勇者「そろそろ出勤か」3章4話
朝日が戦士の町を照らしていた
石畳の道を子どもたちが元気よく駆け回る
店先では野菜が並び、
パンを焼く香ばしい匂いが風に乗って流れていた
骸骨戦士は町の入口へ立っていた
静かに町を見つめる
昔は小さな村だった
今では立派な町になっている
骸骨戦士はゆっくりと歩き始めた
すると町の人々が足を止める
「あれ……」
「骸骨だ……」
子どもは母親の後ろへ隠れる
母親は子どもを抱き寄せた
町には小さなざわめきが広がっていく
骸骨戦士は慣れていた
何も言わず、ただ静かに歩き続ける
やがて町の中央へ辿り着く
広場だった
その中央には一体の銅像が建っている
若き日の戦士
剣を地面へ突き立て、町を見守るように立っていた
銅像の周りでは子どもたちが集まっている
その中心には、一人の少女がいた
元気よく身振り手振りを交えながら話している
「戦士様ってね!」
「すっごく強かったんだよ!」
「勇者様よりも強かったんだって!」
子どもたちが目を輝かせる
満面の笑みだった
骸骨戦士は静かに銅像を見つめる
何も言わない
風だけが銅像の足元を吹き抜けた
その場を離れる
しばらく歩くと、見覚えのある場所へ辿り着いた
旅の頃、仲間たちと食事をした宿屋
そう思って足を止める
しかし、そこに宿屋はなかった
新しい建物、新しい看板
扉が開く
店の中から笑い声が聞こえてくる
家族が食事をしている
旅人が笑っている
昔とは違う店だった
それでも、人々の笑顔は変わっていなかった
骸骨戦士は静かに見つめる
そして再び歩き出した
町外れ、小さな墓地が広がっている
骸骨戦士は花を供え、静かに手を合わせた
長い時間、何も言わない
その時だった
後ろから小さな足音が聞こえる
「……こんにちは」
骸骨戦士はゆっくりと振り返る
先ほど広場にいた少女だった
その手には箒が握られている
声を掛けたものの、少女は少し離れた場所から動かなかった
「……そのお墓、知ってるんですか?」
墓石には、遠い昔、
「すぐ帰ってくる?」
と泣きそうな顔で尋ねた、あの少年の名が刻まれていた
綺麗に磨かれていた
「ここは、私を育ててくれたおじいちゃんのお墓なんです」
少女は墓石についた土を払う
「本当のおじいちゃんじゃないんだけどね」
「それに、誰も来ないお墓もあるから」
「一人だと、きっと寂しいでしょう?」
町の大人が二人、心配そうに駆け寄ってくる
「リリア!」
「近付いちゃ駄目だ!」
リリアは少し戸惑いながら話した
「……大丈夫だよ、この人、ちゃんとお花を供えてた」
リリアはそう言いながらも、まだ箒を強く握っていた
リリアはもう一度骸骨戦士を見る
少しだけ考え、困ったように笑った
「ちょっと怖いけど」
少し間を置く
「……なんか、悪い人には見えないかな」
その場が静かになる
骸骨戦士も、少しだけ驚いていた
そんな言葉を掛けられたのは、いつ以来だっただろうか
リリアが広場に見える銅像を指差した
「私、戦士様が大好きなんです」
骸骨戦士は銅像を見る
リリアは笑った
「強いからじゃないですよ」
「おじいちゃんから、優しい人だったって聞いたから」
骸骨戦士は何も答えない
ただ静かに銅像を見つめる
風が吹く
木々が揺れる
やがて骸骨戦士は歩き始めた
リリアはその背中を見送る
骸骨戦士は振り返らなかった
それでも、歩幅だけは少しだけゆっくりになった気がした
先ほどの大人の一人が、リリアの隣へ来る
「本当に怖くなかったの?」
リリアは少しだけ考えた
「……怖かったよ」
少女は、墓前に供えられた花を見る
「でも、お花を置く手が優しかったから」
夕日が戦士の町を優しく染めていく
リリアは遠ざかる骸骨戦士の背中を、いつまでも見つめていた




