七十九話 動揺と争いのない世界
——あのクソ親父、最期に俺に向かって何て言ったと思う?
フェンリルは愉快そうに言う。
——涙目で必死に『頼む』だなんて、命乞いしやがったんだォ!!! だからよォ……。
フェンリルは声を溜める。
それと共に巨人の国国内の空気とリビングの空気が凍りついた。
——一思いにハねてやったのさア!!!
フェンリルの言葉に、エリックたちは息を呑む。
——この国の王のくせに、残された泥の始末を全部俺に押し付けやがってよ!!!!
フェンリルの目から、一筋の涙が流れる。
——グハハハハ!!! 最高に気分がいいぜえ!!!
フェンリルは天に向かって、豪快に笑った。
——以上、速報でした……。
ニュースキャスターは、あまりの凄惨さに言葉を失った。
「嫌だよ?こんな奴に会うの?」
リサはソファーでうずくまってテレビを見ないようにする。
「す、すげぇぇぇぇぇええええ!!!」
エリックはリサとは違って少年のように目を輝かせる。
「バカなの?エリック!」
リサは涙目でエリックにしがみつく。
「あんな、”涙目で必死に『頼む』だなんて、命乞いしやがったんだォ!!!”とか言っちゃってるよ?絶対頭のネジがぶっ飛んでるよ!?」
リサは勢いでエリックを連続ビンタする。
「どうせ、巨人の国にはいくことになろうだけどさ?絶対あいつには会いたくないよ?絶対、絶対、ぜーったいにお断りね!!」
リサはエリックの後頭部を掴み、無理やりテレビから顔を逸らす。
「兄さん、確かに巨人は男のロマンかもしれないけど……控えめに病院に行ったほうがいいかな?」
ムラホシはエリックの感性に少し引く。
「そうだ……べ、別の番組を見よう。」
リサはテレビのチャンネルを変えた。
――世界のお手本。ウィーンランド家特集
テロップが一瞬流れる。
——世界でも有数の大貴族ウィーンランド家はイギリスウィーンランド領に存在し“争いのない世界”を目指す——
「へぇ〜そんな貴族もいるんだぁ〜」
リサは貴族の優雅な暮らしを想像する。
「羨ましいなぁ〜」
リサは頬杖をつく。
「私がこんなアホな英雄と旅している間に毎日美味しいもの食べて、ゴロゴロして……生まれ変わったら貴族になりたいなぁ〜」
「美味いものなら拙者が作れる。」
何に張り合ってかルンタが割り込む。
——今日はウィーンランド家当主チャールズさんにインタビューに成功しましたのでその映像を……
「「どうぞ」」
エリックとリサは司会に続けて復唱する。
——「初めまして。私はウィーンランド家当主チャールズウィーンランドです。」
その角度、姿勢、動作。
どれも一切の無駄がない。
流石はウィーンランド家の当主。
その所作は、エリックたちには到底真似できないほど美しかった。
「エリックもチャールズさんみたいに礼儀正しければな〜。」
「じゃあいつも通りだ。」
エリックはふっと格好をつける。
「「「……。」」」
リサ達は聞こえなかったことにした。
——“争いのない世界”とはなんですか?
現地のリポーターがチャールズにマイクを向ける。
——“争いのない世界”を語る上で大切なのは、どうして人類が争うかから知る必要がありますね。
チャールズは淀みなく答える。
——人類が争う理由……貧困、差別、身分の違いを理解できないからだと思います。
チャールズは指で数えながら言う。
——ですから領民にはその違いを教育の一環として取り入れています。
チャールズは実際の教科書を見せつつ説明する。
——“同じものは存在しない、違うものを受け入れなくてはいけない”そういった活動が今のウィーンランド領を作っています。
チャールズは教科書を本棚にしまった。
——ありがとうございます……深すぎてメモしちゃいました……。
リポーターのお茶目な態度にリサはクスッと笑う。
——次の質問です。“争いのない世界”を作るきっかけはありますか?
——それは……
チャールズは言葉を詰まらせる。
目から寂しさが溢れる。
——すいません……実は妻が関係してまして……私の妻、エリーヌ=ウィーンランドが私を置いて逝ってしまった時がきっかけです。
チャールズの悲しみ触れてエリック達の気持ちがシュンとなる。
——私の政治をよく思わない人によって私の妻の命は奪われた……。
チャールズは窓から空を見る。
——よく思わないなら正々堂々と私に言って欲しかった……。
「そうだ!そうだ!チャールズが可哀想だ!」
エリックがソファーでふんぞりかえる。
一体どこの立場だろう……?
——態々大切な妻を殺さなくても……。
エリックの態度をよそにチャールズのインタビューは進む、
——その時に思ったのです“二度と妻のような目に遭わせない”……と
チャールズは拳をギュッと握る。
——そこから私の考えがまとまったような気がします。
——チャールズさんにそんな悲しい過去があるなんて……その心意気全人類のお手本のようですね……。
リポーターは感動で声が延びる。
——さて最後の質問です。これは都市伝説的なやつなんですけど“第二令嬢が存在していた?”って言うものですがこれは事実ですか?
「「「「……!?」」」」
リポーターのタブーとも言える質問にエリック達は驚く。
ウィーンランド家の都市伝説……失われた第二令嬢
——第一令嬢エリーヌ=ウィーンランドそして第三令嬢スザンヌ=ウィーンランドの間から抜けた第二令嬢の噂はエリック達でも知っているくらいのネタだった。
——はは、隠すつもりはなかったんですけどね……都市伝説として広まるのも少し面白かったもので……
チャールズは笑う。
——第二令嬢、——=ウィーンランドはある日を境に姿を消してしまいました。
——ガタガタ
皿が震える。
その音に掻き消され、エリックたちには肝心の名前が聞き取れなかった。
メルマは、俯いたまま何も言わなかった。
——私たちは全力を尽くして捜索しています。見かけた方はぜひ私の方までよろしくお願いします。
チャールズは誠意を込めて頭を下げる。
「平民に頭を下げる領主初めて見た。」
モヒカンはアールグレイティーを口に含む。
「あぁ、“世界のお手本だからな”。」
ムラホシはニッと笑う。
「さ、さぁ夕飯ができたわよ……。」
メルマは笑った。
いつものように。
ただ――その手だけは、まだ震えていた。
「はぁ……。」
「どうしたの作者?浮かない顔をしちゃって……」
「最近動きが小さくてさ?エリック、みんなに読まれないと悲しいだろ?」
「まぁそうだけどさ?いやぁまさかああなるとはな。」
「おいエリックネタバレになるだろ!?」
「この一場面に盛り込みすぎだぞ作者……。」
「エリック!?それ以上は……。」
「ニュースが――」
――ゴフ
「粛清!!」
「ナイスリサ!」
「次回」
「「「食卓と生まれて初めて」」」
※ここまで読んでくださってありがとうございます!
最近ちょっぴり伸び悩んでいて、作者は地味に悔しがっております……!笑
「もっと読んでくれぇぇぇ!!」ということで、もし面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると嬉しいです!
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