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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」3章1話

柔らかな朝日が、小さな村を包んでいた


窓から吹き込む風が、白いカーテンを静かに揺らす


僧侶はゆっくりと目を開けた


昔より少しだけ白髪は増えた


目尻にも小さな皺が刻まれている


それでも、その穏やかな笑顔は何も変わっていなかった


布団を整え、静かに外へ出る


朝露に濡れた草を踏みしめながら、村外れの小さな丘へ向かった


朝日が山の向こうから顔を出している


僧侶は静かに目を閉じた


胸の前で両手を合わせる


誰かの名前を呼ぶことはない


神へ祈る訳でもない


ただ今日という一日が、穏やかに流れるように


旅で出会った人たちが幸せでありますように


目の前に広がる自然へ、静かに祈りを捧げていた


やがて小さく微笑み、目を開ける


振り返ると、少し離れた場所に骸骨戦士が立っていた


今日も何も言わない


ただ静かに待っていた


僧侶は微笑む


「おはようございます」


骸骨戦士は小さく頷く


それだけだった


二人はゆっくりと家へ戻っていく


その日も骸骨戦士は村中を歩いていた


倒れかけた柵を直し、重い荷車を押し、薪を割る


頼まれれば断らない


終われば静かにその場を去る


村人たちは遠巻きにその姿を見ていた


「あの骸骨が……」


「でも、仕事はちゃんとしてるんだがな」


感謝したい気持ちはある


それでも恐怖の方が勝ってしまう


骸骨戦士はそんな視線にも慣れていた


黙々と仕事を続けるだけだった


昼過ぎ


村外れから子どもの悲鳴が聞こえた


「危ない!」


荷車が坂を転がり落ちてくる


幼い男の子が立ち尽くしていた


次の瞬間


黒い影が走る


骸骨戦士だった


片腕で荷車を受け止める


大きな音と共に荷車は止まった


子どもは無事だった


母親が駆け寄る


子どもを強く抱きしめた


「よかった……」


涙を流しながら何度も頭を撫でる


そして、ゆっくりと骸骨戦士を見る


言葉が出ない


ありがとう


その一言だけが言えない


骸骨戦士は荷車を元へ戻す


静かに踵を返した


その背中を見送ることしか出来なかった


帰り道


後ろから足音が近付く


僧侶だった


少し歩き、隣へ並ぶ


しばらく無言だった


風だけが二人の間を通り過ぎる


やがて僧侶は穏やかに笑った


「……ほんと、昔と変わりませんね」


骸骨戦士は何も答えない


歩幅だけは少しだけ合わせた


それだけで十分だった


夕暮れ


家の中では湯気が立っていた


僧侶が鍋をかき混ぜる


骸骨戦士は暖炉へ薪をくべる


炎が静かに揺れた


「今日は野菜がたくさん採れましたよ」


僧侶が嬉しそうに笑う


骸骨戦士は食卓の向かいへ腰を下ろす


食べることはできなくても、そこにいることはできた


窓の外では夕焼けが山を赤く染めていた


静かな食卓


会話は少ない


それでも心地良い時間が流れていた


夜


蝋燭の火だけが部屋を照らしている


僧侶は椅子へ腰掛け、本を閉じた


小さく咳き込む


「……ごほっ」


すぐに笑う


「少し風邪を引いたのかもしれませんね」


骸骨戦士は静かに僧侶を見る


何も言わない、何も聞かない


僧侶は布団へ入り、静かに目を閉じた


「おやすみなさい」


骸骨戦士は窓際の椅子へ腰掛ける


外には満天の星が広がっていた


虫の声がどこからか聞こえてくる


蝋燭の火が静かに揺れる


骸骨戦士は眠る僧侶を見つめた


その呼吸は、ほんの少しだけ浅かった


夜は静かに更けていく


その穏やかな時間は


誰にも知られないまま流れていた

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