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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」2章10話

朝日が村を照らしていた


宿屋の一階では、村人たちが朝食を囲みながら小さく話している


村人「昨日も山賊が出たらしい」


村人「また荷車が襲われたって」


村人「昔の廃坑を根城にしてるって話だ」


勇者はパンを持つ手を止める


勇者「……廃坑か」


魔法使いも顔を上げた


僧侶は少しだけ不安そうな表情を浮かべる


その時、宿屋の扉が開いた


戦士だった


勇者は軽く手を挙げる


勇者「あ、おはよう」


戦士も短く返す


戦士「……あぁ」


勇者は少し考え、口を開いた


勇者「戦士さ、廃坑に山賊いるって知ってる?」


戦士は村人たちへ一度だけ視線を向ける


そして静かに答えた


戦士「……知ってはいる」


勇者は笑う


勇者「案内してくれないか」


少しだけ沈黙が流れた


戦士「……分かった。いいだろう」


四人は山道を歩いていた


先頭を歩く戦士は、何度もしゃがみ込み、土や折れた枝へ目を向ける


魔法使いは腕を組んだ


魔法使い「さっきから何してるのよ?」


戦士「足跡」


魔法使い「そんなので分かるものなの?」


戦士「……だいたいな」


魔法使いは呆れたように息を吐く


魔法使い「もうね、説明が足りないのよ」


戦士は何も答えない


勇者だけが苦笑した


勇者「戦士には分かるんだよ」


やがて廃坑へ辿り着く


坑道は昼間でも暗く、どことなく冷たい風が吹き抜けていた


しばらく歩くと道が二つに分かれる


戦士はしゃがみ込む


土へ残る足跡を見る


静かに立ち上がった


戦士「右だ」


魔法使いは左を見る


魔法使い「絶対こっちよ」


戦士「違う」


魔法使い「何でよ」


戦士「人数が多い」


魔法使い「足跡だけで?」


戦士「……あいつらも罠を張っているとは思えんしな」


魔法使いは納得がいかない


戦士はそれ以上説明しない


勇者は笑った


勇者「行こう」


四人は右の坑道へ進んだ


奥から笑い声が聞こえる


広場には酒瓶が転がり、十人ほどの山賊が騒いでいた


中央の奥には大柄な男


勇者は剣へ手を掛ける


勇者「……行くぞ」


戦いが始まった


魔法使いの魔法が前衛を吹き飛ばし、僧侶が傷を癒す


勇者と戦士は頭目へ向かった


頭目が大剣を振り下ろす


戦士は真正面から受け止めた


激しい金属音と共に、細かな火花が散る


その背後で、物陰に隠れていた弓兵が矢を放った


戦士は頭目の大剣を受け止めたまま、動けない


勇者「戦士!」


勇者が飛び込み、矢を剣で弾いた


頭目はその隙を逃さなかった


大剣の向きを変え、勇者へ振り下ろす


今度は戦士が、勇者を庇うように前へ出た


戦士の剣が、頭目の一撃を受け止める


勇者と戦士は一瞬だけ視線を交わした


言葉は必要なかった


勇者が正面から踏み込み、頭目の注意を引きつける


その間に戦士が回り込み、頭目の剣を弾き飛ばした


勇者が剣の柄を腹へ叩き込む


頭目は膝をつき、そのまま地面へ倒れた


頭目が倒れると、山賊たちは戦意を失った


何人かは坑道の奥へ逃げ、残った者たちは次々と武器を捨てた


夕方、四人は村へ戻った


まず戦士が村長へ事情を話す


廃坑にいた山賊、倒した頭目


逃げた者たちのこと


話を聞いた村人たちの表情が、少しずつ和らいでいく


村長「そうだったか……本当に助けてくれたのか」


村人たちはようやく勇者たちへ頭を下げた


村人「ありがとう、助かったよ」


子どもたちも勇者たちの周りへ集まる


子ども「ねぇ山賊たちって、強かった?」


勇者は少し困ったように笑った


勇者「戦士の方が強かったよ」


戦士「余計なことを言うな」


魔法使い「本当のことでしょ」


戦士「……」


僧侶はまた小さく笑った


その夜


宿屋には普段より豪華な料理が並んでいた


焼いた肉、温かいスープ


焼きたてのパン


村人たちの笑い声が響く


子どもが勇者へ肉を差し出した


子ども「おまえも、これも食べろ!」


勇者は困ったように笑う


勇者「ありがとう。でもまだ皆が食べてからね」


魔法使いは皿を見て眉をひそめる


魔法使い「ちょっと、それ私のお肉!」


勇者「え、あ、ごめん」


僧侶は思わず笑う


その様子を見て村人たちも笑っていた


戦士だけは静かに黙って食べていた


魔法使いは戦士を見る


魔法使い「ねぇ、何か喋ったら?」


戦士はスープを一口飲む


戦士「今は食事中だ」


魔法使いはため息を吐く


魔法使い「……ほんと嫌な奴」


子ども「戦士って昔っからこうだぞ!」


僧侶も小さく笑う


それを見て勇者はつられて笑った


村人たちもみんな笑っていた


戦士だけ少し困ったような顔をしていた


それから数日


朝になれば勇者と戦士は木剣を交えた


カンッ、カンッ


乾いた音が村へ響く


魔法使いは子どもたちへ小さな魔法を見せる


もっと見せてと歓声が上がる


僧侶は毎日村を歩き、老人や子どもたちを診て回る


勇者は薪を割り、水を運び、子どもたちと遊んだ


戦士は相変わらず村を見回っている


四人は少しずつ、同じ時間を過ごしていった


戦士は時々、勇者と並んで村を歩いた


多くは話さなかった


それでも、勇者は戦士の隣にいる時間を嫌いではなかった


むしろ、少し心地よかった


戦士は口数が少ない


言い方も少しだけきつい


けれど、誰かが危なければ必ず先に動く


子どもが転びそうになれば手を伸ばす


老人が重い荷物を持っていれば、黙って横に立つ


魔法使いが文句を言えば言い返す


それでも、本当に危ない時は一番先に庇う


勇者はその姿を何度も見た


旅立ちの前夜


勇者は村を見回っていた戦士へ声を掛けた


勇者「俺たち、明日の朝には村を出るよ」


戦士「……そうか」


勇者「それでさ」


勇者は少しだけ言葉を探した


勇者「お前も、一緒に来てくれないか?」


戦士は勇者を見る


戦士「……なぜ俺なんだ」


勇者「強いから」


勇者は一度そう答え、すぐに首を横へ振った


勇者「いや、それだけじゃないな」


勇者「お前は言い方もきついし、何を考えてるのか全然分からないけど」


戦士「……」


勇者は小さく笑った


勇者「でも、誰かが危ないときは、必ず一番に動く」


勇者「山賊と戦ったときも、俺を守ってくれた」


勇者「だから、お前になら背中を預けられると思った」


戦士は何も答えなかった


勇者を監視するため、旅へ加わる


それは初めから決められていた役割だった


断ることなどできない


それでも、勇者から向けられた信頼だけは、誰かに決められたものではなかった


戦士「……俺でいいのか」


勇者「ああ。お前がいい」


戦士はしばらく黙っていた


戦士「……分かった」


旅立ちの日


村の入口には、見送りに来た村人たちが集まっていた


勇者、魔法使い、僧侶は旅の荷物を背負っている


その隣には、同じように荷物を背負った戦士が立っていた


子ども「戦士も一緒に行くのか?」


戦士「……ああ」


子ども「なんで?」


戦士はすぐには答えなかった


戦士「村を守るためだ」


それは嘘ではなかった


子ども「すぐに帰ってくる?」


戦士「……ああ」


子ども「絶対だぞ!」


戦士は子どもの頭へ手を置いた


村長「頼んだぞ」


村長の声だけが、妙に重かった


戦士は村長と短く視線を交わす


戦士「……行ってくる」


村長は静かに頷いた


戦士は一礼し、勇者たちのもとへ歩いていく


勇者は隣に立った戦士へ笑い掛けた


勇者「じゃあ、これからよろしくな」


戦士は首元へ手を伸ばしかけ、その手を止めた


戦士「……ああ」


四人は並んで歩き出す


村の景色が少しずつ遠ざかっていく


戦士だけが一度、故郷を振り返った


子どもたちは、まだ手を振っていた


戦士は何も言わず、静かに前を向いた


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