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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」2章15話

白い光が揺れていた


やがて、その光の中から四人の姿が現れる


勇者


魔法使い


僧侶


そして骸骨戦士


骸骨戦士の鎧は大きく砕け、肩や腕の骨には無数のひびが走っていた


一人では真っ直ぐ歩くことも難しい


僧侶はその肩へそっと腕を回し、静かに支えている


二人はゆっくりと歩いていた


その姿を、玉座の間で一人待っていた男が見つめる


魔王だった


何も尋ねない、何も聞かない


四人の表情だけで十分だった


魔王は小さく息を吐く


魔王「……終わったか」


勇者は静かに頷く


勇者「……あぁ」


それだけだった


魔王「これも、もう必要ないな」


魔王が魔法使いと僧侶の首元へ手をかざす


魔王「神が定めた役割が消えた今なら、契約も解除できる」


魔王が念じると


二人の赤い首飾りに亀裂が走る


砕けた欠片が床へ落ちる前に光となった


その光景を魔王が見届けた


魔王「……本当に今まで、すまなかった」


長い沈黙


魔王はゆっくりと玉座を見上げる


長い年月


魔王として座り続けた場所


望んだことは、一度もなかった


魔王は肩へ掛けていた黒いマントを外す


静かに玉座へ置いた


王冠も、その隣へ


誰も言葉を返さない


魔王は少しだけ笑う


「……さて、畑でも耕すかな」


その言葉に、勇者は思わず笑った


魔法使いも小さく笑う


僧侶も優しく微笑んだ


骸骨戦士だけは無言だった


魔王は、その沈黙をただ受け止めた


四人は城を後にする


夜明け前の空気は少し冷たい


石畳をゆっくり歩く


城門の近くには、荷車へ背を預けた商人が立っていた


商人「おや、終わりましたか」


勇者「……知ってたのか」


商人は肩を竦める


商人「なんとなくですよ」


勇者「これから、どうなるんだろうな」


商人は空を見上げ、小さく笑う


商人「大丈夫ですよ」


少しだけ間が空く


商人「役割がなくても、世界はちゃんと回りますから」


勇者は静かに頷く


勇者「あぁ」


勇者も、僧侶と骸骨戦士の歩幅に合わせて歩き出す


僧侶は変わらず骸骨戦士へ肩を貸していた


骸骨戦士は呟く


骸骨戦士「……悪いな」


僧侶は首を横へ振る


僧侶「いいえ」


少しだけ間を置く


僧侶「戦士さん」


骸骨戦士は静かに顔を向ける


僧侶は穏やかに笑った


僧侶「帰りましょう」


その一言だけだった


骸骨戦士も優しく答える


骸骨戦士「……あぁ」


夜が少しずつ明けていく


勇者の隣へ魔法使いが並ぶ


しばらく無言だった


やがて魔法使いが、勇者の腰に下げられた剣を見る


魔法使い「その剣さ」


勇者も視線を落とす


神を斬った剣


何度も命を預けた剣


魔法使い「また飾るの?」


勇者は少しだけ考えた


そして笑う


勇者「あぁ……」


勇者「今度は、ちゃんと手入れするよ」


魔法使いも小さく笑う


二人は朝日を見上げた


――それから数年後


窓から柔らかな朝日が差し込んでいる


壁には額縁


その中には丁寧に磨かれた一本の剣


もう埃を被ることはない


その隣の椅子には、見慣れた三角帽子が無造作に掛けられていた


男は鏡の前でネクタイを締める


昔のような疲れた表情ではない


自然と笑える顔になっていた


部屋の奥から足音が聞こえる


女が湯呑みを机へ置く


そして何気ない仕草で、そっと腹へ手を添えた


男はその姿を見て微笑む


額縁の剣を見る


旅の記憶


仲間たち


魔王


商人


神


男は静かに上着を羽織る


「……そろそろ出勤か」


あの日と同じ言葉


けれど、その意味はもう違っている


男は玄関へ向かう


靴を履き、扉を開く


振り返る


「じゃあ、行ってくる」


女は穏やかに微笑んだ


「ん、行ってらっしゃい」


扉が静かに閉まる


額縁の剣


椅子へ掛けられた帽子


そして、二人が自分で選んだ日常


朝日が、そのすべてを優しく照らしていた


そして、僧侶と骸骨戦士の時間もまた、静かに動き始めていた

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