勇者「そろそろ出勤か」3章8話
白いカーテンが、窓から吹き込む風に揺れていた
部屋には、微かに薬草の香りが残っている
小鳥のさえずりが窓の外から聞こえた
リリアはゆっくりと目を開ける
見慣れない木の天井
上半身を起こすと、まだ身体が重い
窓から吹き込む風が頬を撫でた
ベッドの横の小さな花瓶には、淡い青色の花が飾られていた
朝日に照らされ、静かに揺れている
どこか不格好な花束だった
茎の長さは揃っておらず、束ね方も少しだけ歪んでいる
それでも、不思議と温かかった
リリアは小さく微笑む
「……綺麗」
扉が静かに開く
白髪の神父が部屋へ入ってきた
「目が覚めましたか」
見知らぬ神父の姿に、リリアは少し驚いた
「あ……」
辺りを見回す
「ここは……」
神父は穏やかに笑った
「教会ですよ」
「あなたは高い熱を出していたところを、ここへ運ばれてきました」
リリアは少し安心したように息を吐く
そして、すぐに尋ねた
「……あの人は?」
神父は窓の外を見る
「外におられますよ」
リリアも窓へ視線を向けた
教会の壁にもたれ、骸骨戦士が静かに座っている
何もせず、ただ空を見上げていた
リリアはほっと息をついた
神父は小さく笑う
「最初は私も怖かったのです」
少し照れくさそうに続ける
「……ですが、一晩中、教会を離れませんでした」
「何度もあなたの様子を確かめに来られていました」
「優しい方ですね」
リリアは静かに頷いた
「……はい」
その一言だけだった
昼頃になると熱も下がり、リリアは歩けるまで回復していた
教会を出る
骸骨戦士は静かに立ち上がる
リリアは笑顔を向けた
「ありがとうございました」
骸骨戦士は小さく頷く
神父は二人へ声を掛けた
「せっかくです」
「何もない村ですが、ご案内しますね」
三人はゆっくり歩き始めた
教会の庭を抜け、
畑の横を歩き、
細い路地を通る
小さな川のせせらぎが聞こえていた
神父は一つ一つ丁寧に話していく
リリアは興味深そうに耳を傾けていた
その少し後ろを骸骨戦士が静かに歩く
井戸の前を通る
骸骨戦士は一瞬だけ足を止めた
庭先で青い花へ水をやる僧侶の姿が胸をよぎる
風に揺れる花
優しく笑う横顔
次の瞬間には、もう目の前の静かな村へ視線は戻っていた
何事もなかったように歩き出す
誰も気付かない
少し歩く
教会の鐘が静かに鳴った
骸骨戦士は空を見上げる
一瞬だけ
教会から出てきた僧侶が、小さく手を振って笑っている
その姿も、すぐ光の中へ溶けて消えた
骸骨戦士は何も言わない
思い出は静かに胸の奥へしまった
やがて村外れまで来る
一軒だけ、朽ちた家が建っていた
屋根は崩れかけ、庭には雑草が伸び放題だった
神父はその家を見た
何も言わず通り過ぎようとする
リリアは足を止めた
「あれ?……あのおうちは?」
神父も足を止める
少しだけ寂しそうな表情を浮かべた
短い沈黙のあと、小さく呟いた
「あそこは、僧侶様がお住まいだった家です」
リリアは家を見つめる
そして、すぐに骸骨戦士を見る
骸骨戦士は何も言わない
リリアは笑った
「掃除しましょう!」
神父は少し驚いたように目を丸くする
「……このままは可哀そうです!」
神父は優しく笑った
「……そうですか、終わりましたら、また教会へお越しください」
そう言い残し、静かに村へ戻っていった
家の中は静かだった
窓を開ける
風が吹き抜ける
積もっていた埃が光の中を舞った
「わっ……」
思わずくしゃみをする
「埃すごいですね」
骸骨戦士は何も言わず箒を手に取る
棚を拭き、椅子を戻す
机へ手を掛け、迷うことなく元の場所へ戻す
リリアは床を磨き続ける
夕方
窓から夕日が差し込んでいた
部屋は見違えるほど綺麗になっている
リリアは最後に古く、使い込まれた机を拭く
引き出しへ手を掛けた
少し固い
ゆっくり引く
中には丁寧に畳まれた布
その下に、一冊の古びた革の手帳が静かに置かれていた
リリアはゆっくりと手に取る
最初のページを開く
そこには、丁寧な文字で一つだけ名前が書かれていた
――僧侶
リリアは静かにその文字を見つめていた




