八十二話 もやしと政府の犬
——アバシリ教会大聖堂
——ルリィィィ……。
大聖堂の中に軽やかな音が響く。
コムギは誰もいない大聖堂の中一人でオルガンを弾いてた。
鍵盤を押す指先は流れる小川のように美しい。
——ドォォォ。
正面入り口の扉が開く。
「綺麗な音色だね。数日でこんなに上手になるなんて凄いなぁ。」
コウはオルガンを弾くのをやめたコムギの隣に座る。
「ふぁ?あ、ありがとうございます。コウ様。」
コムギは嬉しさを隠しきれず竜の尻尾をブンブン振る。
「やっと、逃げられたぁ゛〜アイリさんの地獄の特訓キツすぎるヨォ〜、模擬戦でぇ〜勝てずにボッコボコにされるし〜死ぬぅ〜。」
「あらぁ〜。もやし様ぁ特訓から逃げ出しちゃって〜♡英雄エリックを倒すためには、こんなの準備運動ですよ〜♡」
アイリは満面の笑みだ。
——腕のチェンソーがブウウンとなっている。
(もう嫌だぁぁぁあ死ぬぅうう!!)
『ほら、いけもやし。楽園じゃないか?もやしの好みだろ?』
暴力の悪魔は意地悪く言う。
「タイプだけど!?」
「何……♡?」
アイリがチェンソーを頬に寄せて恍惚な顔をする。
「なんでもありません。アイリ様の特訓は素晴らしいと思います。」
コウは死んだ魚のような顔をしてアイリに連行されていった。
——神星護衛団本部
「よく来てくれた。ライラ、ブリッツ。」
エルシィは口元の包帯を巻き直す。
「あァ。アタリメェだろ?オレはエルシィの言うことならなんでも聞くぜ!」
爆紅石ライラ=マドゥースは豪快に笑って言う。
ライラは神星護衛団の軍服を羽織り胸元を崩している。
「ライラさん。幾ら同い年だからって超星石にはしっかり敬語を使ってください。あ〜ぁ胃がいてぇ。」
黒曜石ブリッツ=エドワードは胃を手でさする。
「大丈夫か!?ブリッツ!胃薬なら持ってるぞ!」
「それは、ありがたいですが、うるさいです。」
ライラはシュンとなって席に大人しく座る。
「さて、本題だが政府の令でホッカイドウに三人で渡る。だが……。」
エルシィはすこし恥ずかしそうに声を小さくする。
「その、そのな……限定パフェがあってな……ど、どうしても——」
「いいぜ!やったー!!」
ライラは子供のようにはしゃぐ。
「お金なら私が出しますので三人で食べましょう。」
ブリッツはスーツみたいな軍服のネクタイを絞る。
「あ……ありがとう。」
エルシィは真っ赤の顔を隠した。
——エリック一行は……。
「ヒャッホー!!冷てぇ!!」
試験開始まで残り三日となったエリック達は修行をするのでもなく——
近くの川で遊んでいた。
「えいっ!」
水着姿のリサはエリックに容赦なく水をぶっかける。
「このやろー!やったなぁ?」
エリックは魔法で水を操る。
それをリサに向かって無数の水鉄砲として放つ。
「ギャー冷たい!」
水はリサの体だけではなく近くで糸のハンモックで昼寝をしていたムラホシやモヒカンと鍛錬をしていたルンタにもぶっかかる。
「「「やったなぁ?」」」
三人は水をかけた張本人を追いかける。
エリックは案の定フルボッコにされ河岸で伸びていた。
「なぁ、ルンタ、その胸についたマーク……。」
ムラホシは話を切り出す。
「あぁ、政府の犬である印だな。」
ルンタは皮肉混じりに言う。
「政府の魔族との戦いのために生きたくもなかったのに甦らされ、それが終わったら大勢の仲間を捨てた……。」
ムラホシ達は息をするのも忘れてルンタの話を聞く。
「拙者は辛うじてスクラップを逃れたが……あの時の罪を永遠に背負って戦わなくちゃいけぬ……。」
握る拳は重い罪も混じっていてとても硬い。
「だから、政府は嫌いだ。」
ルンタはそう言って鍛錬に戻っていった。
「……ルンタとは長くいたはずなのに全然知らなかった。」
リサはルンタの過去を飲み込めていない。
「……ぼ……く……達は政府のお陰で生きていけてるんだけどな。」
エリックはフラフラと立ち上がる。
そして何故か枝を集め始める。
「妹もお世話になってるしな。」
「え?魔法軍も政府の管轄なの?」
急に魚を釣り始めたエリックに合わせてリサ達は魚を釣り始める。
「あぁ。日本政府の管轄だけどな。ルンタが作られたのはそのさらに上世界政府。世界政府を怒らせると怖いぞ〜。」
エリックの竿に手応えが沸く。
「ウォォォォ!!」
エリックは全力で竿を引く。
——ピチピチ
小指くらいの小さな魚が跳ねる。
「ププ。ちっさ。私の方がでっかいの釣れると思うよ?」
「うるさいぞ。勝負だ!」
「いいわねぇ。望むところよ!あ、勿論ムラホシとモヒカンも参加ね?」
((え?))
こうして呑気に釣ろうとしていた二人はエリックとリサの戦いに巻き込まれることになってしまった……。
——1時間後
「ククク。クハハハ!!」
エリックが魔王のように笑う。
「悪いな僕の勝ちだ。」
エリックはニヤリと笑う。
「さぁ数えるね。」
ムラホシがあくびを噛み殺しながら魔法でちゃっちゃと数える。
「えっと、リサが十匹、僕が十五匹……!?」
ムラホシはモヒカンのバケツを思わず二度見した。
「モ、モヒカンが七十匹、エリックが一匹……勝者モヒカン。」
「いや川の生態系どーなってんのよ!?」
リサが目を丸くする。
「あのぉ〜」
「モヒカンお前、やったな?」
「師匠そんな姑息なことしませんよ。」
モヒカンは必死に否定する。
論外のエリックは完全に蚊帳の外だ。
「僕にも突っ込んで〜!」
エリックは泣き叫んだ。
——試験開始まであと二日と半日。
「アハハハ!ライラだぜ!仕事とはいえ、ホッカイドウに行けるなんてラッキー!」
「ライラさん……令はそんな軽いノリで行くところじゃありませんよ?」
「いーだろ?別に。」
「ライラ。」
「は、はい!どうしたんだエルシィ?」
「……なんか楽しそうだなって。」
「「え?」」
「私も混ぜて……。」
「ちょっと変な空気になったところで次回!」
「「「夢の果てと試験前夜」」」




