八十三話 夢の果てと試験前夜
——ジュー。
魚釣り対決に負けてしまったエリックは、焚き火を作り、メルマの家の裏で釣った魚を焼いていた。
(チェ。なんで僕がやらないといけないんだよ……。)
エリックは太々しい態度で魚をひっくり返し、焼き目を確認する。
「エリック殿、魚を焼くのが上手いな。」
ルンタはエリックの向かい側の木の椅子に座る。
『だ……んな。目が……。』
「あっはは! そうだよな。剣からしたらずっと上下に振られて——熱っ!」
エリックの手に火の粉が飛ぶ。
「……っ!」
肺の空気をすべて吐き出すように息を吹きかけ、なんとか熱さを紛らわせる。
「おっ、いい焼き加減か?」
エリックは程よく黒くなった焼き魚を火から引き上げる。
モヒカンが釣った七十匹は、五匹だけ今日の食卓に回し、残りは……なんとかするだろう。
「あ!美味しそうじゃん!エリックやるー!」
リサは食器や……酒瓶をもって現れる。
(絶対飲む気だ。)
エリックは酒への執念に呆れ混じりに感服する。
「頑張ってるね〜兄さん、調味料は持ってきたよ。」
「米も持ってきました!」
ムラホシとモヒカンが両手一杯に抱えたものを降ろす。
「よし、あと二本……。」
エリックの目は真剣そのもの、近づきずらいオーラを纏っていた。
「ムラホシ〜おかえり、魚BBQ楽しみ♪」
メルマは焼く野菜を持ってくる。
——パセリはない
「よっしゃ!全部焼けた!あ、ママ野菜焼いちゃっていいよ。先に魚から食べるから。」
そしてエリックは“いただきます”を早口で吐き出し湯気がたちのぼる魚に喰らいつく。
——魚の身が口の中で溶けていく。
「うまぁぁ!!お前らも——」
「美味い。」
「やばいよこれ!?」
「ア゛〜ぁしみるぅ。」
エリックの焼き加減で数倍にも美味しくなった魚にエリック達は感動する。
——なお、一名のエルフはあまりの美味しさに心が溶けている模様……。
「兄さんはさ、楽園を目指してるんだっけ?リサさんから聞いたよ。」
ムラホシがエリックの分の魚を横取りする。
「まぁな。」
エリックは瞬間的に魚を取り返し話を続ける。
「本当にあるかはわからないのに?」
「あぁ。だって男のロマンだろ?」
エリックはニヤリと笑う。
「本当、男のロマン大好きだなぁ。」
ムラホシはまたエリックの魚を狙う。
——ザッ!
エリックはまたもや取り返す。
「さっきから反応早くない?」
「絶対僕の魚は渡さない。」
エリックのケチな態度にムラホシは笑うしかなかった。
「楽園か、拙者なら罪の荷台を降ろしてくれる魔法がいいな。」
ルンタはぼそっと言ってビールを飲む。
「よし、お前らがもし楽園にたどり着いたらどんな魔法を願うか言い合おうぜ!」
エリックはお酒を一口飲んでまずムラホシを指名する。
「え〜俺?うーん、“一生遊んで暮らせるようになる魔法”かな?」
「いいねぇ〜。」
リサは札束の風呂に埋もれる自分を想像してニヤつく。
「だけど、今達成しちゃうとつまらないから、“使命”を果たしてからがいいかなぁ。」
ムラホシは“どうかな?”とでも言うようにエリックを見つめる。
「うーん、よくわかんね☆じゃあ次モヒカン。」
エリックは何も考えずにモヒカンにパスする。
「お、俺は……。」
モヒカンは頭を抱えて悩む。
「やっぱり、何も叶えないがいいかもしれないな。」
「く、詳しく。」
リサは冷や汗をかく。
「俺がそれを叶えるってことは誰かを犠牲にしなきゃいけなくなる……。」
モヒカンは突然深いことを言い出す。
リサは次に言おうとしていた“酒が滝のように出る魔法”がとっても言い辛くなる。
「そうなるなら、そんなの楽園じゃないと思うんですけどね?」
「ふ、深い。私の魔法がしょうもなくなるから辞めて!?せめて最後に言って。」
リサは言うことを辞退した。
「ママは?何を願いたい?」
「え〜?私?」
メルマは目を閉じる。
「やっぱり……“どんな条件でも幸せに暮らせる”かな?」
「流石ママ、おっとな〜。」
「エリックバカにしないでよね。」
メルマはお酒を軽く口に運んだ。
(楽園に行っても私は一生叶わないかもしれない。私には終わらせないと——)
「次は、僕か。」
エリックの声でメルマはその先を考えるのは辞めた。
「そんなのは僕は決まってるさ——」
エリックは“楽園に願うこと”を口にした。
——ザァァ
涼しい夜風が吹く。
「え?嘘でしょ。よくその順番で言えたね。」
リサはエリックの図太さに呆れる。
「うは——す、すまぬ。別に夢を笑いたい訳じゃない。その、うははは。世界を救った英雄がそんな幼稚なことを願うとは。」
ルンタは笑いを堪えきれない。
『バカなのか!?逆に応援したいわ。』
クサナギでさえ呆れる。
「兄さん、一つ言う。実在しなかったらどうすんだ?」
ムラホシは真剣な顔で言う。
「そん時は、そん時だ。ケジメがつくだけ。」
エリックは呑気にあくびを噛み殺す。
「し、師匠のお友達はこんなにロマンチストとは——素晴らしい!」
モヒカンの目はキラキラする。
「素晴らしい……のか?」
ムラホシはため息を吐く。
「やっぱり、子供の空想か。」
エリックは周りの反応に落胆する。
『「「「そんなことはない!」」」』
みんなは声が揃って気まずそうにする。
「え?」
「いや、“え?”って顔しても困るよ……確かにまだエリックと一緒だった期間は短いけどさ。」
リサはエリックの額をデコピンする。
「痛った。」
エリックは額をさする。
「だが、誰もお主の夢は笑わない。笑う奴がいたら拙者が切り落とす。」
ルンタはクサナギを構えて言う。
「エリックが叶えるまで俺は応援してるよ。だから忘れんなよ?その夢。」
「あぁ。ありがとう。」
エリックは優しく微笑んだ。
——ズビズビ
メルマは溢れ出る涙をハンカチで拭く。
「よ゛かったね〜エリックゥ〜。私も応援するからね〜。」
メルマはエリックに抱きつく。
「く、苦しい。」
だけどエリックの瞳は幸せに満ちていた。
「エリックゥ〜本当素敵な夢だよね。」
「ありがとうママ。と言うかリサは何を願おうとしたの?辞退してたけど?」
「ふぇ!?あ、えっと〜」
「リサ殿笑いはしない。夢を笑うなんてさい——」
「お酒が滝のように出る魔法っ」
「まじかお前、よく僕のことバカにできたな。うひうひひひ。」
「笑ってるんじゃないの!ウヒウヒ笑ってるじゃない!」
「英雄なのに笑い方……。」
「次回」
「「「原初と旅立ち」」」
——エリック一行そろそろ試験へ




