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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」3章11話

朝日が山の稜線から顔を出す


骸骨戦士とリリアは、今日も歩く


旅は続く


終わりを決める者はいなかった


空を覆うほど巨大な木々が並ぶ山道を歩いた


根は人の背丈ほど盛り上がり、幹は何人で囲んでも足りないほど太い


白銀の雪山では、吹雪の中で道に迷った旅人を山小屋まで送り届けた


乾いた風が吹く砂の大地では、水を失った隊商へ水袋を分け与えた


雨の止まない密林では、葉から落ちる雫を避けながら泥道を歩き続けた


夜には満天の星空を見上げ


朝には水平線から昇る朝日を眺めた


行く先々で人と出会い


別れ


また歩く


深い密林では、昼でも空が見えなかった


湿った空気


耳元を飛び交う羽虫


「いたっ」


頬を押さえたリリアが少しだけ顔をしかめる


骸骨戦士は黙って薬草を摘み、渡した


「……ありがとう」


二人は笑い合うこともなく、そのまま森を抜けていく


波の穏やかな港町では、漁師たちと船を浜へ引き上げた


水平線の向こうへ夕日が沈んでいく


その景色を少しだけ眺めると、また次の町を目指した


幾つもの景色を越えた


幾つもの人と出会い、別れた


それでも二人は歩き続けた


そんな日々が、静かに積み重なっていった


二人は山あいの小さな町へ辿り着く


宿屋の扉を開くと、木の香りが鼻をくすぐった


「いらっしゃい」


年配の女将が笑顔で迎える


帳場で宿帳を受け取り、リリアが名前を書く


女将は自然に微笑んだ


「お姉さん、夕食はもう少ししたらできるからね」


「ありがとうございます」


リリアは小さく頭を下げた


その姿を、骸骨戦士は静かに見つめる


何も言わない


ふと浮かんだのは


教会で笑っていた僧侶


魔王へ辿り着く頃には、もう今のリリアくらいの年齢になっていた


その夜は、宿屋で静かに身体を休めた


翌日


町を出た二人は、日が暮れる頃、小川のほとりで火を起こした


薪が静かに燃える


虫の声だけが辺りへ響いていた


長い沈黙が流れる


パチッ……


薪が弾ける


骸骨戦士「……昔、ある村が魔物に襲われた」


炎だけが揺れる


骸骨戦士「俺は、村を守ることを選んだ」


骸骨戦士「その結果、呪いを受けた」


骸骨戦士は、かつて赤い首飾りがあった首元へ手を当てる


首飾りは、魔王が監視役を縛るために与えた契約の証だった


村を守るために監視の役目を離れたことで、契約の呪いが発動した


骸骨戦士「呪いは、少しずつ身体を蝕んだ」


骸骨戦士「傷は塞がらず」


骸骨戦士「肉は削げ落ち、最後には骨だけが残った」


白い指の骨を、炎が照らしていた


骸骨戦士「それでも、死ぬことはできなかった」


川のせせらぎだけが響いていた


「……怖くなかったんですか?」


骸骨戦士はすぐには答えなかった


赤い光が、記憶の奥で瞬いた


塞がらない傷


身体を内側から焼くような痛み


少しずつ失われていく自分の身体


痛みが消えたのは、痛みを感じる肉さえ残らなくなってからだった


忘れたことなど、一度もなかった


骸骨戦士「……分からない」


炎を見つめたまま、静かに続ける


骸骨戦士「もう、昔のことだ」


それ以上は語らない


川のせせらぎの音が響く


「……後悔はしてないんですか?」


骸骨戦士は炎を見つめたまま、小さく息を吐く


骸骨戦士「……分からない」


リリアには、呪いの理由について多くは語らなかった


炎だけが揺れていた


しばらくして


骸骨戦士は小さく息を吐く


骸骨戦士「だが……」


もう一度、薪が弾ける


骸骨戦士「もう一度あの日へ戻ったとしても」


骸骨戦士「俺は、同じことを選ぶだろう」


その言葉は、決意ではなかった


言い聞かせるようでもなかった


長い年月の果てに、静かに零れ落ちた一言だった


リリアは何かを言おうとした


けれど、うまく言葉にはならなかった


「……話してくれて、ありがとうございます」


骸骨戦士は何も答えない


遠くで川の流れる音が聞こえていた


夜空には無数の星が瞬いていた


炎は夜風に揺れながら、静かに燃え続けていた

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