八十六話 初心者狩りと政府の用事
——試験開始一時間後
「七日生き残るだけ? 隠れてるだけで終わるぜ。あ〜ぁ、緩い緩い。」
ある受験者は気楽に考える。
「なんか、英雄エリックとか、コウ聖騎士団長とかいるらしいけど、出会わなきゃ楽勝でしょ。」
「そうだとォ〜いいねェ〜。」
突然、真横から間延びした声が聞こえる。
「誰だ? ゲホゲホ。」
突然、受験者は咳き込み、立っていられなくなる
。
「政府がァ〜雑魚をォ〜簡単に合格させると思ってるのかいィ〜?」
受験者がその声を聞くことはなかった。
彼らが行う重要な仕事、それは……
——受験者の間引きだ。
「アッシの名はナタール。受験者を——」
「ナタール君。もう死んでるぞ。」
サザンがゴミを見るような目で受験者を見下す。
「アレェ〜? もう死んだ? 試験を舐められたもんだねェ〜。俺ェ〜一人で喋ってたァ〜?」
ナタールはサングラスを着け直す。
「ロウドルとラッキーマンは反対側の間引きを行ってます。」
「了ォ〜解ィ〜。あっ、早速雑魚が湧いたよォ〜。」
その言葉と共に、ナタールの体の後ろ側の景色が透けて見えるようになった。
——煙化
魔法発動中のナタールの体は煙そのもの、攻撃を当てることは不可能に近い。
「おい! 一人煙になったぞ!! まずは女の方を狙え。」
受験者たちはサザンに向かって集中的に魔法を放つ。
「蒼塊」
サザンは自分に来た攻撃をすべて凍らせた。
「“神の属性使い”にお前らゴミの相手をしている場合ではない。私はこの仕事が成功すれば神星護衛団に配属される予定なのよ。」
サザンは片腕を蒼氷で包む。
「か、神の属性使い!? 特定の属性以外すべてを捨てた一点特化型……そしてその名を持つ神——」
「そうよ? わざわざ教えてくれてありがとう。痛まずに送ってあげる。」
——氷壊氷壊
サザンの拳が受験者を襲う。
拳が触れたところから一気に凍りつき、一つの氷塊となってしまった。
「一人始末。」
「こっちもォ〜ちょうど終わったよォ〜。」
ナタールは白目を剥いてぐったりとしている受験者を投げ捨てて言う。
「いい、アートだねェ〜。」
——バギャ!
ナタールは氷漬けにされた人を蹴り飛ばす。
脆くなった体が砕け散る。
「せっかくぎりぎり生かしてたのに、ナタール君。君ってやつは。」
サザンは頭を抱える。
「いいじゃないのォ〜。雑魚はどうせェ〜また湧く。」
「まぁ、そうね。」
ナタールとサザンは何事もなかったようにその場を去った。
——エリック一行
「雑木林がどこまでも広がってる……。受験者がどこから襲ってくるかわからない。」
リサは用心深く進む。
エリックの視線はどこか刺々しい。
(様子がおかしい……大丈夫なのかな?)
リサはエリックの顔を覗き込んだりしてみたが、無反応だ。
ある地点で、エリックは足を止めた。
「ごめん。僕、先に用事を済ませなきゃ。」
エリックは無理して笑っていた。
「用事? 試験中なのに?」
リサは強い口調で言葉を刺す。
「さっきからずっと変。一体、エリックは何を一人で抱えてるの?」
「リサ殿の言う通りだ。一人で大きな問題が解決することなんてない。そのために拙者らは——」
「ムラホシ、頼む。僕は政府の命令を終わらせる。」
エリックはルンタの言葉を遮って一人で飛び出していった。
「エリック!!」
リサは大きな声で呼び止める……が、振り返ることはなかった。
——ザッザッ
エリックは足を速める。
(ごめん、リサ。終わったらちゃんと説明するから……。)
エリックは心の中で言い訳をする。
(もう二度と悪魔に理不尽に命を奪わせない。)
エリックは通りすがりの受験者が二度見するくらい全力で走る。
——走る、走る、走る。
——エリックは巨悪に向かって矢のようにまっすぐに向かった。
——試験会場西側
「ロウドル! 狩り楽すぎて草。スロット三連で大当たりよ。ウェーイ。」
ラッキーマンはピースを浮かべながらニコニコだ。
「調子に乗るな、若造。そう言う奴から墓に帰る。」
「はいはい。爺さん。」
ラッキーマンは適当に返事する。
「今回の受験者リストを確認したが……第45グループ、あれは遭遇したら逃げろ。」
ロウドルは紙の資料を取り出し、あるグループを指差す。
——1番上にはエリックの名前……。
「へぇ〜。十年前の英雄ね〜。スロットが当たれば勝てるっしょ。それに——」
ラッキーマンはニヤニヤ笑う。
「俺たちが勝てれば大金星。こんなクソつまんねー仕事からも解放される。」
ラッキーマンはロウドルを真剣な目で見つめる。
「それは一理ある……が、死に急ぎたいならな。」
——ガサ
ロウドルは茂みが揺れる音を聞き逃さなかった。
「雑魚が隠れている。ラッキー、回せ。」
「ウィース。」
ラッキーマンは上半身裸になると、体にスロットがきれいに埋め込まれている。
——運任せ
体の中心にあるスロットが成功すると、何かいいことが起こる……まさに誰も何が起きるかわからない運試し。
——つまり
「777キタァ!!! ざんね〜ん。お前ら死ぬね。」
——ゴゴゴゴ!!
上から隕石が受験者目掛けて“たまたま”降ってくる。
——ドドド!!
受験者が隠れていた茂み一帯はクレーターとなってしまった。
「あははははは!! これこれ! 気持ちィィ!!」
ラッキーマンは腹を抱えて笑う。
——ラッキーマンはまだ知らない。自分を超えるラッキーマンが存在することを……。
「次回予告のォ~コーナーだねェ。」
「ナタール、毎年の受験者は大体この弱さなのか?」
「まァ~大体8割くらいは間引いてるねェ~。」
「あははは!!!また当たった。なんでみんな運悪いんだろう?」
「お前さんたち。例年の試験と同じにするんでないぞ?」
「なんで?」
「異端児が数名潜んでいる。油断するで――」
「めんど!!どうせぶっ飛ばせばいいんでしょ!」
「次回ィ~」
「「「ジェットと危険な著書」」」
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