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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」2章9話

太陽が少し傾いた頃


勇者たちは山道を抜け、小さな村へ辿り着いた


畑仕事を終えた人々が家路につき、子どもたちが家の前で遊んでいる


穏やかな村だった


ただそれでも、どこか村全体に元気がないようにも見えた


魔法使いは大きく溜め息を吐く


魔法使い「やっと、ちゃんとしたところで寝られるわね」


勇者は笑った


勇者「毎日野宿だったからな」


僧侶も小さく笑う


僧侶「今日はゆっくり休めそうですね」


三人は宿屋へ入り、部屋を借りる


荷物だけを置き、一階の食堂へ降りた


夕食を食べていると、近くの席から小さな話し声が聞こえてきた


村人「……また山賊が出たらしい」


村人「……暗くなる前には帰らないと」


勇者は少しだけ耳を傾ける


その時


宿屋の扉がキーっと音を立てて開いた


鎧姿の男が静かに入ってくる


腰には一本の剣


男の姿を見ると、村人たちは少しだけ安心したように笑った


村人「あぁ、戦士」


戦士は軽く手を上げる


すると、一人の子どもが駆け寄った


子ども「戦士ー!」


戦士は子どもの頭へ軽く手を乗せる


戦士「もう帰っておけ」


子ども「えー戦士の話ききたかったー」


戦士「暗くなるからな」


子どもは少し頬を膨らませる


子ども「また明日な!」


戦士は小さく頷いた


戦士「……あぁ」


子どもは笑いながら家へ走っていく


魔法使いはその様子を見ながら呟く


魔法使い「なんか変な人」


勇者は小さく笑った


勇者「ちゃんと帰したかったんじゃないかな」


魔法使いは少しだけ納得がいかないようだった


翌日


勇者は村を歩いていた


すると坂道で重そうな荷物を運んでいる老人を見つける


勇者「持ちますよ」


戦士「待て」


勇者は振り返る


戦士は老人へ目を向けた


戦士「爺さん。全部持ってもらいたいのか?」


老人「いや。一番重い袋だけ頼めるかの」


勇者「もちろんです」


勇者は荷物の中から、一番重い袋を受け取った


戦士「手を出す前に、本人へ聞け」


戦士「助けることと、できることまで奪うのは違う」


魔法使い「……言い方ってものがあるでしょ」


戦士「……」


魔法使い「なにか言いなさいよ」


少しだけ沈黙が流れる


老人は勇者へ笑い掛けた


老人「ありがとう。じゃあ頼むよ」


勇者も笑顔で頷く


勇者「分かりました」


老人は残った荷物を抱え、勇者と並んで坂道を上っていった


戦士は何も言わず、その背中を見送る


魔法使いは納得がいかない


魔法使い「何なのよ、あいつ」


僧侶だけは、戦士の横顔を静かに見つめていた


その夜


カンッ、カンッ


乾いた音が静かな村へ響く


宿屋の裏


勇者は木剣を握り、一人で素振りを続けていた


その様子を戦士は静かに見つめる


勇者は振り返った


勇者「あぁ、どうもこんばんは」


戦士「……毎日やってるのか」


勇者「あぁ、そうだね」


戦士「勇者なのにか」


勇者「……知ってたんだ」


戦士「有名だからな」


勇者「……そうか」


勇者「……勇者だから、かな」


戦士は近くへ立て掛けてあった木剣を手に取る


戦士「付き合ってやるよ」


勇者は嬉しそうに笑った


勇者「あぁ……ぜひ」


二人は向かい合い、木剣がぶつかる


カンッ、カンッ


窓からその様子を見ていた魔法使いが呟く


魔法使い「まーた、やってるのね」


その隣へ僧侶が立った


僧侶「なんだか少し嬉しそうですね」


魔法使いは小さくため息を吐く


魔法使い「昨日会ったばっかなのに」


窓の外では木剣を交える音が夜へ響いていた


魔法使いは外を眺める


勇者は笑っている


戦士は表情こそ変わらない


それでも、どこか空気が柔らかくなっていた


しばらくして勝負が終わる


勇者は息を整えながら笑う


勇者「強いね」


戦士は木剣を肩へ担いだ


戦士「なかなかやるな」


勇者は嬉しそうに笑う


勇者「またやろうな」


戦士は少しだけ間を置く


戦士「……あぁ」


二人は木剣を戻し、宿へ向かった


宿の前まで来たところで、勇者が口を開く


勇者「せっかくだし、一杯だけ付き合ってくれないか?」


戦士「……あぁ」


二人は食堂へ戻る


酒を飲みながら、他愛もない話をする


旅の話、村の話、くだらない話


そうして夜が静かに更けていった


皆が眠ったあと


戦士は宿の外で、一人夜空を見上げていた


やがて、静かに首元へ手を伸ばす


鎧の隙間で、何かが一度だけ赤く光った


戦士はその光を覆い隠すように、手を握る


しばらくして、小さく息を吐いた


遠くで、虫の鳴き声だけが響いていた

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