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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」3章12話

空一面を灰色の雲が覆っていた


冷たい風が街道を吹き抜け


刈り終えた麦畑を渡っていく


畑には藁束が並び


村人たちは薪や野菜を忙しそうに運んでいた


その道を、一人の骸骨と一人の女性が歩いている


リリアは少しだけ空を見上げ、小さく息を吐いた


「少し寒くなってきたね」


骸骨戦士は何も答えない


それでも歩幅は自然と揃っていた


何十年もの旅で、互いに馴染んだ歩幅だった


街道の先に小さな村が見えてきた


煙突からは白い煙が立ち上り


どこか懐かしい匂いが風に乗って流れてきた


「今日はあそこで泊まろうか」


骸骨戦士は静かに頷いた


それだけで互いに伝わっていた


長い旅の中で、それが当たり前になっていた


二人は宿へ荷物を置き、その村で数日を過ごすことにした


骸骨戦士は毎日のように村人の仕事を手伝った


薪を運び


荷車を持ち上げ


頼まれれば、黙って薪を割った


「おぉ、助かるよ」


村の老人が笑う


最初こそ遠巻きにしていた村人たちも、少しずつその姿へ慣れていった


やがて、子どもたちが後ろをついて歩くようになった


「すごーい!」


「お兄ちゃん見て!」


骸骨戦士は振り返らない


それでも子どもたちは楽しそうだった


一方、宿ではリリアが女将と一緒に夕食の支度をしていた


「手際がいいねぇ」


「旅が長いですから」


リリアは笑いながら野菜を切る


今年の麦の出来


冬は雪が降るのか


そんな何気ない話が続く


外から薪を割る音が聞こえてくる


リリアは窓の外を見て、少しだけ微笑んだ


数日後


村の広場では子どもたちが走り回っていた


その中の一人がリリアを見つける


「あ、おばちゃん!」


リリアは目を丸くした


少し考えてから笑った


「おばちゃんかぁ」


「お姉さんじゃなくなっちゃったね」


その言葉に、近くにいた女将も笑った


「十分若いよ」


「そうかな?」


リリアは照れくさそうに笑う


それでよかった


歳を重ねることを恥ずかしいとは思わなかった


ここまで歩いてきた時間を、大切に思っていた


夜


暖炉の火が静かに揺れていた


外では風が窓を鳴らし、枯葉が石畳を転がっていく


リリアが小さく咳をした


「……こほっこほっ」


少し長い


骸骨戦士が薪を持つ手を止めた


「そんな顔しなくても大丈夫だよ」


リリアは苦笑する


「……歳には敵わないね」


骸骨戦士は静かにリリアを見つめていた


やがて薪を一本、暖炉へくべる


火がぱちりと音を立てた


部屋には暖かな明かりだけが残る


翌朝


二人は村を後にした


風は昨日より冷たい


街道の脇には葉を落としかけた木々が並び


その向こうには刈り終えた畑がどこまでも続いている


しばらく歩いたところで、リリアが立ち止まった


「……こほっ、こほっ」


咳が続く


木へ手を添え、ゆっくり息を整える


骸骨戦士は歩みを止めたまま、何も言わず待っていた


リリアは空を見上げる


低い雲


冷たい風


そして振り返り、小さく笑った


「急ぐ旅でもないし」


少しだけ間を置く


「少しだけ、この村でお世話になろうか」


骸骨戦士は静かに頷いた


二人は来た道をゆっくり戻り始める


その背中を風が優しく押していた


その日の午後


宿へ戻ると、女将は二人を裏手にある小さな家へ案内した


「しばらくいるなら、ここを使いな」


小さな暖炉


ベッドと丸い机


二人で暮らすには、それで十分だった


二人はその家を借りることにした


窓辺へ椅子を寄せ、リリアは外を眺める


街道を旅人が歩いていく


風が窓を少し叩く


馬車がゆっくりと村を離れていく


もうすぐ冬が来る


リリアはその景色を静かに見つめ、小さく微笑んだ

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