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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」2章7話

太陽が少し傾いた頃、勇者は町へ辿り着いた


旅に出て数日


見慣れない町並みを眺めながら、小さく息を吐く


勇者「まずは宿だな」


宿を見つけると部屋を借り、荷物だけを置いた


窓の外を見る


夕飯にはまだ少し時間がある


勇者は町へ出た


石畳の道を歩き、露店を眺めながら進む


やがて、一軒の建物が目に入った


冒険者ギルド


勇者「どんな依頼があるんだろ」


勇者は扉を開ける


掲示板には護衛や討伐、荷物運びなど様々な依頼が並んでいた


一枚ずつ眺めていると、外から年配の女性の声が聞こえた


年配の女性「誰か、この荷車を……」


勇者は振り返る


そのまま外へ出ると、女性へ歩み寄った


勇者「それ、手伝いますよ」


荷車を押しながら坂道をゆっくり登っていく


女性は何度も礼を言っていた


その様子を、一人の少女が静かに目で追っていた


少女「……」


勇者は何事もなかったように歩き去っていく


少女はその背中を少しだけ見送った


その夜


宿の食堂


勇者は一人、静かに夕食を食べていた


宿の主人が声を掛ける


主人「見ない顔だね、旅人かい?」


勇者「はい」


主人「どこまで行くんだい?」


勇者「……魔王城まで」


主人の手が少し止まる


主人「……そうか。勇者が旅に出たって話は聞いてたが、本当だったんだな」


勇者は少し照れ臭そうに笑う


勇者「そうみたいです」


主人も小さく笑った


主人「まぁ、気を付けてな」


勇者「ええ、ありがとうございます」


少し離れた席で食事をしていた少女は、青年へ静かに視線を向ける


少女(あの人が……勇者?)


昼間、荷車を押していた青年


その姿が頭に浮かんだ


翌日


勇者は町のあちこちで手伝いをしていた


井戸から水を運び、薪を割り


子どもたちと笑い合っている


少女はまた勇者を見つけた


少女「……また」


勇者へ歩み寄る


少女「なんで、そんなことしてるの?」


勇者は振り返る


勇者「あぁ、困ってそうだったから」


少女「それだけ?」


勇者「うん」


少女は少しだけ勇者を見つめる


少女「……変なの」


勇者は笑った


勇者「そうか?」


少女は答えず、その場を後にした


その夜


部屋で本を読んでいると、外から乾いた音が聞こえた


カンッ、カンッ


一定の間隔で鳴る剣の音


少女は窓から外を見る


宿の裏


月明かりの下で勇者が一人、剣を振っていた


何度も、何度も


少女は外へ出る


勇者は気付き、剣を止めた


勇者「ごめんね、起こしちゃった?」


少女「いや、別に」


少し沈黙が流れる


少女「それ、毎日やってるの?」


勇者「……あぁ」


少女「勇者なのに?」


勇者は少しだけ驚いた表情を浮かべた


しかし、すぐに穏やかな笑顔へ戻る


勇者「……勇者だから」


そう言うと、再び剣を構えた


少女は黙ってその姿を見つめていた


三日目


町で二人はすれ違う


勇者「おはよう」


少女「……おはよう」


去り際、勇者は立ち止まり、小さく言った


勇者「あ、俺、明日の朝、この町を出ようと思うんだ」


少女は静かに頷く


少女「そっか」


勇者「世話になったね」


勇者は少し笑い、手を軽く上げ、そのまま歩いて行った


少女はその背中を見送る


何も言わなかった


その夜


少女は部屋で本を開いていた


けれど、何度同じ行を読んでも、内容が頭に入ってこない


窓の外には、町の出口へ続く道が見えた


昼間、人々に囲まれて笑っていた勇者


夜、一人で剣を振っていた勇者


少女は本を閉じる


そして、部屋の隅に置かれた杖へ目を向けた


翌朝


宿を出た勇者は、町の出口へ向かって歩いていた


朝もやの中、厚い雲の向こうから朝日が少しずつ顔を覗かせている


町の出口


そこには、小さな荷物を肩へ掛けた少女が立っていた


勇者は思わず足を止める


勇者「その荷物……」


少女は勇者を見つめる


少女「じゃあ、私も行くから」


勇者は少し戸惑いながら笑う


勇者「え、いや、危険かもしれないよ?」


少女は肩をすくめる


少女「あなた、見ていると少し危なっかしいのよね」


勇者は思わず笑った


勇者「俺、勇者なのに?」


少女も小さく笑う


少女「……勇者だから」


少し歩いたところで、少女が口を開いた


魔法使い「あ、私、魔法使いっていうの。少しだけ魔法が使えるわ。よろしくね」


勇者は微笑む


勇者「あー、うん。俺は勇者。よろしく」


魔法使い「うん。知ってる」


二人は顔を見合わせ、小さく笑った


そして魔法使いは振り返ることなく、ずんずん先へ進んでいく


勇者は思わず苦笑いしながら、その背中を追い掛ける


厚い雲は少しずつ途切れ、その隙間から差し込んだ朝の光が、二人の進む道をやさしく照らしていた

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