勇者「そろそろ出勤か」⑤
魔法使い「...勇者、あんたのことが好きだった」
勇者「......」
魔法使い「いや、ちがう今も大好き」
魔法使い「だから本当はね、ずっとあんたの隣にいたかった」
勇者の手が止まる。
魔法使い「でもね」
魔法使い「この子が壊れるのは嫌なのよ」
僧侶「......魔法使いさん」
魔法使いは苦笑する。
魔法使い(私は勇者が好きだった。いつからだったんだろうな)
魔法使い(でも今言ってもどうにもならない、だから本当は言うつもりなんかなかった)
魔法使い(けど僧侶が自分の気持ちで壊れそうになってるし...)
魔法使い(だから最後ぐらい叶いっこない本音を言わないと)
魔法使い「私さ、こういうの一番向いてないのに.......ね」
ペンが紙を走る。
勇者「やめろ!!」
魔法使い「やめない」
僧侶「だめ...そんなの......!」
魔法使いは視線を落とし、そして、静かに署名する。
魔法使い「僧侶が泣くの、嫌いなの」
インクに透明な雫が染み込む。
その瞬間。魔法使いの契約が終わった。
僧侶「......どうして」
魔法使いは答えない。
代わりに、少しだけ不器用に笑ってみせた。
魔法使い「戦士をちゃんと捕まえなさいよ」
僧侶「......え?」
魔法使い「じゃないと、私、無駄になるから」
その言葉の意味を、
僧侶はすぐには理解できなかった。
でも魔法使いだけは分かっていた。
自分は勇者には届かなかった。
だからせめて、この子の“まだ届く関係”だけは残したかった。
魔王は満足そうに紙を拾う。
魔王「良い選択だ」
勇者だけが、何も救えなかった顔をしていた。
契約書が淡く光ったと思ったら魔法使いの体から力が抜け、吸い寄せられるように魔王の傍へと歩み寄った。
その瞳には完全に生気が失われている。
魔王は、魔法使いの顎を細い指先で乱暴にすくい上げる。
魔王「余の配下には、人間の女。それも誇り高き魔法使いを『道具』として有効活用したいものが大勢いてな」
魔王「人事権はすべて余にある。貴様が余の忠誠を誓う限り、彼らの部屋に彼女を『配属』させることもないのだがな・・・」
魔法使いは拒絶することもできなくなすがままの状態だった。
知っている。俺の嫌がることをさせてるんだろ?
魔法使いなんか見てないで俺しか見ていない。
魔法使いは涙が流れていたと思う。
俺も目の前が霞んでうまく見えなかった。
魔王「くくく。あーーーっはっはっは。」
魔王は満足そうに契約書に拾った。
魔王「本当に良い選択だった」




