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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」3章3話

朝靄が山道を包んでいた


骸骨戦士は静かに歩いていた


背には何もない


行き先も決めていなかった


風だけが草木を揺らす


一人だった


焚き火を囲む夜も


朝を迎える景色も


隣には誰もいない


静かな旅だった


歩き続けるうち、ぼんやりと思い出す


手紙が来るたび、嬉しそうに笑っていた


「今日は勇者さんから返事が来ました」


そんな僧侶の笑顔だった


骸骨戦士は足を止める


少しだけ空を見上げた


そして、静かに歩く方向を変えた


数日後


山の麓


小さな家が見えた


庭には色とりどりの花


物干し竿には洗濯物が揺れている


どこにでもありそうな、穏やかな家だった


庭では小さな女の子が遊んでいる


骸骨戦士へ気付く


目が合う


少女は固まった


次の瞬間、


半泣きで家へ駆け出す


「お、おばあちゃーーん!!」


「誰か来たぁーー!!」


家の中から、少ししわがれた声が返る


「誰がおばあちゃんですか!」


少し怒ったような声


懐かしい声だった


扉が開く


年老いた魔法使い


昔より小さくなった身体


それでも面影は変わらない


その後ろから、


白髪になった勇者が歩いてくる


二人の視線は、


骸骨戦士の隣を見た


誰もいない


老人も、老婆も、


それだけで察した


長い沈黙が流れる


老人は静かに口を開いた


「……入れ」


家の中は暖かかった


木の香りがする


小さな丸い机


老人と老婆が並んで座る


向かいには骸骨戦士


そして、もう一つの席


誰も座っていない


その前にも湯呑みが置かれていた


四つの湯呑みから、


静かに湯気だけが立ち上っている


誰もその席には触れない


誰も理由は聞かない


長い沈黙


老人が小さく笑う


「……久しぶりだな」


骸骨戦士は小さく頷いた


しばらく静かな時間だけが流れる


ふと、


柱の陰から小さな顔が覗いた


孫だった


まだ少し怖そうに見ている


骸骨戦士はその姿を見る


静かに目を細めた


骸骨戦士「……孫か」


老人は少し照れくさそうに笑う


「ああ……」


老婆も笑った


「可愛いでしょう?」


骸骨戦士は小さく頷く


その笑顔を、静かに見つめていた


正直、眩しかった


こんな未来も、


あったのかもしれない


そう思った


けれど、その考えはすぐ胸の奥へしまった


自分には似合わない


そう思ってしまう自分が、まだそこにいた


老人は静かに立ち上がる


奥の部屋へ消えた


やがて一本の剣を持って戻ってくる


長年、


額縁へ飾られていた剣だった


老人は静かに剣を見つめる


少しだけ笑う


長い年月を終えた剣が、静かに机へ置かれる


「……持っていってくれ」


「もう、俺には必要ない」


骸骨戦士は何も聞かない


ゆっくりと剣を持つ


背へ掛ける


鞘からは抜かない


老人はその姿を見て、静かに頷いた


しばらくして、


老人が口を開く


「……これから、どうするんだ」


骸骨戦士は首を横へ振る


決めていない


老人は少しだけ笑った


「……そうか」


老人は立ち上がり、窓の外を見る


風に花が揺れている


「一度ぐらい、帰ってみるのも悪くない」


それだけだった


骸骨戦士は何も答えない


ただ、静かに立ち上がった


玄関まで見送る


孫はまだ柱の陰


少しだけ勇気を出して顔を出す


老婆は孫へ目を向け、言い聞かせるように話した


「大丈夫、あの人は、優しい人だから」


骸骨戦士は孫を見たままだった


そして歩き始める


老人も、老婆も、


その背中が見えなくなるまで見送っていた


やがて二人は静かに目を閉じる


胸の前で手を合わせた


孫が不思議そうに見上げる


「ねぇ、おじいちゃん。それって、何してるの?」


老人は穏やかに笑う


「……友達の幸せを祈ってる」


孫は首を傾げる


「お願いごとなの?」


老人は首を横へ振った


「いや、違うさ」


老人は孫の頭をなでる


静かな風が吹く


老婆がぽつりと呟く


「……許してくれるかしら」


老人は空を見上げた


そして、優しく笑う


「あいつなら……笑って許してくれるさ」


二人はもう一度目を閉じた


遠くを歩いている、


二人の仲間を想いながら

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