交流会
その日、王宮のホールには煌びやかなドレスを纏った多くの少女と、ジャケットにショートパンツを合わせたスタイルの少年たちが一堂に会した。
彼らは皆母親と共に会場を訪れ、和やかに談笑しながら交流を進めていく。
本来の社交場ではホールへの入場の順番すら厳格に決められているが、交流会は子どもが主役ということもあり、あえて決まりは緩く定められている。
そのため参加者たちは到着した順番で入場し、それぞれ思い思いの相手と交流を深めていた。
とはいえ、集まっているのは広そうで狭い貴族社会の者たちばかり。
笑顔で談笑ながらも、気づけば高位貴族と下位貴族で集まる場所が分かれていく。
エスペランサ王国には公爵家を筆頭に侯爵、伯爵、子爵、男爵と爵位がある。中でも伯爵の位に関しては差が大きく、栄えている伯爵家であれば侯爵家に匹敵するくらいの権力を有していることもあるが、逆にそれほど税収の多くない伯爵家は裕福な子爵家よりも貧困に喘いでいる。
どの家も少しでも良い家との縁を望み、優雅に談笑しているはずのホールの中は、多くの思惑が渦巻く場と化していた。
そんなホールに、一組のペアが入場してくる。
人々の目を引いたのは、その内の一人が王家の色を持っていたからだろう。
プラチナブロンドの髪にコバルトブルーの瞳。
それは王家に生まれた者の証だ。
たとえその顔を知らなくても、その者が王族であることをその場にいた誰もが認識した。
「サイラス殿下だわ」
高位貴族の間ではその名が上がり、
「あの色ということは、王家の人だよね。第二王子殿下かな」
下位貴族の間では誰なのかが予想された。
そして誰もがエスペランサ王国の王子を認識すると同時に、彼らはその王子にエスコートされている少女に注目する。
少女はダークブロンドの髪をハーフアップにまとめ、耳と首元にブルーサファイアのアクセサリーを身につけている。プラチナブロンドのドレスは今の流行とは一線を画し、デコルテと背中の部分に繊細なレースが施されていた。
グローブに包まれた華奢な手をサイラスの腕に添えて入場してきた彼女が、サイラスの特別な相手であるというのは誰が見ても明らかだった。
騒めく周囲をものともせず、二人はホールに入場すると楽しげに話し始める。
いったいあの少女は誰なのか。
多くの貴族夫人や令嬢、令息の注目を集めているものの、直接二人に話しかけるような者たちはいない。皆が遠巻きに眺めていることに気づいているのかいないのか、二人は笑顔を浮かべながら手にした飲み物を楽しんでいた。
♢♢♢
クロエの初めての交流会は、サイラスと共に入場したからか、最初から多くの人の視線を集めている。
「今左側からこちらを見ているご令嬢は、宰相の娘のリリアン・オーブリー嬢だね」
子どもたちの交流会は今まで出会うことのなかった令息令嬢が交流を持つ場だ。大人の社交界とは違い、相手を知らなくても失礼には当たらない。
それでも、高位貴族であれば自分のことを知っていて当然と思うのもよくあることだった。
サイラスはそのことを知っているからか、クロエと歓談しながらも近くにいる貴族の令嬢や令息が誰なのかをさり気なく教えてくれる。
件のリリアン嬢はコーラルピンクの髪にブラウンの瞳をしたご令嬢だった。
「オーブリー嬢は公爵令嬢ということもあって、相手が自分を知っていて当然と思っている節がある。変に絡まれてもいけないから、覚えておいた方が良いだろう」
ニコニコと微笑みながらも、サイラスが言っていることはわりに辛辣だ。
「彼女の後ろに控えている二人は同じ家門の伯爵令嬢たちだ。あの三人はいつも一緒に行動している」
(いわゆる取り巻きということかしら?)
辺境伯領では高位の令嬢に付き従う同じ家門の下位令嬢というのはあまり見ない。
そもそも辺境で一番高位の令嬢がクロエであり、同じ家門の令嬢たちとは爵位の違いはあれども友人として接しているからだ。もちろん、必要に応じて彼女たちも礼を尽くした態度を取ってくれるが、基本的にはほぼ対等の友人関係だった。
(サイラス殿下があえてこうして教えてくださるということは、彼女たちには近づかない方が良いということでしょうね)
そう思いながら、クロエはサイラスの説明に耳を傾ける。
リリアン嬢だけでなく、侯爵家や伯爵家の令嬢、そして当然令息たちのことも、サイラスは驚くほど多くの人たちを覚えている。
「殿下はすべての方の爵位とお名前を覚えていらっしゃるのでしょうか?」
恐る恐るそう問えば、サイラスは意外なことを言われたとでもいうような表情をする。
「今日参加している者たちのことは覚えているが、恥ずかしながらそれ以外はまだ覚えきれていないんだ」
(今日の参加者だけでも何人いるかわからないくらいなのに、その全員を覚えているというの⁉︎)
その事実に、クロエは驚愕した。
そしてサイラスと結婚することになったら、自分もまたそれだけのものを求められるのだろうと思うと不安を感じる。
「……ああ、心配しなくても大丈夫だよ。ある程度の高位貴族は覚えなければならないけれど、それ以外は自分が親しくなりたいと思う者たちを知っていけばいい」
クロエの気持ちを察知したのか、サイラスはすぐにそう言ってクロエの不安を拭い去る。
(本当に、人の気持ちに聡い方なのだわ)
クロエは感心すると共に、でもほんの少し心配になる。
(人の気持ちに敏感なのは良いことだと思うけれど、気遣ってばかりで殿下は疲れてしまわないのかしら?)
そう思いつつも、きっとサイラスはそんなことを相手には悟らせないのだろうとも思った。
「殿下」
そんなもの思いに耽けるクロエの耳に、サイラスを呼ぶ侍従の声が入る。
視線をやればサイラスが侍従と言葉を交わした後クロエに向き直った。
「少しこの場を離れなければならなくなったけれど、すぐに戻ってくるからここで待っていてくれるかい?」
もちろん、クロエに否やはない。
「かしこまりました。ここでお待ちしておりますわ」
当然そう答えたクロエを置いて、サイラスが侍従と移動していく。
(邪魔にならないように、隅に寄っていた方が良いわね)
そう思うとクロエは飲み物を片手に壁際に寄った。
しかし、大人しくしていたくてもそうはいかないのが社交の場だ。
子どもが中心の交流会といえども、そこは小さない社交界と同じ。サイラスが離れたのを見計らい、クロエに近づいてくる者が現れるのは必然だった。
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