表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

勇者「そろそろ出勤か」④

僧侶は魔王を見て、唇を噛む。


僧侶は、戦士の背中を見ていた。


玉座の間に入った瞬間からずっとだ。


いつもより、少しだけ姿勢が硬い。


いつもより、少しだけ声が少ない。


それだけで分かってしまう。


僧侶(ああ、もしかしたらまた、仕事なのかな......)


僧侶はそういうのに、妙に気付いてしまう性格だった。


戦士は、僧侶に気付かないふりをしていた。


気付いていたら、壊れると思っていたからだ。


あの優しさは、そういう種類のものだと。


魔王の足元に紙が広がる。


音もなく、机もないのに、そこに“契約”だけが置かれる。


僧侶に一枚。魔法使いに一枚。


魔王「さて僧侶。貴様は既に適性が確認されている」


僧侶「......適性?」


魔王「治癒、精神安定、兵站管理。魔王軍において最も希少な資源だ」


僧侶は笑ったつもりだったが、失敗していた。


僧侶「そんなの、ただの回復魔法......」


魔王「違うな。貴様は"人を助けることを諦められない"」


その言葉で、僧侶の指が止まる。


戦士が、わずかに息を吐いた。


魔王「僧侶、貴様は魔王軍医療統括補佐として任命する。」


僧侶「......イヤ」


即答だった。初めての抵抗だった。


魔王は少しだけ目を細める。


魔王「拒否は可能だ」


僧侶「なら......」


魔王「だがその場合」


紙が一枚、僧侶の前に滑る。


そこにはすでに“戦士の村”という文字があった。


僧侶の呼吸が止まる。


魔王「保護優先順位は下がる」


魔王「戦士の監視対象も、もしかしたら再編されるのだろうな」


戦士の肩が、ほんの少し動いた。


僧侶「......それは」


僧侶の声が震える。


僧侶「脅しですか」


魔王「さて、それはどうかな」


沈黙。


勇者が何か言おうとする。


まだ沈黙が続く。その時。


魔法使いが、僧侶を見ていた。


僧侶は気付いていない。


でも魔法使いは知っていた。


この子が戦士を見る目を。


戦場でも、休憩でも、夜でも。


ずっと同じ目をしていたことを。


魔法使い「......バカ」


僧侶「え?」


魔法使いは一歩前に出る。


そして、契約書を見下ろす。


魔法使い「それ、私書くわ」


勇者「おい、やめろ!」


魔法使い「うるさい」


僧侶が顔を上げる。


僧侶「なんで......魔法使いさんが.......」


魔法使いは一瞬だけ僧侶を見る。


その目は、少しだけ優しい。


少しだけ悔しい。


魔法使い「あなた、ほんと分かりやすいのよ」


僧侶「......?」


魔法使い「戦士のこと、ほんと見すぎ」


僧侶の顔が赤くなる。


僧侶「そ、そんな.......!」


魔法使い「ありすぎるのよ」


即答だった。魔法使いは、ペンを取る。


契約書の上で止まる手。


一瞬、ペン先が震える。


魔法使い「実は、私さ」


小さく言う。


誰に向けた言葉でもない。


魔法使い「勇者、あんたのこと好きだった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ