっていても、抑えることができない。
「そのご様子ですと知らなかったみたいね。殿下はわざわざわたくしに会いに我がオーブリー家へいらしてくださったのよ」
そう言うと、リリアンはくすくす笑う。
「とても楽しい時間を過ごさせていただいたわ。一応クロエ様という婚約者がいるのですもの。わたくしも殿下とそのようにしてお会いしても良いものか悩みましたけれど……殿下が会いたいとおっしゃってくださるのをわたくしの方からお断りなんてできませんでしょう? もちろん、ご理解くださいますわよね?」
リリアンはことさらサイラスが望んで会いに来たのだと強調した。
そしてクロエにはそれが真実なのかどうかを確認する術はない。
「婚約者でしたら他の女性に会いにいくのであれば普通はそのことを知らせてから行くと思うのですが……。でもそうね……殿下はこのことをクロエ様には秘密にしておきたかったのかしら?」
「リリアン様、そんなことを言ってはクロエ様がかわいそうですわ」
リリアンに追従するように隣の令嬢が言ったその言葉には、蔑みが込められている。
(さすがに調べればわかるような嘘をリリアン様が言うとは思えないわ。殿下がオーブリー家へ行ったことは本当なんでしょう。でも、だからといってその理由がリリアン様に会うためとは限らない)
「リリアン様、私は殿下の行動すべてを知りたいだなんて、そんな恐れ多いことは思っておりませんわ。あなたが何をおっしゃろうとも、殿下を信じていれば良いのですもの」
ガーデンテーブルの下、膝の上で握っているクロエの手は震えていた。
リリアンからぶつけられる悪意と、サイラスの行動への不信。
それでも、クロエは何のショックも受けていないような顔をして続ける。
「それに、殿下がどのようにお過ごしになっていたのかを、このような公の場で言うのは問題ではないかしら?」
王族の行動にはいろいろな意味がある。中には公にしてはならないものもあるだろう。サイラスがオーブリー邸を訪れた理由だって、何か訳が隠されているかもしれないのだ。
「……っな!」
リリアンにしては思わぬ反撃だったのだろうか。
一瞬言葉に詰まると、閉じた扇をギュッと握り締めてクロエを睨んでくる。
「リリアン様、温かいお茶がご用意できましたわ。さあさあ皆さまも、先ほどとは違う茶葉で入れたお茶を楽しんでください」
張り詰めた空気を壊すように、シャーロットがそう声を上げる。
指示通りに侍女が令嬢たちの前に新しいティーカップをサーブし、先ほどまでの話題がなかったような空気になった。
明らかに気分を害したことがわかるリリアンは、しかしさすがに来たばかりで席を立つこともできずに口をつぐんだ。
そしてその後はぎこちないながらもお茶会は続けられ、大きな問題が起こることなく終了したのだった。
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