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勇者「そろそろ出勤か」  作者: 小鳥遊 佑鷹


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勇者「そろそろ出勤か」2章4話

僧侶「……もう朝ですね」


朝日が小さな窓から部屋へ差し込む


私は、ゆっくりと身体を起こした


机の上には、使いかけの薬草と新しい包帯


そして、一冊の革の手帳


私は首元にある赤いネックレスを両手で包む


やっぱり少しだけ冷たい


目を閉じる


言葉にはしない


祈るだけだった


今日も誰かを救えますように


静かな時間が流れる


魔王城の近くに教会はない


もちろん女神像もない


それでも私は毎朝祈る


誰かのために


目を開ける


朝日が部屋を照らしていた


私は小さく微笑み、鞄を肩へ掛ける


僧侶「……行かないと」


扉を開けた


今日も沢山の人が待っている


診療所には朝から列ができていた


腕を怪我した子ども


腰を痛めた老人


熱を出した魔族


泣いている母親


私は一人ずつ笑顔で迎える


僧侶「おはようございます」


僧侶「すぐ終わりますからね、大丈夫ですよ」


優しく傷へ手を添える


光が溢れる


傷がゆっくり閉じていく


子どもが笑ってくれた


……よかった


母親は何度も頭を下げる


僧侶「大丈夫ですよ」


僧侶「元気が一番ですから」


それだけ言って送り出した


休む暇はなかった


次の患者、また次


昼になっても終わらない


食事を運んできた魔族が言う


魔族「少し休んだらどうですか僧侶様?」


私は笑って首を振る


僧侶「まだまだ私は大丈夫ですよ」


……本当は少し疲れていた


でも、待っている人がいる


その人たちを放ってはおけなかった


午後になっても人は途切れない


ふと、一人の若い魔族が口を開いた


魔族「……どうして」


魔族「どうして、魔族まで治してくれるんですか?」


私は手を止め、少しだけ考えた


そして、自然に笑うことができた


僧侶「困っている人を助けるのに、理由なんていりませんから」


僧侶「人も魔族も、きっと苦しいのは同じですから」


魔族は少し驚いた顔をした


そんな大したことなんて、私はしていないの


私はまた治療を続ける


契約したあの日


私は、戦士と彼の村を守りたいと思っていた


その気持ちは今も変わらない


けれど、理由はそれだけではなくなっていた


目の前で苦しんでいる人がいる


それだけで、助ける理由としては十分だった


魔族を救うことも、人を救うことも


私にとっては何も変わらなかった


だから、もう少し頑張ろうと思ってしまう


日が沈み始める頃


ようやく最後の患者を見送る


診療所の外へ出る


魔王城の方から吹き下ろす冷たい風が、頬を撫でた


その時だった


一人の骸骨が視界の端で静かに通り過ぎる


黒い鎧、腰の剣、歩く姿


私は思わず目で追ってしまった


僧侶「……え?」


その歩き方が、あの人によく似ていた


けれど――


骸骨は何も語らず、遠ざかっていく


僧侶「気のせい……でしょうか」


そのまま診療所へ戻る


夜、蝋燭へ火を灯す


机にいつもの手帳を広げた


今日の日付を書く


『今日もたくさんの人が笑ってくれました』


『小さな子が元気になりました』


『お花をいただきました』


『魔族のおばあさんが元気になって良かったです』


少しだけ手が止まる


書こうと思った


疲れたこと、眠いこと、少し咳が出ること、腕が重いこと


でも、私は何も書かなかった


ペンを置く


今日も、誰かを救うことができた


それだけで十分だと、自分に言い聞かせた


手帳をそっと閉じる


蝋燭の火が静かに揺れる


窓の外には夜空が広がっていた


私は今日も祈る


誰かの幸せを、誰かの笑顔を


そして、あの人が笑っていられますように


小さく目を閉じる


誰にも聞こえない祈りは、静かな夜へ溶けていった

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