望まれぬ客
クロエの初めてのお茶会は当初の心配をよそに順調だった。
参加者がどこまでクロエの事情を知っているのか、それはわからなかったが、令嬢たちがクロエに対して親しみをもって接してくれたからだ。
今日は令嬢だけのお茶会ということもあり、庭園には色とりどりの花が咲くようにドレスの色が映えている。
少女たちのおしゃべりは小鳥のさえずりのようで、その明るい声にクロエの気持ちも晴れるかのようだった。
「先日の交流会のサイラス殿下とクロエ様は素敵でしたわ」
ある程度時間も経ち打ち解けてきたからか、不意に一人の令嬢がそう話を切り出した。
「本当、お互いの色を纏ったお二人はお似合いでしたわね」
そしてその場にいる別の令嬢もホゥッとうっとりしながらそう言う。
急に話題の中心になり、さらにはそれがサイラスとのことでクロエは気恥ずかしく感じた。
「私たちは殿下にお目通りすることもないから、あの日殿下のお姿を見られただけでも幸運でしたわ」
そう言われて、クロエはこの場にいるのが主に伯爵家よりも下の家格の令嬢たちだということに気づく。
元々あまりそういったことにうるさくない辺境で暮らしていることもあり、クロエ自身はそれほど意識していなかったが、王都では爵位の差はあらゆる場で感じるものなのだろう。
「王宮に上がれるのは重責に就いている伯爵家かそれ以上の家格の方だけですもの」
「交流会前はサイラス殿下は公の場にあまり出てはいらっしゃらなかったですし……」
「辺境伯領で開催される狩猟祭にも、高位貴族の家族は参加できますけど、それ以外は当主夫妻だけなんですよ」
「だから私たち、今まで殿下のお姿を見ることすらできなかったのですわ」
口々にそう言われ、クロエは自身の無知を恥じた。
狩猟祭に関してもクロエは当たり前のように参加したし、他に多くの令嬢や令息が親に連れられて来ているのは知っていたが、彼らがどの家の子たちなのかまでは把握していなかった。
「私、先日の交流会にサイラス殿下も参加されると知って楽しみにしていましたの」
「私もですわ!」
キャッキャと話す令嬢たちを見て、クロエは気づく。
(今日この場にいるのは先日の交流会にも参加していたご令嬢ばかりなのね)
それはきっと、メイソン家の気遣いだったのだろう。
そもそもクロエは王都の令嬢たちに顔が知られていない。それに交流会での二人を見ていなければ、余計な噂話や、それこそもしかするとクロエに対する否定的な言葉が出てきてしまったかもしれないからだ。
(もしかするとあらかじめメイソン家から、参加する家には話がされていたのかもしれないわ)
家としての仕事上のつき合いはあるが、マディソン家とメイソン家は同じ家門ではない。それこそ今まで個人的に親しくしてきたわけではないが、メイソン家からは好意的な雰囲気を感じていた。
(お母さまが私の初めてのお茶会に選んだ理由がわかるわね)
そのことをありがたく感じながら、クロエは令嬢たちの話に耳を傾ける。
そうして最初よりも気楽におしゃべりができるようになったその時、場の雰囲気を壊す来客が現れたのだ。
♢♢♢
最初に気づいたのは、どことなくざわついた空気だった。
少し遠くの方で誰かがしきりと何かを言っている。その声はほとほと困っている様子で、しばらくすると執事と思しき男性が主催者であるメイソン夫人へと近寄ってきた。
他に聞かれることなく耳打ちされた内容がどんなものだったのか。
それをクロエが知ることはできないが、夫人の瞳が驚きに見開かれたのは見てとれた。
少し慌てたように立ち上がった夫人が庭園の入り口へと向かおうとしたその時、まさしくその場所から何人かの女性が姿を見せる。そして彼女たちの後ろから少女たちが姿を現した。
「オーブリー夫人、急にどうされたのですか?」
少しの動揺を見せながらも、メイソン夫人がそう問いかける。
「あら。お茶会に参加しに来ましてよ」
「本日のお茶会は、高貴なる公爵家のご令嬢に参加していただくほどのものではございませんわ」
「そんなことはないでしょう? ほら、あの辺境伯家のご令嬢が参加できるのですもの。たしか彼女、家格としては<一応>我が家と同じでしょう?」
『一応』という部分を強調して言いながら、オーブリー夫人が母を見る。
「高位貴族である我が家に気を遣って招待状を送らなかったのね。そんなこと、気にしなくてもよろしいのに」
そして手にしていた扇を開くと口元を隠し、言葉を続けた。
「下の者に余計な気遣いをかけてしまってはいけないと思いまして来ましたの。もちろん、同席できますでしょう?」
それは問いかけてありながら強制だった。
メイソン夫人は一瞬キュッと唇を噛むとすぐに微笑みを浮かべる。
「もちろんですわ。今すぐ席をご用意いたします」
そして使用人に指示を出すと、夫人がチラリとこちらを見た。
「クロエ様、ごめんなさい」
急にシャーロットに謝られて、クロエは戸惑いを隠せない。
「シャーロット様が謝ることなど何もないでしょう?」
「いいえ。あの方たちはきっと、クロエ様やマディソン夫人に嫌な思いをさせてしまうと思います」
悲しそうに言うシャーロットに対して、クロエは責める気になどならない。もしクロエが嫌な思いをするとしたら、それは直接やり合うことになる相手のせいだからだ。
「何があっても、それはシャーロット様のせいではないもの。気にしないで」
クロエの言葉にうつむいていたシャーロットが顔を上げる。
不安に揺れる瞳が見えたから、クロエはあえて微笑んだ。
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