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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」3章6話

焚き火の残り火から、細い煙が立ち上がっていた


小鳥の鳴き声が静かな山道へ響く


リリアは大きく伸びをした


「ふぁぁぁ……」


骸骨戦士は焚き火へ土を掛ける


静かに荷物を背負った


リリアも慌てて荷物を抱える


「今日もよろしくお願いします!」


骸骨戦士は小さく頷く


二人は歩き始めた


森の中は穏やかだった


リリアは楽しそうに歩く


「戦士さんって、旅は長いんですか?」


返事はない


「毎日歩いてるんですか?」


沈黙


「疲れませんか?」


骸骨戦士は前を向いたままだった


リリアは少し笑う


「本当に喋りませんね」


それでも楽しかった


歩いているだけなのに、不思議と退屈ではなかった


昼頃


小川の近くで足を止める


骸骨戦士は薪を拾い集めた


リリアは一生懸命火を起こそうとしている


カチッ……カチッ……


リリアがやっても煙しか上がらない


「うぅ……」


何度やっても火は付かない


骸骨戦士は静かに近寄る


火打石を受け取り、数回打つ


あっという間に火が灯った


リリアは目を丸くする


「え、すごい!」


骸骨戦士は何も言わない


鍋へ水を入れ、火に掛ける


リリアは嬉しそうに笑った


その時だった


遠くから悲鳴が聞こえた


「助けてくれぇ!!!」


細い黒い煙が空へ昇っている


骸骨戦士は顔を上げた


焚き火へ鍋の水を浴びせる


次の瞬間、駆け出す


リリアも慌てて後を追った


村だった


狼のような魔獣が何匹も暴れ回っている


家畜を襲い


家を壊し


村人たちは逃げ惑っていた


骸骨戦士は迷わず群れの中心へ飛び込んだ


狼が低く唸る


次の瞬間、一斉に飛び掛かった


骸骨戦士は半歩前へ出る


鞘で牙を受け止める


鈍い音が響いた


そのまま柄で狼の顎を打ち上げる


一匹が地面を転がった


だが止まらない


左右から二匹


背後から一匹


群れは隙を与えない


骸骨戦士は身体をひねり、一匹を蹴り飛ばす


もう一匹を肩で押し返す


鋭い牙が鎧へ食い込んだ


ギリッと嫌な音が鳴る


鎧の隙間から布が裂けた


それでも骸骨戦士は動きを止めない


ただ村人の前へ立つ


狼を村人へ近付けさせない


それだけだった


遠くではリリアの声が聞こえる


「こっちです!急いで!」


子どもたちを誘導する声


回復魔法の淡い光


その声を確認すると、群れの奥へ視線を向けた


群れの奥から、一際大きな狼が姿を現す


群れの長


黄金色の瞳が骸骨戦士を睨みつける


大きく地面を蹴った


一直線に迫る


骸骨戦士は背中へ手を伸ばす


勇者の剣


柄を握る


ほんの少しだけ鞘が鳴った


銀色の刃が、木々の間から差し込む光を受けて静かに輝く


骸骨戦士の手が止まった


しばらく、その刃を見つめる


やがて、ゆっくりと剣を鞘へ戻す


そして鞘ごと両手で握り直した


狼が目前まで迫る


一歩踏み込む


山へ鈍い音が響いた


鞘の一撃は狼の額を正確に捉える


巨体は地面を転がり、大きく土煙を上げた


群れの長はゆっくりと立ち上がる


しばらく骸骨戦士を睨み続けた


やがて低く唸ると、森の奥へ駆け出す


残った群れも、その背中を追うように姿を消していった


静けさだけが、村へ戻ってきた


夕方


村人たちが集まってくる


それでも誰も近付いてこない


「……骸骨」


「気味が悪い……」


「本当に味方なのか……」


恐怖が残っていた


リリアは思わず前へ出る


「助けてもらったんですよ!」


「どうしてそんなこと言うんですか!」


誰も答えない


骸骨戦士は静かに歩き始めた


リリアは悔しそうに拳を握る


その時だった


一人の男の子が母親の後ろから出てくる


震えながら頭を下げた


「……ありがとう」


その一言だけだった


骸骨戦士は静かに男の子へ顔を向ける


小さく頷く


そして再び歩き始めた


村を離れる


夕日が山を赤く染めていた


しばらく誰も話さない


やがてリリアが口を開く


「私は……」


少し俯く


「みんな酷いと思いました」


骸骨戦士は黙って歩く


「でも」


「ちゃんとありがとうって言えた子もいました」


リリアは少し笑っていた


風が草を揺らす


リリアは骸骨戦士を見た


「だから」


優しく笑う


「きっと大丈夫です」


骸骨戦士は何も答えない


しばらく歩く


リリアは骸骨戦士の背中にある剣を見る


「ねぇ」


「どうして剣を抜かなかったんですか?」


骸骨戦士は少しだけ剣へ目を向ける


静かに答えた


骸骨戦士「……これは預かり物だ」


「預かり物?」


返事はない


リリアは背中の剣をしばらく見つめていた


やがて、自分の両手へ視線を落とす


「今日、私も怪我をした人たちを治したんです」


「でも、少ししか治せなくて……」


骸骨戦士は黙って歩いている


「おじいちゃんが話してくれました」


「戦士様と一緒に旅をした僧侶様は、たくさんの人を救ったって」


リリアは自分の手を見つめながら笑う


「私も、いつかそんな人になれるのかな」


少しだけ間を置く


「……会ってみたかったな」


骸骨戦士の足が、一瞬だけ止まった


リリアは気付かない


風が吹く


木々が静かに揺れる


骸骨戦士は何も答えず、再び歩き始めた


それでも、


二人の進む道だけは、静かに変わっていた


その先には、


まだリリアの知らない村が待っていた

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