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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」2章8話

青い花が風に揺れていた


僧侶はしゃがみ込み、その花を一本ずつ丁寧に摘み取っていく


籠の中へ静かに並べる


遠くから、町の喧騒が聞こえていた


子どもの笑い声


荷車の軋む音


宿屋の主人が客を呼ぶ声


僧侶は籠を抱え、ゆっくりと立ち上がる


僧侶「……そろそろ戻らないと」


町へ戻ると、いつものように巡回を始めた


腰を痛めた老人の家へ寄り、熱を出した子どもの様子を見る


市場では八百屋の男が指を切っていた


僧侶は一人ずつ声を掛け、傷へ手を添える


淡い光が溢れ、傷がゆっくりと閉じていく


僧侶「無理しないでくださいね」


八百屋の男「いつも悪いねぇ」


僧侶「いえ」


僧侶は小さく笑った


次に宿屋へ向かう


宿屋の主人が、少し困ったように笑っていた


主人「僧侶さん、ちょうど良かった」


僧侶「どうしました?」


主人「旅人さんが怪我をしていてね。大したことはなさそうなんだけど」


僧侶は頷く


僧侶「見てきます」


宿の奥へ進むと、勇者が椅子に座っていた


腕には浅い切り傷


その横で、魔法使いが腕を組んで立っている


魔法使い「だから言ったじゃない」


勇者「ごめん」


魔法使い「ごめんじゃないの」


僧侶は二人へ近付いた


僧侶「その傷、見せてもらってもいいですか?」


勇者「あ、お願いします」


僧侶は勇者の腕へそっと手を添える


淡い光が傷を包んだ


勇者「ありがとうございます」


僧侶「いえ」


魔法使い「ほんと、見てて危なっかしいのよ」


勇者「そうかな」


魔法使い「そうなの」


僧侶は二人を見て、少しだけ笑った


魔法使いがちらりと僧侶を見る


魔法使い「何?」


僧侶「いえ、仲が良いんだなって」


魔法使い「違う」


即答だった


勇者は苦笑いする


勇者「違うらしい」


魔法使い「笑わない」


僧侶はまた少し笑った


翌日も、僧侶は町を巡回していた


井戸の近くでは、勇者が水桶を運んでいる


その少し後ろで、魔法使いが文句を言いながらも手伝っていた


魔法使い「もう、なんで私まで」


勇者「助かるよ」


魔法使い「別に、あんたのためじゃないからね」


勇者「そうなの?」


魔法使い「……そうなの」


井戸端にいた女性たちが笑う


子どもたちも笑っている


僧侶はその様子を少し離れた場所から見ていた


勇者は困っている人を見ると、すぐに動く


魔法使いは文句を言いながら、その隣にいる


二人がいる場所には、自然と人が集まっていた


夕暮れ時


西日が町を染め、空には黒い雲が流れていた


肩から血を流した村人が、町へ駆け込んでくる


村人「オークだ!街道で荷馬車が襲われた!」


村人「まだ仲間が残ってる! 誰か助けてくれ!」


勇者は考えるより先に走り出した


魔法使い「ちょっと、待ちなさいよ!」


魔法使いもその背中を追う


僧侶は一瞬だけ迷った


だが、怪我人がいると聞き、薬と包帯の入った鞄を掴んだ


僧侶も二人を追って走り出す


街道には、横転した荷馬車があった


その傍らには、怪我をして動けない村人たち


そして、大柄なオークがこん棒を手に立っていた


勇者は剣を抜き、オークと怪我人の間へ滑り込む


勇者「こっちだ!」


オークが唸り声を上げ、こん棒を振り下ろした


勇者は剣で受け止める


だが、あまりの重さに身体を弾き飛ばされ、地面を転がった


魔法使い「もう!だから危なっかしいのよ!」


魔法使いが杖を構える


放たれた炎がオークの足元で弾けた


オークが驚き、後ろへ下がる


その隙に、魔法使いは怪我人たちを荷馬車の陰へ避難させた


遅れて到着した僧侶が、倒れた勇者の腕へ手を添える


淡い光が傷を包んだ


僧侶「まだ動けますか?」


勇者「……ありがとうございます。大丈夫です」


勇者は再び剣を握り、立ち上がった


オークが唸り、こん棒を横へ振りかぶる


魔法使い「その武器、邪魔なのよ!」


冷気の刃がこん棒へ突き刺さった


白い霜が、柄を覆っていく


勇者は凍りついた箇所へ剣を振り下ろした


乾いた音と共に、こん棒が真っ二つに折れる


オークは折れた武器と勇者たちを交互に見た


やがて低い唸り声を残し、森の奥へ逃げていった


魔法使い「追わなくていいの?」


勇者「荷馬車から離れた。今は怪我人が先だ」


魔法使い「……そうね」


僧侶はすぐに、荷馬車の陰にいる村人たちへ駆け寄った


一人ずつ傷へ手を添える


淡い光が夕暮れの街道を照らし、傷がゆっくりと閉じていく


勇者と魔法使いも、動けない村人へ肩を貸した


やがて全員の無事を確かめると、僧侶は小さく息を吐いた


村人「……ありがとう。本当に助かった」


魔法使いは、ほんの少しだけ笑った


僧侶はその光景を静かに見つめる


胸の奥が、少しだけ温かくなった


夜


教会に戻った僧侶は、机の上に籠を置いた


青い花が、静かに揺れている


夕暮れの街道で見た光景が、頭から離れなかった


怪我人の前に立った勇者


文句を言いながらも、その背中を支えた魔法使い


そして、助けられた人たちの笑顔


自分一人では、あの人たちを救えなかった


けれど、三人なら――


僧侶は目を閉じる


祈るように


けれど、言葉にはしない


僧侶はゆっくりと目を開ける


部屋の隅に置いてある小さな鞄を見る


しばらく見つめてから、静かに立ち上がった


僧侶「……」


翌日


勇者と魔法使いは町を出ようとしていた


宿屋の主人に礼を言い、町の外へ向かう


その背中へ声が届いた


僧侶「待ってください!」


二人が振り返る


僧侶は小さな荷物を抱えて立っていた


勇者「どうしたの?」


僧侶は少し息を整え、笑った


僧侶「私も一緒に行きます」


勇者は少し驚いた顔をする


勇者「危険な旅になるかもよ?」


僧侶「……この町で待っているだけでは、助けられない人がいると知りました」


僧侶「昨日、私一人だったら、あの人たちを助けられませんでした」


僧侶「でも、お二人と一緒なら、もっと遠くにいる人にも手を伸ばせると思うんです」


僧侶「だから、私も一緒に行かせてください」


勇者は少しだけ黙った


やがて、穏やかに頷いた


勇者「そっか。うん、じゃあよろしく」


僧侶「はい、僧侶です。よろしくお願いします」


魔法使いは僧侶を見る


少しだけ間を置いて、前を向いた


魔法使い「じゃ、行くわよ」


返事を待たずに歩き出す


勇者は苦笑いしながら、その背中を追う


僧侶も小さく笑い、その後に続いた


高く昇った太陽は、三人の姿を静かに見下ろしていた

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