勇者「そろそろ出勤か」3章10話
朝日が教会の屋根を優しく照らしていた
澄んだ空気の中、小鳥のさえずりが響く
教会の前には神父とリリア、そして骸骨戦士が立っていた
神父は穏やかに微笑む
「もう、お身体は大丈夫そうですね」
リリアは笑顔で頷いた
「はい!もう元気です!」
神父は安心したように目を細める
そして、小さな布袋を取り出した
「これを」
骸骨戦士が受け取る
布袋は思っていたより軽かった
リリアが布袋をまじまじと見る
「これは?」
神父は優しく笑う
「これは、僧侶様が一番好きだった花の種ですよ」
少しだけ空を見上げる
「……ただ、なぜかこの村でしか咲かない花なんですよ」
リリアは袋を見つめる
昨日、教会で見た淡い青い花
あの花を思い出した
リリアは神父に軽くお辞儀をした
「……ありがとうございます」
神父は静かに頷く
それ以上は何も言わなかった
骸骨戦士も小さく頭を下げる
三人の間を、朝の風が吹き抜けた
「お気を付けて」
その一言だけだった
リリアは何度も頭を下げる
二人はゆっくりと村を後にした
リリアは、いつものように先へ駆け出さなかった
骸骨戦士の半歩後ろを、黙って歩いている
昨夜読んだ手帳の文字が、まだ胸の奥に残っていた
何度かその背中を見上げる
けれど、何を話せばいいのか分からなかった
秋風が木々を揺らしていた
山道には赤や黄色に色付いた葉が舞っている
やがてリリアは、落ち葉の中に綺麗な木の実を見つけた
足を止め、拾い上げる
「見てください!」
「丸くて可愛いです!」
骸骨戦士は小さく頷くだけだった
リリアが小石に躓いた
「……あっ」
骸骨戦士が一歩だけ前へ出た
腕をそっと支える
リリアは、骨だけの手を見つめた
昨夜読んだ文字が、ふと胸をよぎる
それでも何も尋ねず、静かに顔を上げた
「……ありがとうございます」
また歩き始める
何でもない旅だった
何でもない時間だった
でも、その何でもない時間が心地良かった
昼過ぎ
街道の向こうから、一台の荷車がゆっくり近付いてくる
白髪の老人
荷車を引きながら鼻歌を歌っていた
老人は二人を見る
目を丸くする
そして優しく笑った
商人「……これはこれは」
商人「お久しぶりですな」
骸骨戦士は静かに立ち止まる
商人は近付いてくる
昔と変わらない笑顔だった
ただ、その髪は真っ白になっていた
リリアは二人を見比べる
「お知り合いなんですか?」
商人は笑う
商人「……ええ」
商人「もう何十年になりますかな」
骸骨戦士は何も答えない
商人も気にしなかった
昔からそうだったから
荷車の荷物を整えながら続ける
商人「最近は物騒ですなぁ」
商人「旅人もだいぶ少なくなりましたよ……」
少し考えるように空を見る
商人「ああ、そういえば……」
商人の視線が、骸骨戦士の背負う剣へ向いた
少しだけ遠い目をする
商人「……その剣の持ち主も、先日亡くなられたそうです」
静かな風が吹く
リリアは骸骨戦士の背負う剣を見た
何かを尋ねようとして、やめる
商人も、それ以上は続けない
少し笑う
商人「歳を取ると昔話ばかりでいけません」
商人「それでは、お元気で」
軽く頭を下げる
荷車はゆっくりと遠ざかっていった
リリアはその後ろ姿を見送りながら笑う
「優しい人でしたね」
しばらく沈黙が続く
骸骨戦士は前を向いたまま、小さく答えた
骸骨戦士「……あぁ」
その一言だけだった
リリアは少し驚く
そして嬉しそうに笑った
二人は再び歩き始める
秋風が街道を静かに吹き抜ける
赤く染まり始めた木々の間を、二人の背中はゆっくりと遠ざかっていった




